最下階:始まりの間2
シュルルッ…
こころなしか地を這う音が速さを増す。
等間隔の階段とはいえ、声と音の位置だけを頼りに暗闇で駆け下りる――
近衛は、亀姫に遅れを取らぬので精一杯だった。
本当に一本道なのかどうかも知れない場所。
亀姫を見失う不安に背を押され、近衛は情けない声で亀姫に呼びかけた。
「亀姫様…」
「なんですの?」
「本当に、自分達だけで最下層に向かっていいのでしょうか。神との戦いになるならば、やはり陛下に来ていただくべきだったのでは…」
「この者が言うのが確かならば、陛下もまた最上階の天守閣で戦闘となっているはずですわ」
「それはそうですが…。もし戦闘になるより先に陛下にお知らせできれば…」
「戦闘になるより先に着けばね。ですけど、もし間に合わなければ最悪の事態ですのよ」
「……神魔戦で、その大将首が偽者だなんて。悪い冗談としか思えませんよ」
「ですが本当なんです! 最上階にいるのは確かに神族ですが、それは偽物…! 攻撃力に長けた戦神なのです!」
「この神界に、戦神なんてものがいるとは思いませんでしたわ」
「…普段は神の補佐をしているだけの、目立たぬ者です」
「補佐…側近のようなものでしょうか?」
「そうですね。護衛であり、側近であり…そして神に万一があれば、その者が一時的な後継ともなります」
「では、その方は偽者といっても“次代の継承者”ですのね」
「いいえ、代理となるだけ。……神に万一があった時には子を宿し、その子を守りながら、神に育てるのです」
「……戦神とは、女性神なのですか」
「はい。その役割から、ワタシ共は彼女を戦神妃と呼んでいますが――
「! 止まって、静かに!!」
突然、亀姫の制止の声が響く。
急停止した足は少し滑り、段を踏み外すぎりぎりの所で止まった。崩れたバランスを取るために神従者を降ろすと、近衛も気配を探った。
耳が痛いほどの静寂の中、上方から気が流れ込んでくるのを感じる。
(……浄気が流れてきた? 亀姫様は、この僅かな気を察知したのだろうか)
「……獣達が走っているようですわ。この浄気といい……どうしたのかしら、獣王は陛下とご一緒ではなかったの?」
「獣…?」
「ええ。足音ではないのですけれど、その振動を感じますの。浄気にやられた獣が撤退したのかもしれませんわ」
「では、陛下と偽者…いえ、戦神妃の戦が始まってしまったのでしょうか」
「! なんてことだ…状況を確認している場合でもありません、急ぎましょう!」
「待ちなさい、あなたが走るより自分が担いだほうが早い! よく見えぬのです、こちらへ!」
「あの戦神妃の力は本物です……! このままでは魔王は絶対に負けてしまう! 早く!」
「!」
「ともかく駆け下りますわ。近衛は黙ってしっかりついていらっしゃい。神従者、あなたはその間に説明してもらいますわ」
「――陛下が絶対に負けるだなどと……ただの侮辱でしたら、許しませんのよ」




