塔へ4
「娘…ですか」
「あ、あの子は…純粋無垢な我が娘は、神に騙され堕とされたのです…っ! いえ、今思えば…私の安否を確認する可能性のある娘は、最初から狙われていたのかも…! 怖ろしい…あ、ああああ…っ!」
「堕とされた…? 落ち着いてください。それは一体…」
「……近衛。堕ちた天使の娘といえば…もしやあの娘ではなくて?」
「……ではまさか、天使殿の…?」
亀姫は、パラリと扇を僅かに広げ、近衛に口を寄せて囁いた。
口元を隠してそっと告げた意見だったが、近衛は動揺したのか普通の音量で返答してしまい……神従者の耳に、入ってしまった。
「娘を知って…!? 教えてくれ! 教えてください!! 娘は…あの子は今、どうしているのです!? まさか…!!」
「じ、自分の知っている天使の娘の事であれば、大丈夫です」
「! あなた方は魔族…つまり、あの子は魔族に捕まっているのか?! 」
「そ、それはそうですが。ですが天使殿は無事で……」
「それではわからない、ちゃんと答えてくれ!!!」
「まっ… あまり近づかないでくださ――…!
「落ち着き遊ばせ」
バシッ!!
「ぐっ!」
「ッ」
亀姫が術を行使すると、神従者と近衛はお互いに跳ね飛ばされるようにして離れた。
結界が二人の間に展開され、無理に引き離したのだ。
「…落ち着いてくださいまし。あなたがあの天使の父親だとして、今のところ娘の心配は不要ですわ」
「な、何故そう言い切れるのです…!」
「あの天使でしたら、今となってはこの神界よりもよほど…いいえ、この世界の中でもっとも安全な場所におりますもの」
「なにを… そんな場所が、どこにあると…?」
「………魔国・魔王殿。その中にある魔王陛下の御社殿。そこで誰一人の手出しも許されないまま、守られております」
「――………な…っ」
蒼ざめ、口を閉ざした神従者。
亀姫はパラリと扇を広げ、まっすぐにその目を見つめる。
「ですが、陛下がこの戦に負ければ、あの娘は魔王殿の中央に取り置かれることになりますわ。陛下の結界も寵愛もなしに、生き延びることは叶わないでしょう」
「ひ…っ」
「…私達は、神の策謀を出し抜くための材料をさがしていたところですの…。ねえ、貴方、何かご存知ではなくて?」
「そ、そんな。いくら神に欺かれ恨みを述べようとも、魔族に神を売り渡すなど出来るはずが……!」
「……売り渡すことになるような何かを、ご存知なのですね?」
「!」
「時間もありませんし、誘導したり拷問にかけて吐かせる真似もできませんの。自分で決めて答えてくださいませんこと?」
「神と魔王…… どちらが勝つほうが、貴方にとって都合がいいのかしら?」
「そ、れ……は…」
(………)
目を泳がせ、ぶつぶつと懺悔の言葉を繰り返していた神従者。
見限って立ち去ろうとする亀姫を見ると、慌ててその背に縋りついた。
「お、お教えしましょう…。神の策を。私に科せられた罪の仔細を……――ですからっ」
「……ええ。私たちの陛下なら、必ずや神を討ち、生き残ってくださいますわ」
「ぁ、ぁぁ……」
胸の前で硬直して鬱血するほど堅く組み締められた手は、ガクガクブルブルと震え続けていた。
--その祈りは、贖罪は、神を裏切る決意の表明にほかならないというのに




