塔へ3
縋るような目で、自らの無実を訴える神従者。
近衛が判断に悩み亀姫を伺い見ると、気の抜けた溜息をついている。
軽く丸めた指先で、近衛に構えを解いてよいと示してくる。
隠し武器のひとつもあるかとおもえば、ただの監獄。
神の意図を確証できたのはよい収穫だが、時間の惜しい時に面倒そうな人物に絡んでしまった。
近衛も期待はずれに溜息をつき、目の前で縋っている神族を見下ろした。
敵の敵は味方…とはいかない。だが、斬り捨てるにもあまりに哀れな存在。
「この神従者。“保険”といったところかしらね」
「ぅ、あぁぁ……っ」
「保険?」
「全てを魔族のせいにするシナリオ…だけれど万が一にも失策があっては困る。そうなった場合、“全てを彼の責任にする”という、保険」
「それはつまり、“こちらに裏を読まれて行動されてしまったときの裏の手”ということですよね? そこまでしますか…? 単にこの者が嘘をついて言い逃れしているのでは…」
「…っ! そんな、ワタシは決して嘘など…!」
「本当に謀反を企てて戦争を起こしたのが彼ならば、私達が乗り込んできた時に、神はまずこの方を私達に差し出して弁明すればよかったのですわ」
「…! そう、そうです! 神がそうしなかったことが、ワタシが嘘をついていない証拠でございます…!」
「……ここに隠しておいて、分が悪くなった場合に出す“罪人代理”ですか」
「神の分が悪くならなければ、誰にも知らせず殺される…。必要時には生々しい死を演出するために生かされているだけの、死刑囚ですわ」
「………っ。は、い…。もう、生きてまともに口を利くことは無いと、そう思っておりました…」
「……くそ。この戦争、見えない部分のやりとりが多すぎませんか。ただの斬り殺し合いよりも、タチが悪いように感じます」
「目に見えるものに惑わされず、見えない真意を読み…そこに対応しなければ勝てません。どのような戦であれ、勝機を得るにはそれくらいの策謀は必要ですわ」
「もしも相手の策を、読み間違えたら…?」
「嵌められて、掌で踊らされるのですわ」
「……神は本当に、自分達を盤上の駒としか思っていないのか…」
「………そ、それでも…」
うなだれた近衛を見て、オロオロとしていた神従者が、ぐっと拳を握り、なにか思い出すようにしながら深い呼吸とともに、決意を吐き出そうとする。最初は少しふんぎりがつかぬ様子で、一度は言葉を飲み込んだ。だけれど一度首を振ると、顔を上げて、それよりも大きく口を開く。
「それでも、神の知略に負けてはいけません…っ。神の策に嵌っては、あの子のようになってしまう……っ」
そういうなり、恐ろしげに目を見開いたまま顔を覆う神従者は、怯えた様子で身体を震わせた。
「あの子、とは?」
「我が娘…。大事な、一人娘でございました……っ!」




