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汝の名は、魔王ー魔王と天使の物語ー  作者: 木彫りのクマ
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発見5


「おかしなことを。近衛、あなた吐きたかったんですの?」


「…それこそが、この神族への供養になるかと。生死の尊厳を確かめ、彼の死を悼ましく感じるかと。…ですがなんだかんだ言って、容易く斬れてしまいましたね」


「……はぁ。つまらぬことを仰いますのね。元より私たちが見つけた時点で、これはただの死骸ですわ」


「そうだとしても、彼を斬ることは残酷で冒涜的な行為だと思ったんですが。…ただの、偽善だったようです」


「悼むべきは死ではなく、生の在り方と失われ方ですわ。戦場で失われた生を悼むなど、却って欺瞞。誇りを穢す行為と知りなさい」


「自分はもともと、戦場の心得など知らぬ弱い人間でしたから。奪われた生を見て悼むのが、人間らしさと思っていましたよ」


「…そうでしたの。でも今は戦場に生きる魔王の配下でしょう?」


「……ええ、そうでしたね」


亀姫は近衛の側に近寄り、そっと頬に触れた。

近衛は泣いてはいなかったが、亀姫はそれを拭うような仕草でもって近衛を慰めた。



「…酷い顔をしていますわ。何を悔やんでいらっしゃるの? 何に戸惑う必要があると?」


「はは……。そんなに、ひどい顔をしていますか?」


「ええ…」


「…なんでしょうね。神や陛下たちとの力量差を感じるうちに、自分が人間なのだと実感しました…。だからこそ、自分は人間らしくありたかったのかもしれません」


「お馬鹿な子…。そう心苦しくなるのでしたら、今更ニンゲンらしくあろうとするのはやめてしまえばよいのに…」


「魔族もどきの人間。人間らしさを捨てたところで魔族になれるわけでもなく…。人間らしさを失った自分は、一体何になるのでしょう…?」


「それは……」

ザッ――



亀姫の回答を待たず、無表情のままで目の前の骸の首を刎ねた。

形だけの哀悼も、自分を試す為の残虐な行為も、無意味だと実感した。


切り取った翼についた小さな胴体を拾い上げ、検分し、余分を削る。

これくらいなら抱えて滑空するには都合がいい。きっとあの屋根まで届くだろう。

周りを見渡してちょうどよい翼を見つけ、亀姫の分も用意した。



「さあ、行きましょうか」



振り向いた近衛の手に乗せられた、まだ血の滴る肉塊から生えた翼。

それをにこやかに差し出す近衛の姿は、先ほどまで思い悩んでいた者とは思えない。



「……え、ええ」



近衛が作り笑いの不自然さでも見せていれば――

あるいは僅かにでも恍惚の表情を浮かべていれば、まだ理解もできただろう。


だが、近衛はただ瞬時のうちに様変わりをしたように見える。

どんな残虐な行為よりも、その切り替わりが得体の知れぬ怖ろしさを感じさせた。



先ほどの近衛の疑問には、答えられそうにない。

『ただの半端者になるのですわ』……そう答えれば、近衛は安心したのだろうか。



(…駄目ですわね。そんなこと、今は白々しくならないように言える気はしませんもの--)



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