快進撃2
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空中宮殿・2階
ドゴオオオン………
先ほどから度々に、大きな破壊音が響き渡っている。
音が聞こえる度、近衛と亀姫は目を合わせて宮殿内の調査を急いていったが、あまりの頻回さに近衛はついに苦笑を漏らした。
「陛下は、大分派手にやっているようですね」
「……そうですわね。陛下はやはり魔力攻撃が中心のご様子。ここに居ても陛下の魔素を感じますわ」
「獣王様もついていますし、神族も弱いものばかりだからそう心配もなさそうとはいえ…神との戦いを前に疲弊なさらないといいのですが」
「私が今になって言うのはあまりに無責任ですが・・・神族が弱いだなんて本当に信じていいのかしら…?」
「え? ですが魔王陛下も、“神族は戦には向いていない、文化風習として有り得ぬ”と仰っていましたが…」
「陛下の言葉を疑うわけではありませんのよ。ですがよくよく先ほどの話を思い出してくださいまし」
「?」
「神族が陛下をこの戦争に誘い込んだ側なのだとしたら、必ず勝機を用意しているはずでしょう?」
「それは、そうですね。…ではやはり何か隠していて、こちらを油断させるつもりでしょうか」
「あるいは、“無力に甚振られる哀れな状況”を作っているか、ですわね」
「……神の描くシナリオ、ですか」
「魔王に攻められ、無力にいたぶられ、追い詰められた神……何をやっても許されそうじゃありませんこと?」
「何をやっても……?」
何を想像したわけでもないのに、近衛の背中がゾクリと粟立った。
所詮、神にとってこの世界は簡単に姿を変えさせられるもの。
……神は、自分が思うよりも“大きな事”をするかもしれない。
半歩ほど遅れてついてくる亀姫を視線だけで確認する
彼女になら……具体的に想像もつくのだろうか。聞いてみたい気もするのに、聞けない。
聞けないが、それも当たり前だ。
たかが人間である自分が、神の思考を探るなんて。畏れを抱かぬ方がおかしいのだろう。
ここまできても、やはり自分はただの人間なのだ。
「ふふ。近衛。ほら、あちらを…」
「?」
左右に別れた道を、これまで通り左回りに折れた所だった。
亀姫に促され、踵を捻り急停止する
後方の通路の逆端に、積み重なった神族の骸があるのが小さく見えた。
「あれはおそらく、陛下の交戦の跡ですわ」
「ああ。いつの間にか同じ道に出てしまいましたか…。引き返しますか?」
「いいえ。陛下はこちらまではいらっしゃらなかったようですから、このまま参りましょう」
「ですが、繋がった道ですから通っていてもおかしくないかと。……何故、そう思われるのです?」
「簡単ですわ。こちらの道が、綺麗なままだからです」
「あ」
「あの音もそうですわ。別手に別れた私たちが窮地に陥れば、すぐに陛下の元に逃げていけるように…」
「どこを通って進み、今どこにいるのか…わかるように……?」
ドゴオオオン…
今は、上階から破壊音が響いている。
魔王はそこにいて、待つこともせずに突き進んでいるのだと、否応なしに報せてくれる。
「大丈夫ですわ、近衛。魔王様が先陣をきっていらっしゃるのですもの…心配無用ですわ」
「はは…顔にでていましたか」
「ふふ。それにしても、驚くほどの快進撃ですのね」
「この戦、簡単すぎて怪しい気はするものの、まだろくな調査も出来ていないのに…速すぎて困りますね」
「陛下は本当に、そんな調査を必要としていらっしゃらないのですわ」
「大掛かりな罠のひとつも疑わないなんて、そんなこと」
「合ったとしても、どうにかするつもりなのでしょう。陛下は私達に何かを期待などせず…ただ、好きにさせてくださっているだけ」
「見放されているような、守られているような…なんだか複雑ですね」
「ふふ。守りは私の専売特許ですのよ。あまり守られてばかりなのは悔しいですわ」
「……亀姫様の語る陛下のお姿は、自分の見えていた陛下の姿と違いすぎて…少し、戸惑います」
「私は生まれたときから、陛下のことを見ていますの。年月で言えば竜王様にはかないませんけれど、」
「そうでしたか。あの……不躾なことを伺いますが…亀姫様は、もしや陛下のことを…?」
「……ふふ。神の一族の名を持つ私に望める願いではありませんのよ。口に出すのもおこがましいですわ」
「今は同じ魔族なのでしょう? 陛下はそんな一族の出自の差など…!」
「それでも、穢すべからず…ですわ。それに私、決して我が一族の名を恥じてはいませんのよ」
「私は、私の名に代えて。あの方を守ってみせるのですわ」
「……」
駆ける速度を速めた亀姫の背を、近衛は思わず見つめてしまう。
種族の差。想いの強さ。苦しい道を歩む強さ…華奢な身体に込められた想いはどれだけのものなのか。
亀姫の想い。自分の想い。天使の想い。魔王の想い。
この戦にはどれだけの想いが掛かっているのだろうか。
神の想いはわからない。
だけど、もしもそれを弄ぶつもりなら許せない。
(もう。これ以上、駒にされるのはゴメンだ)
近衛の脚にもまた、力が入る。




