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汝の名は、魔王ー魔王と天使の物語ー  作者: 木彫りのクマ
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亀姫の推測3


「いつか魔を滅ぼす時の為に用意された、神が絶対正義である為の免罪符。貴方はそのひとつだった。雑どころか、綿密に練られていたと考えるべきよ」


「そんな“言い訳”をする為に、ニンゲンは滅ぼされるハズだった……?」


「天と魔の接触は、悲惨な戦禍を招く愚かしい禁忌ですわ。神から直接手を出せば、それは後世に汚点として残ってしまう。天が絶対の美点である為にも、誰しもが納得して賛同するだけの魔を討つ理由が必要でしたのよ」


「……っ そうか、この場で本を書いていた彼もまた、その駒の一人ということか。神に窮地を助けられた、信仰心の厚い小僧……」


「ええ、そうでしょうね。“神はニンゲンを救おうと努力していた”と語る、生き証人。都合良く後世に残る“神の偉業を讃える伝記”の作成者の役割を与えられたのですわ」


「………そんな。そんな者の為に、彼はどれほどの恐怖を味わわされたというのか…」


「いいえ、間違ってはいけないわ。現段階では、あくまで“彼に恐怖を与えたのは魔で、彼に救いを与えたのが天”なのよ」


「????ッ」



「……先代陛下…今の院は賢王と名高い方でしたけど、伝承などを受けて勇者討伐を決めたのは、“恐れを持たず、躊躇いなく危険—ニンゲンを殲滅する”という愚行になってしまったわね…」


「……ッ いいえ! いいえ、院はそのような愚行を犯してはおりません!」


「え?」



「ニンゲンは生きています! 現魔王陛下によって、魔からも天からも干渉を受けない場所に独立して、今も生き続けているのです!」



「そう…でしたの? あ、そういえば確かに以前、言っていましたわね…。私はてっきり、近衛のように数人を連れ帰ったという程度なのかと思っていましたわ」


「天と地に挟まれた地表を離れ、自立させてくださったのが魔王陛下です! だからこそ自分は魔王陛下に従っている…!」


「院も陛下も悪行など働いていない! 踏みとどまり、逆に永遠に守ってくださっているのです!」


「………そう…。そうでしたの。これでようやく繋がりましたわ」


「だから、現段階では神の方が誤解されるような悪行を働いただけで――」



「ええ。だから、天使が送り込まれたのよ」


「な……?!」



「……嵌めようとしたら、魔が善行を行ってしまった。悪事に制裁を与えるのなら、善行には褒賞を与えねばならないのよ。神が体裁を守るためにね」


「……天使殿が、褒賞…?」


「無力で儚いだけの幼い天使。恐らく役割は“ただひたすらに和平だけを望む者”といった所ね」


「和平…。善行をした魔の手を、神が取ろうとした…ということですか?」


「ええ。ですけれど、これももちろん、そういうシナリオを新たに用意した、という意味よ」



「いきなり干渉する事は出来ない。けれど、善き行いをするのであれば、魔と友好的に繋がり、平和を築けるのではないか。そんな第一歩が踏み出せるのかどうか下見をしようと、無害な者に魔を見せて反応を確かめようと思った矢先に――」


「“事故で、天使が魔国に落ちてしまった”……?」



「ふふ。近衛もわかってきましたわね。もちろん事故は故意に誘発されたものでしょうけれど」


「……天使殿は、自分が落ちてしまったが故にこの戦争が起きたのだと強くご自身を責めていらしたというのに……」


「ええ。そんな人物だからこそ“役割”に選ばれたのですわ」


「………ッ!」


「そして……神は、天使が魔に殺されてしまうことを期待していたはずですわ」


「そんな!!」



「無力で平和的な事故の被害者を、天の者であるという理由ひとつで 魔の者が嬲り、犯し、傷めつける……。そんな“悲惨な事態”が起こる事を期待していたのですわ。厳しい制裁を与えるに相応しい、大義名分のために」


「ーーっ! ????ッ……。っぐ……」



「だけれど、陛下はそれをなさらなかったし許さなかった。近衛にしたのと同じように、天使を守り、寵愛なさった。天使を天に戻すという“神との接触”もせず、ただ手元で守るだけ……」


亀姫は寂しそうに呟いた。

魔王が天使に寄せていた思いは、神との衝突という危険回避のためだけではないのは明白だ。


こうなっては愛しい思い人が天使を愛するという行為を、愚行と責めることもできない。

天使に向けられた魔王の思いは…めぐりめぐって、薄汚い策略から魔国の民を守っているのだから。


亀姫がそんなやり場の無い憂鬱に胸を痛めた時、近衛が横で唐突に笑い出した。

穏やかな近衛らしからぬ表情で、皮肉そうに口元をゆがめて神をあざ笑っている。



「ふっ。はは、はははは! さぞや神は悔しい思いをしたでしょうね!」


「……どうかしらね。それはわからないわ」


「そんな思いのひとつくらいしてもらわなければ、自分も天使も、この小坊主も、惨めすぎるじゃないですか!!!」



当り散らすような強い語調。

近衛の目は冷静さを失い、強い怒りが浮かんでいた。


「落ち着きなさい。…私にだって気持ちは理解できるわ。とても許されるものではないもの……」




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