亀姫の推測2
亀姫は扇を広げて口元へ運ぶ。
どこから話したものか、と 思考を巻き戻しているようだった。
「……この戦争を陛下が口になさった時、私自身も驚いて陛下をご無体で不用意だと責めてしまいましたけれど…… 陛下は本来、そのような方ではありませんわ」
「戦争を決意したきっかけ…ですか。確かに軽率にも感じますが、それは天使を強くお望みになられた衝動ゆえなのでは?」
「天使が手元に居るにも関わらず、泣き暮らしているのに辟易したから天を滅ぼし帰る場所を無くすだなんて……いくらなんでも浅慮すぎるかと」
「…確かに、普通に考えれば余計に泣き濡れて心を閉ざすのは目に見えていますね…」
「あの方は思慮深く察しが深い方ですわ。天を滅ぼし、天使の帰る場所を無くすことで“現状を変える別の何か”が得られると考えるべきでしょう」
「……別の何か…」
「私にも具体的にはわかりませんわ。ですがおそらくソチラが本当に戦争を決意したきっかけかと」
「決意したきっかけ…。では、戦争自体はいつごろに仕掛けられていたと?」
「そうね……。近衛が、勇者として神に選ばれた時…じゃないかしら」
「!」
「単純明快よね。神が“勇者”を作る理由は、どう考えても世を正すためですもの」
「そう…そう、ですね。至極当然です。神は、自分に魔王陛下を討たせるつもりだったに違いありません」
「あら。そんなに簡単に納得してしまうの?」
「納得などできませんが、それが一番しっくりくるでしょう…」
「……」
「自分は魔など教えて貰わなかった。魔を滅ぼせ、という指示もなかった。魔に立ち向かう方法も知らず、危うくただニンゲンとして滅亡するだけでした…! 神のやり方は、あまりに雑すぎる!! 魔のことを侮りすぎていて…あまりにニンゲンに任せすぎていて…そんな投げやりなやりかた、とても納得などできません!!」
「いいえ。神からすると“それでよかった”のよ」
「!!?」
「……神は地表を守るものだと言われているわ。だから地表を魔が討てば……魔を全力で攻撃するだけの大義名分が神は得られる」
「な……では、地表を攻撃させるために、自分は勇者の啓示を授かったのですか!?」
「……それじゃ矛盾が生まれるわ。守る役割なのに、“攻撃させる”なんてお粗末があってはならないはず」
「“勇者を作ったのは、地表の安寧の象徴にするため。決して魔をどうこうしようとした訳ではない”……ってとこかしらね」
「……? 自分は、魔王陛下を討つためではなく… ニンゲン世界の平和の為に勇者になった、と?」
「ええ。だって貴方、先ほど自分で言ったじゃない。滅ぼせとも言われてないし、戦い方も知らなかった、と」
「……? それは、そうですが」
「そもそも魔王と地表で戦争させて討とうというなら、近衛などを選ばないんじゃないかしら。ましてや魔の存在すら教えないなんて…私からするとありえないですわ」
「…………それは…そう、言われてしまうと。確かに何故自分が選ばれたのかはわかっていませんが…」
「貴方は…武器にされたのではなく、贄にされたんじゃないかしら」
「ッ! どういう意味ですか!?」
「大人しく従順。正義感が強く、だけど強すぎる武力は持たない。あくまで“地表の世直しの為に選ばれた者”としてソレらしい要素を持っていた近衛を、“勇者”に仕立てる…」
「魔国は古い迷信などを信じ、“世直しの為に選ばれただけの善たる若者”を、“魔を滅ぼしに来る勇者”と思い込んで一方的に討ち、ニンゲンを滅ぼす……」
「……あ。え…? 自分は…魔王陛下に救われたからこそ神を恨んだが… そもそもは、どちらが悪いのだ…?」
「……もし、ニンゲンが本当に魔に滅ぼされて…。その後で神が、“平和な世を目指す第一歩だった。独善的で横暴な魔は許せない”と魔に制裁を与え、ニンゲンの死を悼んだなら……近衛はどう思ったかしら?」
「……ひどく…魔を、恨んでいた…? 憎んでいたかもしれない…」
「そう。それが“神の望んだシナリオ”よ」
「!」
次回更新は7月9日です




