侵入と別行動4
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院-- 先代魔王は、在位中に 地表の国を侵略した。
その国は占術により、勇者の生まれ郷になるといわれた国だった。
占いは占い。
それ以上の根拠があるわけではなかった。
だが当時の院はそういったものに何よりも重きを置いており、長いこと国を見張っていた。そしてついに、勇者らしき者が現れたのである。
占いで告げられた”勇者による、魔族の廃頽”を防ぐため、
侵略戦争が決断された瞬間であった。
――あの日、自分の街に大挙して乗り込んできた魔物達。
当時の近衛には、魔物達が現れた理由が分かっていた。
天啓だ、啓示だと 皆が騒いだそのほとぼりもまだ冷めていなかったから。
あれは自警用のナイフを片手に護衛術を訓練中の事。
突然に天から虹が差し込むように降りかかり、近衛の身体を包んだ。
その場にいた皆が、不可思議な声を聞いた。
「勇者」とだけ呟かれた、姿のない者の言葉。
そして虹が消えると同時、近衛が握っていたナイフは「大剣」に姿を変えていたのだ。
それ以上のことはない。ただそれだけ。
ただ、その事件は国中に知れ渡るほどには騒がれた。
近衛自身も訳がわからぬまま、「勇者」として数日間をもてはやされていたのだ。
そして、突然の魔物の襲来の日。
魔物など知らなかった。
それが魔物であるのか怪物であるのか、悪魔なのか妖怪なのかも知る事のないまま…
近衛の暮らしていた国は、地表の世界は、みるみる炎に包まれた。
悪夢のような惨状の中を、助けを求めて、妹の手をひいて走った。
街の中を走れば、誰もが自分の顔を知っていた。
そうして誰しもが呪いの言葉を投げてきた。
「おまえのせいだ」
「おまえが原因なのだろう」
「おまえさえいなければ」
焼け焦げた赤子を抱いた女が、狂った目つきで「おまえさえ死ねば…」と包丁を刺してきた。
それを見ていた誰かも、「そうだ。おまえが死ねば終わるんじゃないか?」と、砕けたレンガで殴りつけてきた。
近衛は何も知らなかった。ほんの数日間、勇者としてもてはやされただけ。
たったそれだけのことの代償に、全世界から理不尽に恨まれた。
手をひいていた妹は、恐怖に満ちた瞳で自分を見て足を止めた。
命を狙われている自分の巻き添えにさせてはいけないと、唇を噛んで、妹の手を離して駆け出した。
その直後に、妹が狂気に満ちた誰かに殴り倒されるのを見た。
世界のすべてが敵になって、近衛に襲い掛かってきた。
滅ぼされそうな世界
追い詰められた自分
刺された腹から滲む血
行く手に現れた、数匹のおかしなイキモノ
誰かから与えられた大きな剣はあったが、そんなものがあったって目の前の化け物は倒せない。
自分の習っていた“対人用の護衛術”が何の役に立つというのか。
振るえない。
握り締めたナイフの感触はそのままだけれど、その刃は何十倍もの大きさになっている。こんなものを扱ったことは無い。
この剣を授けたのが神ならば、神なんて信じない。
神になど祈れない。
だけど、求めたい。助けを--
もっと、確実な。この世界と自分たちを救ってくれる、強い力を。
街の炎も、流れて衣服に染み込んだ血も、赤黒かった。
黒くて黒くて、目の前も真っ暗になっていくような気がしていた。
そんな時に、それよりも黒い影が現れて、こう言った。
「……探したぞ。世界一の、不幸者」
望んでいた大きな力と救いは、魔王によってもたらされた。




