侵入と別行動3
「何が書かれておりますの」
口元に手を当てたまま、近衛は数ページをめくり読みしはじめる。
そんな近衛に痺れを切らして、亀姫は横に回りこんで置かれていたもう一冊を手に取る。だが中表紙に書かれている文字は特殊で、亀姫には読めなかった。
「……見慣れない言葉ですわ。坊やはこれが読めていらっしゃるの?」
「はい、これはニンゲンの言葉です。それも、自分のいた国の言葉でかかれていますね…」
「内容は?」
「少なくとも題は、『悪魔の襲来と人間世界の終末について』とかかれています」
「……ニンゲン滅亡の記録、といったところかしら」
「……“大僧正が悪魔に連れ去られた時、私は仏に祈ることしかできなかった。如来様の後ろに隠れ、眼前の悪夢を見ないように目を瞑り、念仏を唱え続けた”」
「“悪魔はしばらくして、唐突に立ち去った。私は仏への祈りが通じたことに安堵した。だがそれもつかの間、今度は寺が燃え始めた”」
「ここにいたのは宗教家ですのね。読まなくても結構ですわ、要約なさって」
「そうですね。……“仏への信心の厚い小坊主が窮地に立たされて、神様仏様と願ったら、神様に助けられて神界にきたので、神様大好きになりましたありがとう”、といったところでしょうか」
「まあ、大層な信心ですこと」
「……でもよかったですわね。近衛の他にも生きている人間がいたとわかったじゃありませんこと?」
「ニンゲンは生きていますよ。……この彼は、殺されたかもしれませんけれど」
「え?」
「この本の終わりの方…神への感謝を綴りながらも、だいぶ筆が乱れています。そして、このような終わり方を」
「……ページが、破り捨てられていますわね」
「ええ。そしてそれ以降は書かれていない。ここに監禁した誰かにとって、不都合な事でも書いたのかもしれませんね」
「……用が済んだ後、そして役に立たなくなった後、彼はどうなったのかしらね」
亀姫はスと手のひらを合わせて、黙祷をささげた。暗い結末を感じたのだろう。
平然と神殺しを行う一面を持ちながら、見も知らぬ誰かの不幸な死を自然と悼む亀姫に、近衛は苦笑する。
それからもう一度本に目を落として、呟いた。
「……神が、あの場にいたのですね」
「近衛?」
「……ヒトを助けるわけでもなく、自分たちの正当性を立証するためだけに……。神はあの場に降りていたのですね」
「………神族は、ニンゲンを守りませんでしたの…?」
「守る?」
「神族は、今は無き地表を見守り、育んでいたはずですわ。魔の者との対立こそありましたけれど、ニンゲンとは交友関係にあったと思っておりましたけれど」
「……ご冗談を」
「冗談ではありませんわ。古来よりそうしてきたはずですもの」
「ありえませんよ。だって自分たちニンゲンは、神に……」
「神を守る武器となることを、強要されたんですから」




