侵入と別行動2
話を逸らそうと、焦れて尾を左右に振った亀姫は違和感に気付いた。
一瞬、床のどこかで微かに引っ掛かる箇所があったのだ
「坊や…床を調べてくださいませんこと。罠かもわかりませんわ。慎重に」
「!! はい!」
近衛は動かずにその場に伏せた。指先を床に這わせ、よくよく目を凝らしながら見ると、床に四角く線が入っていると気付く。自分たちはちょうど、その枠の中にいるようだ。
「……確かに不自然ですね。術法の気配はないので、落とし穴か、あるいは檻のような物理的な罠。その仕掛けの境界線かと」
「あら。どうりでわかりやすいところに、ちょうどいい物影があると思いましたわ。……でも嵌る様子がありませんわね、重量不足かしら」
「それもありえますが……亀姫殿は、地雷の例をご存知ですか?」
「ジライ? なんですの、それは」
「設置型の罠のようなものでして。それは踏んだときには反応せず、離れたときに爆発する仕掛けなのです」
「ならば、これもそうだと?」
「可能性はございます」
「……ではこうしましょう。この花台をずらして、私たちの身代わりに重しになってもらいますわ」
「かしこまりました」
近衛とて亀姫とて、2重に罠が設置されている可能性を考えない訳ではなかった。
重量不足が故の不発なら、これで余計に起動するかもしれない。
だが、二人乗って重量不足だとするならば、いったいどのような敵を想定しているのかまったく想像もつかない。ならば懸念に懸念を重ねても仕方が無い。
近衛は花台に手を掛け、手前に引寄せていく。
ズ、ズズズ・・・
「……あら」
「これは――…」
花台の下にあったのは、小さな床下への扉だった。
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天空宮殿、謎の地下室
コツ……
短めの階段は、あっという間に終わった。
階段というよりも、丈夫にしつらえられた梯子と呼んだほうが適切かもしれない。
入ってきた場所から明かりが漏れ入り、この地下の空洞を照らしている。
「……罠、というわけではなさそうですわね。隠し部屋にしては浅すぎますわ」
「もしかしたら、地下収納として作られた場所なのかもしれませんね。使用用途を変えたために、入り口だけをふさいだ可能性があります」
「地下収納……物置だと?」
「ええ」
「はぁ…緊迫感の薄れますこと。私本当は、下に竹槍でも仕込まれているのかと思いましたわ」
「それはそれで古典的で緊迫感は薄いですが…罠でなかったのは幸いです。少し調べて、ここから出ましょう」
「調べる、といってもねぇ…」
亀姫は壁に手を触れながら、しゅるると這うように部屋を舐め歩く。
部屋の中央には四角いテーブル。椅子はなく、作業台のようにも見える。
「本と筆、か。書斎のような場所なのでしょうか…」
「坊や。これを」
亀姫に呼ばれて振り向いた先に、鎖のついた砲丸のようなものが見えた。
その近くには沢山の本の山が積まれていたが、亀姫がこちらに開いて見せているものは“白紙”の本だった。
「……つまり、拘束して誰かに本を書かせていた…? ここは監禁場所、ですか」
「あの花台は、扉を隠していたのではなく、出入り口をふさぐためのものだったのでしょう」
「……雑ですね、何もかも」
「急ごしらえしてでも必要だったのかもしれませんわね。本来、神族は争いとは無縁なはず…誰に何をかかせていたのかしら」
視線に催促され、近衛は小さく頷いてから机の上の本を開く。
「……これは…」




