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汝の名は、魔王ー魔王と天使の物語ー  作者: 木彫りのクマ
33/99

天族との戦5

―――――――――――――――――――――


神界・宮殿前



「……あまりにも、簡単すぎる気がいたしますね」


そう呟き、軽く握った拳を口元に添えて考え込んだ様子の近衛。

魔王はその言葉に近衛の様子を伺い見る。


「ふむ?」


「……魔王陛下。申し訳ございませんが、お傍を離れるご許可をいただきたく」


「好きにしろ」


近衛の言葉に対し、考える間もなく即答した魔王。

実際、何を言われたとしてまともに聞く気も、理由を問う気も、ましてや止める気もなかったのだろう。側仕えとしてその魔王の御身を守る「大役」を務めねばならない近衛にとっては、簡単に離脱を許可されては苦笑を浮かべるしかない。

が、代わりに亀姫が鋭い視線を飛ばしてきた。



「お待ちくださいな、陛下。・・・近衛、お前は何処へ?」


「陛下とは逆周りに、この宮殿内を探索いたします。自己判断にはなりますが、適宜必要と思われる情報を集めたり討伐を進めたく思います」


「……正門デいきなり見誤っタお前ノ自己判断ヲ信じろト?」


「それは…」


「獣王、およしなさって」


「フン。ならバ俺ガついていこウ」


「いいえ、近衛様には私がついて参りますわ」


「……亀姫様が…?」


胸を軽く貼って、その大きな袖口を胸元に添えながら、軽く頭をたれて魔王に進言する。


「獣王は、先ほど腹を打たれています。治癒したとはいえ、軽度のダメージではないはずでしてよ」


「……チッ」


「近衛。供がつくことに、何か不都合がございまして?」


「いえ。ですが…自分の荒いこの剣で、万が一にも女性を巻きこむわけにはならないと思うと、少しばかり重責ですね」


「そう言っテ、誤まって切り殺してしまっタという布石にするつもりカ」


「! いえ、決してそのような!」


「フン」


気の荒さを隠し立てするまでもなく、噛み付くように唸り声で喉を震わせる獣王に、近衛は困惑した表情で言葉を選んでは良い言葉を選べずにいる。



「安心なさって。私は亀姫。玄武の守護術を身に宿している私は、そう易々とは斬られませんわ」


「…でハ、魔王陛下ハ自分ガ守ろウ」


「ええ。どうか宜しくお願い申し上げますわ、獣王。いざとなれば…」


「この身を盾ニ、いや 一族ヲ盾にしてでもお守りしよウ。例え傷負いの身であれド、その時はお前ノその鉄壁にモ遅れは取らぬつもりダ」


「ふふふ、頼もしいですわ」



「では、魔王陛下。どうか自分と亀姫様に、探索許可を」


「好きにしろ、と言っている。例え逃げ出そうと構わぬ」


「では、それを許可に変えさせていただきます。ですが決して逃げは致しませぬ」

敵地の眼前で、膝をつく近衛。

隙だらけのその行動は、確かに紛れもなく忠誠のみを誓う姿にも見えたが、獣王にとってはそれはわざとらしくも見えて気に障る。


だが、魔王にとってはそうでもなかったのだろうか。

小さく笑った魔王は、臥した近衛に錫杖を突きつけた。



「……相変わらずの、律義者だな。だがそれは魔王の近衛として、相応しくない」


「ただの性分でございます。ですが、相応しくあるよう精進いたします」



「では…」



「悪を悪と思わず、善を善と思わず」


「…?」


「魔王の心得だ」


「魔王、の…?」


「…くく。わからぬようでは、お前にはやはり無理なのではないか? ……魔王に相応しくある、だなどとは」


「か、かならずや理解して見せます」


「ほう? ははははは! おもしろい」


「魔王様…?」



「近衛… いや―――  “元・勇者”」


「っ」



魔王の発した言葉に、亀姫も獣王も驚きを隠せず目を見合わせた。

勇者―― それは確かに、先の戦の“目標”だった人物の名だ。



「愉快だよ。そして、残念だ」


「残念…で、ございますか?」


「ああ。もしもお前がそれを理解する事があれば、俺はお前を次期魔王としたくなるだろうからな」


「次期、魔王…?」



「だが、魔王は基本的に次代継承。お前にゆずってやれないのは残念だ。く、くっくっく」


「そんな……滅相もございません! 畏れ多いことでございます!」


「勇者が魔王の心得を理解する…ねぇ。くく、まったくもって愉快だよ 近衛」


「………自分は…、自分は既に、勇者などではございません…」


「……ふふ。その返答こそが、その証。その性格こそも、“勇者”とされる所以なのだろうな」


「………」


「行け」



「……皆々様に、御武運のありますことを」


「陛下。行ってまいります」



走り去る二人を見て、魔王が嗤う。



「…くくく。神を倒しに行くその前で、誰に運を祈ったというのか。冗談のつもりならば、なかなか面白いのだが」


「グルル…」


「獣王。敵の目を全てこちらに向けさせるぞ……一網打尽にしてやろうではないか」


「魔王サマの、仰せのままニ」


次回投稿は7月8日です

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