天族との戦5
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神界・宮殿前
「……あまりにも、簡単すぎる気がいたしますね」
そう呟き、軽く握った拳を口元に添えて考え込んだ様子の近衛。
魔王はその言葉に近衛の様子を伺い見る。
「ふむ?」
「……魔王陛下。申し訳ございませんが、お傍を離れるご許可をいただきたく」
「好きにしろ」
近衛の言葉に対し、考える間もなく即答した魔王。
実際、何を言われたとしてまともに聞く気も、理由を問う気も、ましてや止める気もなかったのだろう。側仕えとしてその魔王の御身を守る「大役」を務めねばならない近衛にとっては、簡単に離脱を許可されては苦笑を浮かべるしかない。
が、代わりに亀姫が鋭い視線を飛ばしてきた。
「お待ちくださいな、陛下。・・・近衛、お前は何処へ?」
「陛下とは逆周りに、この宮殿内を探索いたします。自己判断にはなりますが、適宜必要と思われる情報を集めたり討伐を進めたく思います」
「……正門デいきなり見誤っタお前ノ自己判断ヲ信じろト?」
「それは…」
「獣王、およしなさって」
「フン。ならバ俺ガついていこウ」
「いいえ、近衛様には私がついて参りますわ」
「……亀姫様が…?」
胸を軽く貼って、その大きな袖口を胸元に添えながら、軽く頭をたれて魔王に進言する。
「獣王は、先ほど腹を打たれています。治癒したとはいえ、軽度のダメージではないはずでしてよ」
「……チッ」
「近衛。供がつくことに、何か不都合がございまして?」
「いえ。ですが…自分の荒いこの剣で、万が一にも女性を巻きこむわけにはならないと思うと、少しばかり重責ですね」
「そう言っテ、誤まって切り殺してしまっタという布石にするつもりカ」
「! いえ、決してそのような!」
「フン」
気の荒さを隠し立てするまでもなく、噛み付くように唸り声で喉を震わせる獣王に、近衛は困惑した表情で言葉を選んでは良い言葉を選べずにいる。
「安心なさって。私は亀姫。玄武の守護術を身に宿している私は、そう易々とは斬られませんわ」
「…でハ、魔王陛下ハ自分ガ守ろウ」
「ええ。どうか宜しくお願い申し上げますわ、獣王。いざとなれば…」
「この身を盾ニ、いや 一族ヲ盾にしてでもお守りしよウ。例え傷負いの身であれド、その時はお前ノその鉄壁にモ遅れは取らぬつもりダ」
「ふふふ、頼もしいですわ」
「では、魔王陛下。どうか自分と亀姫様に、探索許可を」
「好きにしろ、と言っている。例え逃げ出そうと構わぬ」
「では、それを許可に変えさせていただきます。ですが決して逃げは致しませぬ」
敵地の眼前で、膝をつく近衛。
隙だらけのその行動は、確かに紛れもなく忠誠のみを誓う姿にも見えたが、獣王にとってはそれはわざとらしくも見えて気に障る。
だが、魔王にとってはそうでもなかったのだろうか。
小さく笑った魔王は、臥した近衛に錫杖を突きつけた。
「……相変わらずの、律義者だな。だがそれは魔王の近衛として、相応しくない」
「ただの性分でございます。ですが、相応しくあるよう精進いたします」
「では…」
「悪を悪と思わず、善を善と思わず」
「…?」
「魔王の心得だ」
「魔王、の…?」
「…くく。わからぬようでは、お前にはやはり無理なのではないか? ……魔王に相応しくある、だなどとは」
「か、かならずや理解して見せます」
「ほう? ははははは! おもしろい」
「魔王様…?」
「近衛… いや――― “元・勇者”」
「っ」
魔王の発した言葉に、亀姫も獣王も驚きを隠せず目を見合わせた。
勇者―― それは確かに、先の戦の“目標”だった人物の名だ。
「愉快だよ。そして、残念だ」
「残念…で、ございますか?」
「ああ。もしもお前がそれを理解する事があれば、俺はお前を次期魔王としたくなるだろうからな」
「次期、魔王…?」
「だが、魔王は基本的に次代継承。お前にゆずってやれないのは残念だ。く、くっくっく」
「そんな……滅相もございません! 畏れ多いことでございます!」
「勇者が魔王の心得を理解する…ねぇ。くく、まったくもって愉快だよ 近衛」
「………自分は…、自分は既に、勇者などではございません…」
「……ふふ。その返答こそが、その証。その性格こそも、“勇者”とされる所以なのだろうな」
「………」
「行け」
「……皆々様に、御武運のありますことを」
「陛下。行ってまいります」
走り去る二人を見て、魔王が嗤う。
「…くくく。神を倒しに行くその前で、誰に運を祈ったというのか。冗談のつもりならば、なかなか面白いのだが」
「グルル…」
「獣王。敵の目を全てこちらに向けさせるぞ……一網打尽にしてやろうではないか」
「魔王サマの、仰せのままニ」
次回投稿は7月8日です




