天族との戦2
「魔王陛下」
「む」
亀姫に呼ばれ、魔王は錫杖で手招きのような仕草をした。
ふわりと亀姫の身体が引寄せられ、魔王の隣まで“飛んでくる”。
「どうした。ついてこれぬのならば、後衛へ下がっていろ」
「うふふ。障害物レースに参加なさっている陛下についていく事くらいは出来ますわ。ですが、こうして寄せていただきました事に感謝申し上げます」
「何用だ」
「僅かでも、陛下のご負担を減らすお手伝いをさせて頂きたく存じまする」
言うと、魔王の横に立った亀姫は後ろを振り向き、後ろ斜め上方に術を放った。
攻撃でも結界でもなく、単純な魔素の照射にすぎない。
そのところどころで、チリリと火を起こすものが見受けられた。
「……なんのつもりだ?」
「ふふ」
(陛下は本当にとてもお優しい方。先頭で魔王陛下が御身の魔素を周囲に撒いてくださるおかげで、後を追うものはどれほど楽に進めている事でしょう)
(わざわざ魔力弾など打ち込み浪費せずとも、その刀があれば楽に斬り進む事も出来ますでしょうに……)
この一群の中、その心遣いに気付いているものがどれだけいるのか。
魔王はひたすら傲慢で無遠慮に打ち放しているだけに見える。
おそらく近衛や獣王ですら、そんな配慮には気付いていないだろう。
(ですけれど、そのお心を代弁して語るなど過ぎた事。私に出来るのは、ただ黙って慮っていただくばかり…)
しかし、「多少賢いふり」をしてみてもいいかもしれない。
「神族の浄気の札。時折、宙で消失しておりますわ。陛下はアレを消すために、わざわざ魔力攻撃をなさっていらっしゃるのでしょう?」
「浄気の札? そんなものもあったのか……」
「うふふ。真実はともあれ、後方の陣に流れれば痛手となるのは必須でございます。魔素を周囲に振りまいて消してしまうのは賢案かと。よろしければ、是非私にお任せくださいませ」
「……好きにしろ」
(これで、陛下は後陣を気にせずに戦えるはず。余分な力をお使いになることもなくなるでしょう)
(ああ、陛下。私は、私らしく… 陛下の全てを、お守りいたします・・・!!)
亀姫がもう一度、空に向けて術を放つ。
“浄気の札を払う為”という新たな大義を手に入れた魔素であったが、これまでと変わらず守護と祝福としての役割を持ったまま後陣に降り注いだ。
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