天へ4
魔王は少しのため息をつき、生真面目な忠臣を諭す。
「俺とて気配に気付いていたわけではない。だが、何も無いにしろここは既に戦地。当たり前の警戒を怠るなといったまでだ」
「今度こそ、よくよく肝に命じておきます」
「そうだな…… では」
「気を抜くな」
「!」
厳かな声とともに、魔王の視線が近衛の向こうへとスっと移された。
同時、振り向きつつもその剣を構え、魔王の盾ともなれ、攻撃にも移れそうな広い位置に飛び跳ねる近衛。
シーン…………
何もない空間。誰が身動きしたわけでもなく、何者かの影が現れたわけでもなく。ただ、魔王は少し緊張した声を真似て、近衛に声をかけただけだ。
「…………え?」
「く、くくくく」
こらえきれなかったようで、真面目な顔をしていたその相貌を崩す魔王。
とっさに身を引いて構えをとったものの、どこに目をむけていいかわからず、生真面目な顔のままキョロキョロと周囲を警戒する近衛。
「まあ、魔王陛下……ふふ、こんな皆の前でからかっては、流石に坊やがお可哀想」
「いや、つい・・・な。なに、こやつの張り詰めきった緊張も少しはとけたであろう」
扇の代わりに錫杖の金環部分で軽く口元を隠す魔王であったが、その笑みは隠しきれていない。
「……生真面目なのでございます、あまりからかわないで頂きたい」
「なんといったか。餌の前に鈴を鳴らすと条件反射で動いてしまう…ああ、思い出せぬな。帰ったら調べるとしよう」
「おやめください、自分は犬ではありません……」
「犬とて近衛ほどにマヌケではなイ。魔王サマモ、戦地と言って警戒を促しておきながラ、悪ふざけヲ…」
やりとりに笑いながら、魔王が刀で“門から生えた太枝”を斬り落とす。
圧迫されていたせいか一瞬だけ勢いよく噴き出した赤が、鮮やかに門を彩った。それ以外の反応は無い。
「ふむ。既に向こう側は斬り落とされていると見える」
「では、改めて開けなおさせていただきます。皆様、よろしいでしょうか」
「ああ、まて」と、魔王は“太枝”とスピアを、蹴りどかした。
それがまるで本当に剪定された木屑のように見えて、近衛はそう見えてしまった自分に少しの嫌悪を感じた。
(死体になってしまえば… 屑や瓦礫と、かわりない。敵も、味方も――自分も)
転がった“木屑”を見て、戦争の感覚を取り戻したのだと実感した。
「………参ります!」
ダンッ――
身を低く、肩を使って勢いよく扉を押し開く。
その瞬間に、数十の精鋭らしき天の者によって 魔王達は“歓迎”された。
次回は7月7日です。七夕ですね。




