天へ2
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紅い魔力の柱は、100kmに及ぶか及ばないかの長さがある。
その途中で消失したものの数など、誰も数えやしない。
たどり着いた其処には、雲とは違う異質の大地があった。
氷と水蒸気、それから植物の根を這わせて成型したような土地――神界だ。
「浄気が、これほどに満ちているとは。魔物達は動けないのではありませぬか?」
「お前の護法術でどうにかできるか」
「御意に。……陛下にもお掛けいたします?」
「俺に? 今日はきっと、相当暴れる事になるが?」
「うふふ。きっとすぐに破れてしまいますわね。ではせめて――」
跪き、魔王に両の掌を恭しく差し出す。
魔王はそこに、自分の掌を乗せた。
「我が主に、守護を」
指先を食むような、口付け。
触れた場所がぼんやりと薄紫に光って、ゆっくりと消えた。
「陛下、魔物達も次々に到着しています」
「ああ。では亀姫、頼むぞ」
「畏まりお承りいたします…」
打ち上げられた噴水のように、雲上に無数の魔物達が打ち付けられては広がり散っている。
獣王がそれらに指揮を執りまとめていき、亀姫が護法を授けて浄気から守っていく。
「……静かですね」
神界ではとっくに異常に気づいているだろうに、天の者達はその姿を見せてはいない。
それには魔物達も違和感を感じていたらしく、どこからか“怖けたか…?”などの声が聞こえてくる。
「俺たちが来ただけで、天の者が怖気づくわけもあるまいに」
「……そうですね。現れただけで怖けてくれたならば、相当に楽な戦いでしょう」
「くくく……ああ、そうだな。そういった類の戦は、相当に楽な戦だった」
「…………」
「どうせそのうちに掛かってくる。現れたなら、その都度 落とせ」
少しの後、魔王は数歩奥へと進んだ場所に立って、振り返る。
波のような魔物の群れを前に、錫杖を高く掲げてリンとならした。
それだけ。
それだけで、魔物達の視線は集まり、緊張感が高まるのが分かる。
雲の上に打ち上げられ崩れた姿勢のままの者も、全てはそのままに。
一瞬で、空気が変わった。
(……始まる)
錫杖。魔王が掲げるのは、僧侶の持つそれである。
元々は近衞の居た異国を統治していた宗教家の持ち物で、統治の象徴でもあった。
それを取り上げ、気に入ったからと残しておいたもの。今は魔王の手中にある“象徴”。
その金環の響きは、強奪されてなお美しく鳴り響く。
「行くぞ」
なんの抑揚もなく、告げられた。
鼓舞のひとつもないその声に魔物達は一様に応を唱え、魔物の咆哮が天を震わせた。




