天へ
――――――――――――――――――――――
集まった部下で庭は埋め尽くされている
その中心に立っているのは、魔王。
「―――――」
一見すると、深呼吸をしているようだった。
だがすぐに違和感に気付く。穏やかに流れていた風が僅かづつ勢いを増して、魔王の元へ集まっていくのだ。
魔王の力は、“魔素を自在に操る力”と“魔力”の2つ。
大気の中に多量に混在する魔素を操る事は、事実上“大気を操る”ことに等しい。
結界はその応用で、大気中の魔素を固定化させることによって、その内外の物質の流入を阻止するものだ。
そして魔力は、物理的な影響力を持つ“力”そのものである。
その2種類の力をもって、魔王は天への道を無理矢理に作り出す。
故意に竜巻を起こし、それを魔力によって細長く圧縮し、天へと突き上げるのだ。
みなはその瞬間を、固唾を呑んで見守っている。
「渦巻くぞ。離れていろ」
次の瞬間、まさに堰を切られたかのような勢いで大気が魔王の眼前へと流れこんだ。
猛然と天へ突き上げる、紅い魔力に覆われた柱が現れる。
「これに…入るのですか」
その立ち上る魔力に巻き込まれて昇るしか、天へと行く道はない。
弱き者、恐れをなした者の殆どは、渦に入る直前で、高圧の魔力に飲みつぶされてしまうだろう。
「無理だと思うのなら、来なくていい。帰りに庭中に死体が散乱していては、憂鬱だからな」
そういって魔王が一歩を踏み出そうとすると、横についていた亀姫がそっと進み出た。
「ここらでは聞き慣れない習慣ではありますけれど、陛下はレディファーストという言葉をお知りあそばして?」
「……知っていたところで、そんなもの気遣ってやるつもりはないが」
「気遣い? いいえ。あれは本来、女の勤めでございますのよ」
「勤めだと?」
「前を行くのも、先に座るのも、飲食をするのも…すべては愛しき主人の盾として、女が先に出るというものですわ」
「供の女を盾に、か。よほどの臆病者か、よほどの傲慢か」
「うふふ…。良いではありませんか。『どれほど愛しているか確かめてやろう』と言われているようで、扇情的ですわ」
「“おねだり”ならば、素直にそうするべきだと思うがな」
クスリと笑って、魔王は亀姫に扇を向けた。
パチンと閉じ鳴らすその音で、亀姫は嬉しそうに前に進み、先陣を切る。
「光栄ですわ」
亀姫は片手で打ち掛けの裾を引き、腰元で留めると
そのまま紅い柱に飲み込まれて上空へと消えていった。
「鉄壁を誇りとする盾を前に行かせても、安全かどうかの保証にはならぬな」
呟くと、次いで魔王も渦に入り、立ち昇る。近衛もすぐにそれに倣う。
そして獣王が続き、次々と魔物が飲み込まれていった。




