天使と近衛2
「だけれど… ヒトは聖ではないだけで、穢れではありません」
「天使殿…?」
「ですからどうか… 近衛様の想いが私を穢すだなどと、思わないでください」
「天使、殿…」
「側近様…」
その言葉が嬉しかった。
想っても良いのだと、許された事は何よりもありがたかった。
「ならば、ならばどうか。この想いだけは 貴方に届けたい」
「側近様……」
見つめると、見つめ返してくれる 美しい瞳。
「自分は、天使殿を愛――
シュッ、ガタン!
「!!」
唐突に、格子窓が勢いよく開けられる。
柱に戸が打ち付けられ、跳ね返るほどの乱雑さ。
そこから鴨居をくぐり入ってきたのは――
「邪魔をするぞ」
「魔王陛下!!」
「…ほう、近衛か。ここで何をしている?」
「……」
「………」
近衛は立ち上がると、魔王を室内に迎え入れた。
蜀台の明かりを魔王の足元へ照らし、充分に尽くす。
そして魔王が部屋の中央に座るのを見届けると、御簾から離れて端へ寄り、頭を下げた。
それは弁明の方法を考えるための時間稼ぎだったのか
それとも魔王への純粋な忠誠だったのか
ともあれ、落ち着いたところで近衛はようやく言葉を口にする。
「これより長い戦争になります故… 城内の警備も手薄に、また気配も人少なになるかと。天使殿がそれに不安を感じられぬよう、ご説明などをしておりました」
「……不安?」
「天使殿はこちらより身動きの取れぬ身。急に城の者達の気配が薄れれば、何があったかと心細くなられる事もございましょう」
「それを、わざわざお前が説明していたと?」
「はい。ですが過ぎた事をしましたようで、申し訳ありません」
「くく。――天使が、それほど心配か?」
「……城内には、未だ天使殿を快く思わない者もおります。ましてや魔王陛下に付き従うものは全て神界へ出てしまいます」
「無いとは思いますが、先日の謁見で離反者も多く出ました。謀反までは至らずとも、心無いものが嫌がらせのような真似事をしてきても、おかしくはないかと」
「ほう…。なるほど」
「ですので天使殿には、『この結界の中に手を出せる者は居ないのだから、どうかご安心を』と――…
「忠義者の近衛。お前の為に、お前の不安を払ってやろう」
「…? 陛下…?」
「この魔王殿でもっとも堅牢な、戸を開く事すら容易でもない部屋があろう? この戦の間は、そこで天使を匿っておいてやろう。安心だろう? 感謝しろよ…?」
「!! それは、まさか--」
「俺の社殿へ。そこほど天使を守るに相応しき場所はあるまい? クク…」
「あ… ですが、それは…!」
「~~~~~~っ」
「近衛。天使はどうやら随分とお前に懐いているようじゃないか」
「っ」
「――少しでも、安心させたいのだったな。 では…」
「お前が、運べ」
「――――――――――――――――――……!!!」
次回更新は7月6日です




