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汝の名は、魔王ー魔王と天使の物語ー  作者: 木彫りのクマ
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臣下と忠誠3


魔王の言葉に、臣下達は混乱を極めた。


“魔王の為に魔王に従う”事を絶対としてきた臣下達にとって

忠誠を棄てることも、帰らされることも、主人にかかっていくことも、なにもかもが理解不能だったからだ。



「魔王殿――…!! なんということを仰るのじゃ!!」



ざわつき戸惑う臣下達の中、最初に声をあげたのは竜王だった。



「忠誠を棄てよじゃと!? 魔王殿は臣下を何だと思っているのじゃ!?」


「くく… 異論か? ならば、俺にかかってこい、竜王」


「くっ……忠誠を棄てることなど出来ぬ! ならばワシは忠誠をもって、魔王殿のそのお言葉を御諌めさせていただこうぞ!!!」


「ああ―――」




「全力で来い。さすればお前のその忠誠、真実であったことだけは認めてやろう」


「―――魔王殿――ッ」



……………

………

……



「……ご苦労だったな、竜王」


「グ……」



皆、信じられないものを見た思いだった。


“魔王”に躊躇なく振り上げられる竜王の尾も、それを一振りで切り裂いた魔王の抜刀術も。

吐き出された火炎の熱さも、それを一瞬でかき消した魔力も。

何もかも全てが、とても信じられないものだった。


若き魔王の魅せた、初の戦闘行為。

種族代表の集まるこの場においても、それは圧巻の戦闘技術だった。


ましてや相手は魔物の中でも“攻撃力”を誇る竜族の王だ。

それを赤子の手を捻るかのように地に伏せさせた魔王の強さは、本物としか言いようがない。


「強く……なられたのじゃのう…。若君・・・」


「ああ。そしてお前は老いた」


「老いた、か。ワシはいつの間にか、眼を曇らせておったのじゃろうか…?」


「……」



「魔王殿。どうぞ、愚かな逆臣に裁きを。慈悲は要りませぬ・・・」


「クク。かかって来いといったのは俺。俺に勝てぬからと裁きなど与えては、次の者がかかってこれまい?」


「では… ワシは……」


「無論――  巣に、帰るのみだ。お前は最早、我が臣下ではない」


「………っっ」



顔を地に伏せて隠した竜王。

それを背にして、魔王は他の者を眺め見て言った。



「さて… 次は、どいつだ? 戦わずして帰るのも構わぬがな」


しばらくの間沈黙を続けた室内は、次第にザワザワと騒がしくなっていく。


他種族からも信頼の厚い竜王を手当てしようと動き出す者。

仲間の住む場所へと遣いを放つ者。

ただただ圧倒されて、興奮気味に語りだす者――



「魔王サマ」


「む? おまえも、俺にかかってくるか?」


「異論なド、持ちあわせなイ。強き我が王、その強さに魅せられタ」


「クク。筆頭として認めるわけにはいかぬのでは?」


「構わなイ。同族から異議があれバ、我が筆頭となリ、我が一族を従えテ、魔王サマについて参りまス」


「好きにしろ」


「それよりモ、魔王サマ。かかってくる者がいないのなれバ――」



「是非とモ。1戦、お相手願いたイ」


「……怪我などしてくれるなよ」


魔王にとって、それは単なる時間つぶしだった。


庭先だけでは狭いのか、太鼓橋の向こうまで駆け、嬉しげに尾を立てている獣と

魔力による弾撃でそれを決して近づけさせぬ魔王。


微笑ましくじゃれ合うかのように声を掛け合ってはいる二人だが

その一撃・一蹴のどれもが、粗く地面を削っては破裂している。


その様子の狂気さを見て、蒼い顔をした臣下がまた一人去っていった。



そうして日没も近づく頃になり、ようやく魔王殿は静けさを取り戻した。

その場に残った者の数は、元居た半分ほど。


充分に翻弄された獣王は、近づく事もできぬ程に強い主人に満足したらしい。

疲れて床に伏せた獣王。

その腹元にもたれかかるように座った魔王が、笑っていた。



「神界を、堕とすぞ。


来たいやつだけ、来るが良い――」



尊大で、傲慢。

その言葉通りの笑みを浮かべつつ、何気なく広げた掌の指先一本づつに、小さな炎の玉を浮かばせる魔王。

それを気品と優雅さに満ちた扇さばきであおぎ、庭先の灯籠に飛ばす。ぽう、ぽうと小さな灯火が庭に揺れる。


真似事とはいえ先程まで派手な戦闘を繰り広げていたとは思えない様子で、夕涼みのように昏く重い風の感触を楽しんでいるようだった。



(……自分の無力さなど…とうに、わかっていたというのに…)




(天使殿――)



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