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朝起きたらイケメン大学生になってました  作者: 蒼狐


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第2話 もう一人の自分

二日目も、私は高橋悠真の体で目覚めた。


「……まだ戻ってない」


ため息をつきながら悠真のスマホを確認すると、LINEの通知がたくさん来ていた。

テニスサークルの後輩から「悠真先輩、今日の練習来ますか?」、ゼミの教授から資料の依頼、そして見知らぬ女の子から「おはよう!今日も頑張ってね♡」というメッセージ。


「この人、忙しい……」


私は鏡の前で深呼吸した。

イケメン大学生の顔でため息をつくのも妙な感じがする。


今日は週末だったが、悠真はサークルの練習と就活セミナーがある予定だった。私はテニスなどしたことがないので、練習は「体調不良」で休ませてもらうことにした。代わりに就活セミナーだけ行く。


セミナー会場に入ると、周りの大学生たちがチラチラとこちらを見た。

「高橋くん、今日もかっこいいね」「あの人、どこの企業受けてるんだろう」といった声が聞こえてくる。


講義が始まると、講師が「自己分析が大事」と言いながらワークシートを配った。

私はペンを握りながら悩んだ。

佐藤あかりとしての私は「普通でいいや」と思っていた。でも今、この体で「高橋悠真」として生きると、周囲の期待が重い。


ワークシートに書いた言葉は、こんな感じだった。


「本当にやりたいこと → わからない

周りに期待される自分 → 疲れる

本当の自分 → 見失いそう」


セミナーが終わった後、ふらふらとキャンパスを歩いていると、悠真の友達らしい男子が声をかけてきた。


「悠真、どうした? 顔色悪いぞ。就活やばいのか?」


私は少し迷ってから、正直に(悠真の言葉で)答えた。


「……なんか、自分が何したいのかわからなくなってさ。本当は小説書きたいのに、親が安定した企業にって言うし、周りも期待してるし」


友達は少し驚いた顔をして、肩を叩いた。


「お前、昔から小説書いてたもんな。俺は知ってるぞ。1年生の時にサークルで読んだやつ、面白かったぜ。

期待に応えようとするのはいいけど、死ぬほど我慢すんなよ」


その言葉が、妙に胸に刺さった。


夜、悠真の部屋に戻って、私は書きかけの小説ファイルを開いた。

タイトルは『鏡の向こうの自分』。

主人公は自分そっくりの人間が鏡の中から出てきて、別の人生を生き始める話だった。


「……悠真も、私と同じようなことで悩んでたんだ」


私は悠真の体で、その続きを少しだけ書いてみた。

ぎこちない文章だったけど、書いてる間だけは自分が「あかり」であることを忘れられた。


三日目の朝。


目が覚めると、自分のいつもの小さな手が視界に入った。

自分の部屋、自分のパジャマ、自分の声。


「……戻ってきた」


私は飛び起きて鏡の前に立った。そこには見慣れた、ちょっと眠そうな女子高生の顔があった。


安堵と、少しだけ寂しいような、不思議な気持ちが混じった。

私はスマホを取り出して、悠真のSNSを探した。

彼の最新投稿は、昨日私が書いた小説の続きらしき短い文章だった。


「鏡の向こうにいたもう一人の自分と、今日やっとちゃんと話せた気がする。

これからは、自分の言葉で生きてみようと思う。」


私は小さく微笑んだ。


高橋悠真という人は、今頃自分の体に戻って、私と同じように驚いているのかもしれない。

そして少しだけ、昨日よりも自分の人生を大切に思ってくれているといいな。


私は制服に着替えながら、呟いた。


「イケメン大学生も大変なんだな……

でも、ちょっとだけ、かっこよかったよ」


窓の外は、いつも通りの朝だった。

ただ、私の中の何かが、少しだけ変わった朝だった。

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