第九十四話 Too dazzling.(眩し過ぎて)
「ちょっと恥ずかしい」
灯が、バスローブを脱がすにモタモタしてると、幸子が言う。
「プールに入っちゃえば見えないから!ねっ!」
「あ、そっか。じゃ、早く脱いで早く入っちゃえばいいんだ」
「そうそう」
二人揃って、さっとバスローブを脱ぐとプールに入る。
温水プールだから、事前に体操もしなかった。
享が何気なく様子を伺っていて汐恩に話しかける。
「あ!体操もしないで入りました」
「温水プールなら大丈夫だろ?ま、とりあえず声かけておくか」
汐恩がプールサイドに向かうと、女子二人に声をかける。
「享が心配してるから、中で一応体操はしろ」
「体操?」
幸子が笑いながら
「ほら、やっぱり灯ちゃんのことが心配してる」
「子供扱いなだけですって」
「とりあえずストレッチはしましょ。足がつることもあるから」
「はい!」
二人は腕を伸ばしたり、ぐるぐる回したり、足の屈伸をしたりした。
そしてビーチボールでバレーボールもどきを始めた。
「あ!ごめん!」
幸子が灯に返したボールがプールサイドに飛んでいってしまった。
慌ててプールから上がると、その後を追いかける灯。
汐恩が分からない事を享に聞こうとしたとき、享は頬杖をついて灯の走る様に見入っていた。
「おいおい、見惚れてんのか?」
「は、すみません」
「いや、こっちこそ、ごめんな。勉強なんかに付き合わせて」
「いえ、そんなことないです。パパッとやっちゃいましょう!」
そうは言いながら、レポートは専門用語のこともあり、なかなか進まなかった。
「ちょっと疲れたね、一回上がろっか?」
「あーそうですね。温水プールって意外と体力持って行かれますよね」
灯も幸子もプールから上がると、バスタオルで身体を拭いてから、バスローブを身に付けてデッキチェアに仰向けで横たわった。
まだ陽が高い。
辺りはポカポカしている。
汐恩も享も、実は今、幸子と灯の水着姿に釘付けだった。
「享、おい……」
小さい声で話しかける汐恩。
「言いたくないけど、右、鼻血出てるぞ」
「え、本当ですか……ヤバい、ちょっと洗面所に行って来ます」
「あぁ、静かにな……どう思われるか心配だからな」
「はい、では」
灯は享が上向き加減で、リビングに入っていくのを見た。
『どうしたんだろ?具合も悪いのかな?』
灯は立ち上がると、享の後を追うようにリビングに入っていった。
汐恩は、それに気づいていたが灯を止めなかった。
洗面所で顔洗う享。
ドアの外から覗き込むと灯は、享に声をかけた。
「Tall?どうしたの?何かあった?」
その声に、享は慌てて振り向いた。
「灯……」
「ちょっと、鼻血が出てるじゃない!ティッシュ持ってくる」
「あ、ここにもあるから大丈夫。心配しないで中には戻って」
「え?やだ、心配だもの」
「灯、頼むから」
「何で?」
ようやく観念したかのように、享が呟く。
「灯の水着姿が可愛すぎて、眩し過ぎて……」
「え!?」
「だから、出ちゃっただけだから……」
「何それ?私なんかの水着姿に?」
灯は棚の中からティッシュの箱を取り出すと、享の鼻に背伸ばして二〜三枚取り出したティッシュでまずは抑える。
享はその手の上に自分の手を重ねると、
「大丈夫だから自分でできるから、心配しないで」
「心配するよ」
灯は享の手から自分の手を抜くと、ティッシュを丸めて鼻に入れるものを作った。
「はいこれ、詰めて」
「うん、わかった」
「両方?」
「右だけ」
「そう、頭を上にした方がいいとは思うけど、どこかに座らないと……そうだ」
灯は、バスタオルを二枚重ねて広げると、享に向かって横になるように言い、自分がその横に座りバスローブ越しとは言え、太ももあたりに頭を載せるようにさせる。
『灯、これじゃ、もっと出ちゃう気がするよ』
享はまた修行の境地に入る事になった。
「冷やした方が良かったんだっけ?」
「いや、このままでいい」
「ん?」
「このままがいい、手握ってくれる?」
「あらあら、Tallくんったら甘えん坊さんですねぇ」
「甘えん坊です」
「あれ?素直」
灯が笑う。
享にはまだ目に焼きついた灯の可愛いピンクの水着姿が思い出されて、今ここに、その灯がいるのかと思うと、胸の鼓動は収まることを知らないのかと思うくらいドキドキしていた。
その様子を物陰から覗く汐恩と幸子。
「汐恩くんったら趣味悪い」
「いやいや、あの二人の行く末が心配なだけだ」
「そう言うのは、本人達がどうにかするものでしょ」
「いや、手助けが必要なはず」
「手助けって?何する気?」
「うーむ、そうだなぁ。あの無邪気極まりない妹をどうにかしてやらないと、享はいつまでたっても、あんな思いをさせられたままになる」
「でも、それこそ二人がどうにかすることでしょ?」
「いやいや、少しだけ背中を押してやればいい」
汐恩の思いつきに、少し不安な幸子だった。




