第九十一話 Should we just take all those days off?(連休にしちゃう?)
このお話に登場する"鎌倉の別荘"は、前作の"100分の2の青写真"にも登場した建物ですが、似て非なるものとお考え下さい。
当時完璧に考えついた別荘につき、今回は、その外装及び内装を少し変えての流用しています。
ご理解の程、宜しくお願い申し上げます。
四月二十九日は天皇誕生日。
その後数日後、五月三日からの三連休の前に日曜日が入る。
自習休講にして帰省する学生も少なくない。
享はほとんど大学に行かないし、灯は享が送り迎えしてくれるのを申し訳なく思っていた。
新聞を読み耽る享に灯は遠慮がちに話しかけた。
「あのね、Tall……思い切って今日から五月五日まで連休にしちゃわない?」
「え?灯もそう思ってた?」
「え?Tallも?」
「天気も良さそうだから、旅行とかどうかな?って思ってた」
「旅行?え?どこに?」
「それは考えてなかった」
「考えてない?」
享は笑った。
「本当は考えてた。鎌倉の別荘、覚えてる?」
「ん?別荘?」
「ずっと使ってなかったけど、手入れだけはして貰ってるんだ」
「プールのあるとこ」
「そう」
「山の中の」
「そう」
「行きたい!」
明日から鎌倉にある横溝家の別荘に行くことになった。
朝、荷物を持って享と灯がマンションの外に出てみると汐恩と幸子が待っていた。
『二人きりじゃなかったんだ』ちょっと灯はガッカリした。
「よお、おはよう!」
「おはようございます。宜しくお願いします」
汐恩と享は今日の予定を話してる。
その後、汐恩が灯に話しかけた。
「子供の頃、連れて行って貰った事あったよな」
「そうだったね。お兄ちゃん、車変えたんだ」
「あーその、幸子が天体観測に行きたいって言うから、まあ、それなりのヤツにしないとな」
「へー、優しいこと」
「まあな!」
「享!運転しろよ」
汐恩が、そう言って鍵束を享に投げながら
「俺が助手席に座るからな」
と言い、享はキャッチすると
「はい!喜んで!」
と返事した。
汐恩の車はTOYOTAのランドクルーザーFJ60V。
同じ型式でディーゼル車の方が燃費が良いのにも関わらず、乗り心地重視の本格4WDを幸子との遠出に備えて購入。
当時の車好きやアウトドア派にとって、この4WDのサスペンション※をオーストラリア製の社外品に変えたFJ60Vはまさに無敵の存在。
直6ガソリンの静かさとパワー、豪華なエアコン内装の快適さに加え、社外品の足回りによる"外車SUVや高級セダンにも負けないしなやかな乗り心地"が手に入ったため、長時間運転して鎌倉や伊豆、高原のキャンプ場へ向かうドライブも、全く苦にならない最高峰のレジャーカー。
しかもファブリックシート、パワーウィンドウ、ハイルーフ、エアコン等を備えた最上級豪華グレード車だ。
鎌倉へは当時は首都高速の湾岸線や横浜環状線などの主要なベイエリアのバイパス、首都高中央環状線などが未開通または一部しかできておらず、第三京浜・横浜新道・横浜横須賀道路の開通したばかりの区間を継ぎ接ぎしながら目指すルートが定番。
「本当に走りがいいですね」
享がそのパワーに感動すると汐恩が楽しそうに
「そうだろ、そうだろ」
満足気に大笑いした。
後部座席では、お喋りしていた女子二人がいつの間にか静かになったと思っていたらスヤスヤと眠っている。
それだけ走りがいいクルマという事なのかもしれない。
そうこうしているうちに鎌倉の別荘に到着。
享が先に車を降りると、門扉の錠前を外して扉を開けた。
そこで汐恩が運転を交代した車で中に入り、享が誘導する。
手入れの行き届いた庭が面前に広がり、その奥に平屋ながら高さも奥行きもありそうな家屋が見えた。
享は汐恩に手を挙げて、ここに止める様に合図すると、そのまま歩きで玄関に向かい鍵を開けた。
女子二人も目が覚めて、幸子は初めてなので"素敵なお庭ね"と窓から眺めながら灯に言う。
メグママがお手入れしてたのを思い出して、灯はちょっと泣きそうだった。
それぞれ荷物を持って建物の中に入る。
玄関も高さのあるオーク色の木の扉、その上には葡萄の実や絡み合う蔓のモチーフのはめ殺しのステンドグラスが入っている。
背の高い玄関扉の上は天井までステンドグラスが続いていて、まるで教会の様だ。
改めて玄関呼ぶよりも玄関室と呼ぶのに相応しいと、その広さから感じられる。
享が中に皆を誘導した際、ちょっとした建物についての説明をした。玄関を中央に左廊下側一番奥にバスルームとシャワールームが二つあり、中庭からも入れるように扉があるらしい。そこにランドリールームが併設されている。
一番手前にトイレ二つ、右手の廊下側は居室なのか離れた位置にドアが二つ見えている。
「奥の部屋を幸子さんと灯が使って」
「え?俺、享と同室?」
「すみませんが、いずれもツインなんで宜しくお願いします」
「はあ、了解」
そして、その設備はと言えば、どちら側も等間隔に腰高の両開きの窓が見えている。もちろん窓枠とレバーは黒鉄だ。
そしてリビング。
玄関前のドアと言っても普通のドアではない。
これもまたステンドグラスが何枚か入っている両開きの大きな扉と言ってもいいくらいのドア。
取っ手は飾りのついた、ここも黒鉄のレバーになっている。
全開にしたら、きっと、玄関からそのままリビングへと開放感があるスペースとなるのだろう。
白い漆喰の壁。
リビングは高さのある天井に何畳あるのかと思うくらいに奥行きがある。扉を真ん中に両側に繋がる壁面だけでも左右に七〜八メートルほどはありそうだ。
左手に伸びた壁の途中には暖炉が見えていて、その先には少し間が空いてカウンターがある。多分間が空いてるところがキッチンに繋がる場所なのだろう。
どちらかと言うと飾り気がないが、柱があるのか?と思われるくらいに右手はその天井の高さまである窓ガラスがずっと奥まで続いていた。
外側に少しアールがかかっている様にも見える。
※サスペンション・懸架装置
車のタイヤと車体の間についている「クッションと足回りの仕組み」のこと




