第八十話 At the DNA level(遺伝子レベル)
灯の帽子を買った帰り道、洸平の美容院に寄った。
灯は洸平に、享はオーナーに、それぞれカットして貰うことになった。
「灯ちゃん、髪の毛また綺麗になったんじゃない?」
「え?そうですか?静電気でボサボサになる事あるんですけど」
「それは季節柄仕方ないと思うけど、伸ばしてた時
も良かったけど、もっと良くなった」
「もしかしたら食べ物とか関係あります?」
「あぁ、そりゃ食べるものによって身体は日々、新陳代謝してるわけだから……髪も一緒。ほら、栄養不足だと爪に出るとかあるっしょ」
「じゃ、それはTallのお陰です」
「え?享の?」
「私、食が細いんで栄養面をすごく考えて、ご飯作ってくれるんです」
「そうなんだ」
「何か、僕の話してる?」
隣から享が口を挟む。
「いや、灯ちゃん、また髪の毛が綺麗になったなぁ、って話。享のお陰だって」
「あかりん、そんな事話しちゃダメだよ」
「え?何で?」
「羨ましがられるでしょ」
洸平が言った。
「そうだった……最近、享の作った飯食ってなかった!!あの最高の飯を食べてるから、綺麗になってってんのか!灯ちゃんは」
灯は照れ笑いする。
「いやいや、そんな」
「いいよなー!俺が享を嫁にしたいくらいだもん!……嫁と言えば、ちょっと聞きたいんだけど」
「何ですか?」
「洗濯とかは、どっちがしてんの?」
同棲していることを知っている洸平に切り込まれるも、灯は、はっきり答えた。
「私です」
「え?享の分も?」
「食事も掃除もしてくれるんで、洗濯くらいは……だって洗濯機がしてくれるから」
「あのさ、二人分一緒に洗う?」
「はい、もちろん」
「分けたりしないの?」
その問いかけに、灯は不思議そうに聞く。
「え?柔軟剤の香りが享の匂いなんで……分ける必要はないかと」
「へえ……」
「どうかしたんですか?」
「俺の彼女はさ、一緒に暮らしてる訳じゃないけど、洗濯してくんないんだよね。臭いって言うんだ」
「洸平さんが?」
「うん」
「え!?全然、そんなことないですけど!」
「気を遣わせて悪いね」
「いえ!本当にですよ。いつもいい匂いがします」
「え?そう」
洸平は灯にそう言われたら、まんざらでもないらしく嬉しそうに笑った。
そこで享がまた口を挟んだ。
「それはさ、遺伝子レベルの話しかもよ」
「遺伝子?」
洸平と灯が一緒に聞き直した、ところで享のカットは終わり、オーナーがケープを外した。
「はい、お疲れ様でした」
「有難うございます!サッパリしました」
洸平が灯の髪のカットを仕上げながら、享に尋ねる。
「遺伝子レベルって、何なんだよ?」
「遺伝子ってさ、お互いのルーツが分かるんだよ」
「え?何だそれ?」
「変な話、昔は家系を重んじて、近い親戚同士での婚姻とか多かった時代もあったとは思うけど、これって血が濃すぎて免疫力の低下とか遺伝病の心配とか多かったんだ。1970年半ば頃になって分かって来たことで、近しいルーツを持つものは遺伝子レベルで、まあ女性の方が敏感らしい」
洸平も灯もオーナーも享の次の言葉を待つ。
「匂いだ」
「匂い?」
「年頃の女の子が、お父さん臭いからイヤって、よく聞くだろ」
「あー、臭う訳でもないのにね」
と、思うところがあるのかオーナーが頷く。
「あれは遺伝子が警戒信号を発しているらしい。近親者とは……まあ、婚姻しない様にって」
「あ、そう言う事」
オーナーは安心した様に呟いた。
「むしろルーツが遠いと匂わない、むしろ惹かれ合うかもってことも。そうやって近しい遺伝子を遠ざける様に遺伝子が操作してる……らしいって」
「そうすると、遺伝子レベルで俺と彼女はルーツが近いって事かもしれないのか……」
「意外とたどったら、親戚だったりしてね」
「まさか……ないない!!」
洸平が笑うと、皆んなつられて笑った。
帰り道、灯は享に聞く。
「さっきの話、本当?」
「遺伝子の話?」
「うん」
「そう言う話があるって、何かで読んだ」
「洸平さん、大丈夫かな?」
「何で?」
「遺伝子レベルでなんて言われたら、ずっと匂いがどうとか言われちゃうかもしれないって事でしょ」
灯の顔を見ながら、享が言う。
「妊娠すると女性って変わるらしい」
「え?何で?」
「遺伝子が赤ちゃんを守ろうとするから、今まで匂いがどうとか言ってたのに、一緒に守らせようとして、匂わなくなるらしいよ」
「ホントに?」
「生とし生けるものの神秘だね」
「へぇ……すごいね」
「僕は灯の匂いは元々好きだ」
「え?同じ柔軟剤だからじゃないの?」
「違うよ、灯には灯の匂いがある」
「……そんなのある?」
「あるよ、甘い匂い。それに引き寄せられて今も一緒にいたいのかもしれない」
享が優しい目で灯を見下ろす。
灯は、そんな享と手を繋ぎながら、そう言えばと思った。
『柔軟剤の香りが懐かしくてTallの匂いと思ってたけど、そうじゃなくてTallの匂いが好きだなんだ。引き寄せられたのは私もだね』
洸平に髪を褒められて灯は身体がどんなもので構成されているか?と言う事自体、関心がなかったが、享の作ってくれるご飯が今の自分を作ってくれていることが分かって、少し嬉しくなった。
「今日の晩ご飯は何かなぁ、楽しみ!」
灯は享に抱きついて胸いっぱい息を吸った。
皆様いかがお過ごしでしょうか?
いきなりですが、まずはお詫びです!
すみません!!
超インドア派の身体も心も弱い優月菜は、本当に夏の暑さや解放感に弱くて、少々体調を崩してしまいました。
最新話をお楽しみにして下さっている皆様には、本当に申し訳ないのですが、金・土曜日の2回投稿を今しばらくお休みさせて頂きます。
毎日午前8時の投稿は頑張りますので、これからもご覧頂きます様、宜しくお願いします!!
今後の展開も乞うご期待です!
優月菜




