第七十九話 As long as I'm with you, that's all that matters.(二人でいれば……)
暦は早くも二月に入った。
昨年年末から続く寒波の影響で毎日が寒い。
灯は頭が寒いと帽子を、享のバイク用の手袋を新調することになって、まずはバイク用品専門店に来ている。
享がいるだけでも店内は一部騒然とするが、小さく見た目は可憐な灯が一緒にいると、バイク野郎共は羨ましそうに眺めてしまい、買い物を忘れて注目したままだ。
「これ、カッコいい」
白にブルーのラインが入った革の手袋を差し出す灯。
それを見て、享が言う。
「LLサイズあるかな?」
「ん、ないみたい」
「残念!でももし出来たら暗めの色の方が汚れが目立たなくて、いいんだけど」
「あ、そっか、そうだよね!」
今日は灯が運転するバイクで来ているので、享は後ろに乗る。
手袋売り場を二人でウロウロしてる時、灯が思い付いた様に言った。
「そう言えば、Tallは私の後ろに乗る時、何で私に掴まらないでクラブバーを掴むの?」
「え?マジで言ってる?」
享は笑いを堪えながら言う。
「何で?」
「考えてみてよ、灯は体重何キロって聞くと怒るけど、僕は多分二倍はあるよ」
「うん、それはそうかも」
「その体重の僕が灯に掴まったら、灯はバイクのハンドル握りながら僕の体重分の負荷にも耐えなきゃならなくなるんだよ」
「あ、そうか」
「あと、灯が僕の身体に振られない様に脚で灯の腰も押さえてるつもりだったんだけど」
「あ!あれ、足が長いからじゃなかったんだ!」
「それは、そう思って頂けたのなら光栄です」
「そかそか……じゃない!ごめん、いつも有難うだった!気づかなくて、今頃、ごめん」
享は灯の頭を撫でながら言う。
「もう、可愛いなー灯は」
「ちょっと!それ、やめて」
「何で?」
「今、乾燥してるから、すぐボサボサになっちゃうんだもん」
「そう言えば、伸びたね」
「綺麗に伸ばしたいから……また洸平さんとこ連れて行ってくれる?」
「そうだなぁ、僕もそろそろ切って貰いたいし……帽子買ったら行く?」
「え、助かる」
「よし、じゃ、今日はもういいや。移動しよう!」
「え?」
「ほら帽子買いに行こう、どこにしよっか?一度、家に帰る?」
「え?手袋は?」
「またでいいよ」
「でも」
「いいから、いいから」
バイク店の駐車場を出る時、灯が運転をしているバイクに、店内のバイク野郎共が釘付けだったのを享だけは気づいていて、内心、優越感に浸っていた。
そして出直しての「おかじゅう」
最近の灯のお気に入りは、散歩中に見つけた住宅街の一角にある手作り品と輸入品をを扱う洋品店だ。
「こんにちは」
灯が声をかけて享と一緒に店内に入ると、中から明るい声が返って来る。
「あら、こんにちは!いつもお仲がよろしい事で、いらっしゃいませ」
歳の頃は五十代、素敵な奥様と言った雰囲気の女性がオーナー兼売り子のこじんまりしたお店だ。
「今日は?何をお探し?」
「帽子が欲しくて」
「こちらに毛糸のものと、あちらの壁に掛けてあるのが布製よ。いいものがあったら、お声を掛けてね。お取りするから」
「はい、有難うございます」
基本、ここからはオーナーはカウンターの中に入り、椅子に座ると横文字のファッション誌を読み始め、お客様から声を掛けられない限りは無駄な接客はしない。
これが灯はがこの店を好きな理由だった。
「毛糸の帽子が欲しいんだよね」
「綺麗な色使いなものが多いね。形にこだわりはないの?」
「形?」
「そう形」
「あ、これ」
灯がカートに色々入ってる中から取り出したのは、耳当て付きニット帽※だった。
「可愛いね」
「耳が隠せるのがいいなぁと思って」
「あとは色使いだよね……紺と水色……」
「これ?」
「うわ!どんぴしゃ……」
何と、紺色を下地に、三目飛ばし位で水色の小さなVを描く様に入った網目の二本のボーダーの間に白い花模様が描かれている様な柄が入っている。
垂れ耳の部分にも花柄が入っていた。
テッパン中のテッパンデザインに巡り合ってしまった。
「被って帰る?」
享が手にしたまま聞く。
「Tall、自分で買うから!」
「何言ってんの?これは灯の物だけど、灯は僕の恋人だから僕が買うの」
「んー」
文句を言っても何をしても、いつも支払いは享がしてしまう。
でも、毛糸のマフラーと同じ様に内緒にすれば……灯の中で次の行事、バレンタインデーの思惑が膨らんでいた。
帰り道、帽子を被った灯はショーウィンドウがある度に、ガラスに映る自分の帽子を見てしまう。
手を繋いでいる享は、その度にちょっと立ち止まるを繰り返すので苦笑いした。
帰りの電車の中でも対面のガラスに映る自分の帽子が気になる灯の様子に隣同士の席に座ると灯の耳元で享が囁く。
「お嬢様、帽子がよくお似合いですよ」
「ごめん!被ってると見えないから……取ったら多分、静電気で髪の毛ボッサボサになっちゃうし」
「って言うか、対面の席の男子が灯が見てると思って勘違いしてるから、やめて」
「え?」
「はい、そっち見ない」
享が思わず灯の顔を自分の方に向ける。
「ごめん……気づかなかった」
「本当、灯は真っ直ぐだね」
「どうせ、バカですよ。体重差も考えずに掴まってくれないとか思ってたくらいだし….」
「嬉しかったけどね」
「え?」
「そんな風に思ってくれてたなんて思ってもみなかったから」
「えっと、そう?」
灯は目をぱちぱちさせて顔を赤くした。
「灯は本当可愛い」
享は灯の頭に自分の頭をこつんと寄せる。
お互いの手を握り合ったまま寄り添う二人。
二人でいれば、どこでも楽しい。
電車の線路がどこまでも続いていればいいのにと思った灯だった。
※ 飛行帽風・耳当て付きニット帽
耳の両脇に垂れ(耳当て)がついていて、顎の下で紐を結べるようになっているタイプ。




