第八話 The timeless her(変わらないままの彼女)
「あかりんを大学で見かけた時には本当に驚いた」
灯は思う。
『いつも俯き加減で校内を歩いていたからって、こんな髪の色から何から外人にしか見えない、でっかい男子に気づかないってあるのかな?』
享が思案げな灯に気づくと、こう言った。
「春休み※に入ってから九月まで、祖母の具合が悪かったからマサチューセッツに行ってたんだ」
「え?おばあちゃんが?……それで……?」
「僕は母さんの故郷のマサチューセッツの祖父母に預けられて……そのまま学生生活を送ったから……祖母が具合が悪くなった時、どうしても一緒に居たくて……でも具合が良くなったから戻って来たんだけどね」
「良かった!おばあちゃんが良くなって!」
顔を真っ赤にして灯は喜んだ。
数年前とは言え、母に続いて祖父も亡くした享が、また悲しい想いをするのは嫌だった。
『そうか、お母さんが、無くしたけどTallのパパから二つ連絡先を預かってたって、ニューヨークとマサチューセッツだったのか』
「相変わらず優しいね、あかりん」
「いやいや、当たり前だよ!」
「そんな事ないよ。さっきだってスクランブルで、お年寄りの荷物持ってあげてたよね」
『え?そこ見てたの?』
李人とは一緒に東急ハンズに彼の買い物に付き合う予定で、スクランブル交差点を渡っていた時、たくさんの手荷物を持った着物姿のお年寄りの女性がモタモタと駅に向かって渡っているのを見るに見かねて、逆方向だったが荷物を持って付き添ったのだ。
それが後に李人の逆鱗に触れた。
「あれは、たまたま」
「でも、あれを彼氏は気に入らなかった」
「んー、前々から言われてたんだけど、そうそう自分って変えられないし……あぁ言う時、見過ごせないし。でも、もうアイス食べたから、スッキリした!あんなのばかりなら男子はもういいや」
「僕は二年もあかりんを探したのに……こっちに帰って来たら、同じ大学にあかりんが通ってた上に、彼氏がいて……ショックだった」
「え?でも、何年もお互い音沙汰なしだったんだし」
「探したんだってば」
「そんなの知らないよ」
享は、頬を紅くしながらも、そっぽを向いた灯に言う。
「でも髪は伸ばしてくれてたんだよね?」
「これは……あいつも髪だけは褒めてくれたから」
「あいつ?あぁ、さっき別れた彼氏ね」
『本当は違う……いつかTallに会った時、"ほらこんなになるまで頑張って待ってた"って言いたかったのに……髪の毛伸ばしながらも、もう会えないって諦めてたんだ、私』
灯のもう会えるはずはないと諦めた享への封印していた気持ちがだんだんと溢れ出しそうになっていた。
「今日、切ろうと思ってた!」
「そうなんだ。へぇー!どこで?何なら行きつけの店、紹介しようか?」
『こんな事、言いたくて灯を引っ張って来た訳じゃないのに、何言ってんだ、僕は』
「じゃ、頼む」
「え?」
「行くわ、このあと」
「髪切るの?」
「うん」
だか、そこで灯は違う事を言い出した。
「でも、その前に。Tallはさ、今日行くところがあって渋谷に来たんじゃなかったの?」
「え?なんで?」
「さっきの女が彼女じゃないなら、デートでもなかったんでしょ?」
『灯は相変わらず鋭い』
享はそう思いながら、ある事を切り出した。
「あのさ、僕達、付き合わない?」
「え?!」
本気の驚きの声を上げた灯に、他のテーブルから享に視線が集まっていたのと別な視線が集まる。
「何、言い出すかと思えば、今日学内の彼氏に振られた女が、来週、三年のハンサムと付き合い始めてたら、どう思われると思ってんの!?」
「どうって?」
「ここではね!尻軽とか、節操がないって言われちゃうんだよ」
「えー日本って面倒くさいんだね。あっちじゃ、昨日のカップル同士が今日入れ替わってるなんて、よくあったけどな」
灯は正直、享の本心が分からなかった。
『探す為に日本に戻ったって、本当に会いたくて探してくれてたんじゃないの?からかっただけ?」
享は享で
『あかりんを幸せにするのは僕だと思ってたけど』
「あかりんが彼氏くんといる時、微妙な感じで心配だった、けど、恋人同士のことは分からないから……見守って行く気だった。でも、今日のことがあったから」
「だから?でも私は男はしばらくこりごりだから、誰とも付き合いたくない」
『Tallと、もっと早く会えてたら……』
「だからさ、お互いの為に付き合うフリしない?」
享の言葉に灯は耳を疑った。
※大学の春休みは後期テストが終わると始まるので、ニ月下旬から開始。




