第七十話 The way home.(帰り道)===加筆・修正あり
享が考えたクリスマスイベントは大盛況で終わった。
享は崇に今日のこの"遊び"に付き合ってくれたお礼を告げた後、
「もみの木も引き取りまで頼んであるので、明後日には回収に来ます」
「え?そんなことまで?」
「せっかく飾り付けたのに勿体無いですけど、こんな大きい生木だと手入れも大変ですし、もう、年末年始がそこに来てますから神社に戻って頂かないと」
「何から何まで、琢磨のお喋りから出たことに本当に有難う。享くん」
「あ、いえ。この後はご両親サンタさんが琢磨くんの願い事を叶えてあげて下さい」
「ああ!もちろんだよ」
崇は笑いながら大きく頷いた。
後片付けもケータリング業者が、後から持ち寄ったものまでタッパーなどに詰め直し、千紗子に託す。
テーブルや椅子も片付けてくれた。
至れり尽くせりだ。
そして楽しい気分のまま、それぞれ帰路に着いた。
「少し遠回りして帰ろうか?」
享に問われ
「うん」
灯は頷いた。
目黒川沿いを散歩しながら下って行く。
「春になったら桜が綺麗なんだよ」
「あぁ、名所なんだってね」
「でもね、屋台とかは出るのは目黒不動尊とかなんだよねー!そこでイカ焼きとか食べながら桜見るの、どう?」
「さっき、お腹いっぱいって言ってたのに、もう来年の春に食べるものの話?」
灯は右手で握っていた享の左手を強く握り直して、享の顔を見上げた。
「だってTallと一緒にいると楽しいことしか考えられないんだもん」
享は、その恥ずかしそうに笑う灯の手を引くと抱きしめる。
夕闇迫る川沿いの道。
行き交う人達は「え?」と言う顔で二度見するか、知らんふりして通り過ぎるかのどちらかだった。
「Tall?」
「灯……」
桜の木の下の影に灯を押し付ける様に追い込むと享は灯の唇に、熱のこもった口づけをした。
何度も何度も繰り返す。
やがて、ハッとした様に享が身体を離して灯に言った。
「ごめん。こんなところで……」
「……大丈夫」
享の心遣いのお陰なのか、灯は最近悪夢を見ていない様な気がしていた。
「Tallのお陰で毎日本当に楽しい」
頬を染めながら言う灯の言葉に享は戸惑いを隠せない。
『本当に?聞きたいことはたくさんある。灯は僕に何をされても怖くないと言った。だからと言って、灯の心身の状態を考えたら、それを鵜呑みには出来ない……もっと、近づきたいのに……』
「あかりん!」
「ん?」
「腹ごなしに家までカケッコしない?」
「え?、ここから?」
「うん!で、帰ったら、うちにも小さいけどツリーがあるから飾り付けしようよ!」
「え!!ツリーあるの?」
「あるよ、小さいけどね」
「カケッコってさ、マラソンみたいな感じ?それとも、どっちが速いか?って感じ?」
「マラソンだな!ちょうど家に着く頃、汗かいて、シャワー浴びて、ツリー飾り付けして、ちょっと何かつまみながら、またシャンパンのもう!」
「今日だけさ……シードル飲んでみたいなぁ」
「え?あれはお酒だから……」
「先についた方の言うこと聞く!は?」
五十メートルくらい離れて、灯が振り返る。
「あ!ずるいじゃん!」
「へへ!お先に!」
「おい!こら!待て!」
追いかけっこになった二人の勝敗や如何に!?
「やっぱりTallには、勝てっこないか……」
マンションの近くまで来た時に、既に息も落ち着いた享が待っていた。
「でも灯、足速いよ」
「短距離は自信あるんだけど、マラソンはちょっと不得意なんだよね」
「多分、息遣いとか練習したら速くなる気がするけど」
「いやいや……あ、でも、起きられたら享と一緒に朝のジョギングに行こうかな?」
「え?本当?」
「うん!来年のお正月からね」
「それか。やるか分からんやつだね」
灯は笑った。
享も笑った。
部屋に戻る前に近くのスーパーで、軽い夕食用の買い物をする。
「アイスが食べたい」
「ケーキ食べたのに?……あ、でも灯は少し体重増やした方がいいから、食べた方がいいかな」
「また、それ?私、そんな痩せてないからね!」
「いや、四十キロあるかないか?でしょ」
「もう!体重の話はやめてってば」
「心配なんだって、毎日、僕の作ったご飯を一緒に食べてるのに、ちっとも大きくならないから」
「もう、これから大きくはならないよ!」
「いやいや、体重を増やしたいんだって、足細過ぎだから!」
「Tall、お母さんみたいでウルサイ」
「え?」
「あれ食べろ、これ食べろって、さっきもローストビーフのサラダ山盛り持ってくるから、他のものあまり食べられなかったし」
「食が細過ぎなんだって」
店内用の買い物カゴの中に、こんな会話をしながら、お互いが食べたいお惣菜やらお菓子やらをバンバン入れて行く。
「あれ?シュトーレンもあるね」
「本当だ。でも二人には大きすぎるかな?」
「そっか、そうだね」
クリスマスのケーキといえば、享の母マーガレットが、よくシュトーレンを焼いて長谷部家にも、お裾分けしてくれていたものだった。
粉砂糖が綺麗まぶされた、洋酒に漬けたドライフルーツやナッツがぎっしり詰まった、日持ちする濃厚な生地のケーキパン。
本来ならクリスマス前から少しずつ食べて、クリスマスが来るのを待つと言ったものだ。
「来年はシュトーレン焼くよ」
「え?Tallが?」
「実は、僕の料理、メグのレシピブックから作ってるんだ」
「そうだったんだ……最初から上手なのかと思ってた」
「まさか」
享は嬉しそうに笑う。
帰り道、小路を、また手を繋ぎながらブラブラ歩く二人。
その時、後ろから来たバイクが二人の横をわざとギリギリのところをスピードを出したまま近寄って通り過ぎた。
享は慌てて灯を抱き寄せた。
「危なっ!何あの運転下手すぎるよね」
灯は何も気づいていなかったが、享には悪意を感じるのに十分な走りだった。
『これから第二章開幕ってとこか?本当、イライラさせるな』
享の中には、ずっとある疑惑が渦巻いていた。




