第六十八話 Wandering around Ginza.(銀ブラ)
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物語はまだまだ波乱を呼ぶ展開を考えております。
皆様のご期待にお応えできるといいのですが…ご覧頂いている方が増えることが本当に嬉しいです!
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「お食事は美味しかった?浜作さんは鯛めしが有名みたいだけど食べた?」
「鯛めしはもう絶品だった。甘鯛の松かさ揚げもサクサクで……思い出しただけで、ふふ」
「笑っちゃうほど美味しかった訳だ」
灯と享は手を繋ぎながら、夜の銀座を有楽町に向かってブラブラと歩いていた。
買い物客で賑わう街が終わり、大人の「夜の社交場」へとバトンが渡される、少し艶やかで独特の緊張感と華やかさが入り混じる時間帯。
きらびやかな着物やドレスを着たママさんやホステスさんでも、二度見するほど享は目を引く存在感を放っている。
灯には、その視線が痛かった。
享は本当に素敵だ。
白のハイネックのセーターに紺色のPコートにジーパン、焦茶のコインローファーが、よく似合っている。
そんな享と手を繋ぎながら灯は気後れを感じる。
そして、少し焦る。
こんな私で本当にいいのか?と。
何か話そうと灯は享に聞いた。
「お父さんの話は聞かないの?」
「ん?それは心配してない」
「え?そうなんだ」
「灯も時間が解決するって分かってたでしょ?」
「あ、うん。まあ、そうだね」
あの時、不意に「お父さん」呼びかけてしまったが、嫌な気持ちにはならなかった。
むしろ、その前に「貴方」と呼んでしまった自分の方が今となっては恥ずかしいくらいだ。
享には何でも分かってしまう。
だが、最近の享は本当に近くて遠い。
外出先の方が手を繋げば離さず、電車の中で混んでいて立っていることを余儀なくされれば、誰がどう見ていようと灯を周りから守る様に抱きしめることも厭わなかった。
時には街を散歩していても急に立ち止まると、灯を抱き寄せて小鳥の様な啄む口づけをすることも……。
ところが、それと同時に一歩自宅に入ると享は少し距離を置く様になった。
同居を始めてすぐの頃は、夕飯の後、Tea timeを二人で肩を寄せ楽しんだり、映画のビデオを借りて来て夜中までポップコーンを食べながら観たりしたこともあったが、今は灯の髪を乾かすまでしか享はリビングにいない。
灯は不満ではなく不安になっていた。
「Tall、今、肩車してって言ったらしてくれる?」
「もちろん!灯がしてって言うことは何だってするよ!ほら」
享は灯の足元にしゃがみ込む。
『ワンピースなのに肩車して欲しい訳ないじゃん』
灯はそう思いながら享に言った。
「立って」
「え?肩車じゃないの?」
享は立ち上がると灯の顔を覗き込む。
「Tall、私のこと、今どう思ってる?」
「え?大好きに決まってる」
躊躇なく答える享。
それに対して率直に灯は返す。
「外にいる時とお部屋に戻った時と……違うから」
「あ、うん……」
「Tallが近くにいても遠く感じるの……私自身はっきりしないから遠慮してるのかな?とは思ったけど……この前のキスで分かって貰えたと思ってた」
ビルの屋上にそびえる大きなコカ・コーラやサントリーなどのネオンサインや、夜空に色鮮やかな光が浮かび上がっている。
交差点の時計塔の真下で二人は立ち止まり、ショーウィンドウを背に並んで佇む。
「そうだよね……灯から、そんな事してくれるなんて思わなくて……おかしな態度とってごめん。でも、灯に嫌われたくなくて」
「何言ってるの?嫌いになる訳なんてないよ?」
「いや……人の目のないところでは自分の気持ちを制御出来そうにないから」
「だから?」
「いろんなことがあって、灯の側で守りたくて……でもそんなのただの言い訳で一緒にいたかったのが一番の理由で同居したかった。だけど……今は近くにいればいるほど、本当のところ苦しい」
「何で?どこが苦しいの?」
「……灯のことが好き過ぎて、心も……身体も……自分のものにしたいなんて欲が出た。でも灯に嫌われたくない」
灯は思わず身体が熱くなって俯くも
「嫌いになったりしないのに……」
と、呟いた。が、
「灯、夜中にうなされてることがある」
「え?私?」
「実は、灯が寝た後、リビングで寝てる」
「どうして?」
「心配で……学祭の時、夜眠れなかったよね?」
「あ……うん」
「夜中に喉が渇いて目が覚めた時、キッチンに行ったら、たまたまだけど灯はうなされてた。当然、鍵を閉めてるから外からだけど、声をかけた……大丈夫、僕がいる僕が必ず守るって、そしたら灯が……Tall?有難うって、静かになった。それから気になって、それからリビングで寝てる」
「それが近くいられない原因なの?」
「もし……僕が今、灯のことを独り占めしたいって思ったら嫌がられても止められない……怖がらせたくない」
「怖がる?」
「きっと嫌な思いをする」
「そんな事……分からない」
「それは……そうかもしれないけど。今は僕が自分自身のことが怖いんだ」
「享が苦しいなら……私、寮に戻るよ」
「ダメ!それだけはダメだ。一緒にいたい」
「でも、お互い辛いよ……」
いつの間にか二人は泣きながら話していた。
道行く人達が、憶測を飛ばして見て通る。
「おいおい、ハンサムな兄ちゃん、かわい子ちゃんを泣かせちゃダメだぜ」
酔っ払い達が笑いながら声を掛けて通り過ぎる。
享が灯の手を引いて歩き始めた。
「灯、せめて指切りの約束を思い出してくれないか?」
そう一言呟いた。




