第四十八話 Let’s hit the shops!(買い物に行こう!)
「あかりん、足し算って出来る?」
本当に"もう帰ろうか"になり駐輪場向かうため、校庭を横切る二人。
享が灯に尋ねた。
「え?出来るよ」
「そっか」
「何で?」
「あの時、自分に票入れたら、どうなったかわかる?」
「どうって?何か変わる?……あ、大槻先輩と同点だ!で、何?」
「同点の場合、王子様がお姫様を選べたんだよ」
驚きのあまり声も出ない灯。
「残念!お姫様抱っこを皆さんにご披露したかったのになぁ」
両手を頭の後ろでクロスして、前を歩く享。
「そんなの聞いてないもん」
灯はその場に立ち尽くして泣き始めた。
「あかりん?ごめん、意地悪で言ったんじゃないよ。残念だったから……ごめん」
「ちっ!って、それで言ったんだね……」
「え!?あれ?違うよ!あれはあかりんに言ったんじゃない!本当に本当だから」
「でも、ちっ、って言ってた」
「今は説明しにくいけど、本当に灯に言ったんじゃないから」
「……そんなこと言われたら、わたしだって……おひ……おひめさ……まになりたかった……」
「本当?」
灯は素直に頷く。
「僕だけの姫になってくれますか?」
「え?」
「僕だけの姫だってば」
「ん?……はい」
「O.K.!じゃ、ほい」
「わわ!」
灯をお姫様抱っこすると、駐輪場に向かう享。
道すがら同級生とすれ違うと冷やかされる。
「僕が姫を歩かせたくないからさー!」
享は笑ってやり過ごした。
「また学部長に呼ばれちゃうかもね」
享は灯にウインクした。
駐輪場に着くと、そのままバイクに灯は乗せられたが、
「私、今日は寮に帰るよ」
「何言ってんの?学祭の間は休みなんだし、うちに泊まりなよ」
「だって……」
「何?」
「着替えもないし……今日だって同じ服って訳には行かないからってTallのトレーナー借りたけど、やっぱり、おかしな感じだし」
「よし!分かった!」
灯にいつもの様にヘルメットを被せると享が言った。
「買い物に行こう!」
新宿サブナード。
歌舞伎町・靖国通り・新宿通りなどの地下に広がる大型地下街。
無いものはない!くらいの店と品揃えだ。
バイクには荷物を乗せられないからと、一旦、享のマンションに戻り、電車で出直した。
灯が自分の荷物を寮に取り行くと言うのも、一緒に中に入れないからと享が許さなかった末のこの地下街だ。
「あかりん、まずは何が欲しいの?」
「えーと」
「あと日曜日までとして、五日間分だけど、洗濯は出来るから……」
「え?そんなにお泊まり?」
「僕はソファで寝るから気にしないで」
「あのさ、私だって女子だからさ……気にするよ」
「じゃ、一緒に寝よっか?」
「え!?……違う。そう言うことじゃなくて……」
「そか!じゃ、必要なもの買って帰ろ!」
『あっさりしてるところが、むしろ怪しい……』と、灯は思いつつも、思いつくものを口にした。
「化粧水とか欲しいし、歯ブラシとかタオルだって……」
「化粧水は何使ってんの?」
「ヘチマ水」
「薬局にあるんじゃない?頭痛薬とかも必要?
歯磨き粉はどうする?」
「……下着とか、パジャマとかも……」
「あ……O.K.」
享は真っ赤な顔をした。
灯のお気に入りのラフな服のPERSON'Sで、とりあえずお出かけする様のトレーナーとシャツ、ケミカルウォッシュのジーパン、靴下を選ぶ。
トルソー※に着せられていたネイビーのフード付きのスタジアムジャンパーに目を奪われる灯。
フードはジッパーで開く様になっており、開くと真っ赤な裏地のセーラーカラーになる。
「可愛い……」
『Tall色だ』
「お揃いにしよっか?」
「いやいや、何言ってんの?」
享が何から何まで全部お金を出すと言い張るのに、そんな高価なものまで手を出せない。
灯が思ってるうちにサイズを店員さんと相談して、いろいろ持ってレジに向かう享。
慌てて後を追う灯。
会計してくれている店員さんの前で、二人があれこれ揉めてると、享がかなり大人っぽく見えたのか
「新婚さんですか?可愛い奥さんですね!」
と、言われ、気をよくした享が言う。
「可愛いんですけど、言うこと聞いてくれないんですよ!」
灯はもう何か言うのを諦めた。
下着の店、WACOAL。
下着は灯一人で選べる!と思ったのも、束の間、
可愛いレースのついた白いブラを見ていたら、頭の上の方から
「それもいいけど、こっちも良くない?」
享がピンクのブラも勧めて来た。
「Tall!お外で待ってる約束は!?」
「ごめんごめん、お金渡してなかったからさ。後ろポケットから財布取って」
両手荷物の享が後ろを向いてジーパンのポケットを見せる。
灯は微妙な気持ちながらも
「お借りします」
「いや、買うのは僕だから」
「あ……はい、有難うございます」
「遠慮しないで奥さん」
「Tall!」
結局、白もピンクもブラと……セットで買った灯。
ついでに享の財布の中身にも驚く。
大学生が持ってる金額とは思えなかった。
「あとは?」
「ん?パジャマかな」
「パジャマ!!」
享の中で妄想炸裂。
『僕のシャツとか着ないかな……うわー!』
「Tall?顔真っ赤だよ」
「え?何でかな?じゃ、パジャマ探そっか?」
「もう寒くなってきたからネルのパジャマがいいなぁー。WACOALにはなかったんだよね」
「あるといいけどね」
結構探し回ったが、なかなかこれと言ったものに辿り着けなかった。
「パジャマは諦める!」
「僕のパジャマ着る?」
「どう考えても大きいよね?」
「そうかな……ま、お腹も空いたし夕飯どうする?何か食べて帰る?」
「ん……早く帰りたい」
「え?」
「享んちに帰りたい」
「分かった。何か美味しいもの買って帰ろう」
「うん。Tall、荷物少し分けて持つから」
「大丈夫!ご飯のもの買ったの持って」
「あ、うん。分かった」
「はぁー、お疲れ様!」
「Tall、いろいろ本当に有難う。お世話になります」
「そう言えば、いろいろな騒ぎがあったことを総括して学部長の方から、ご両親と寮長さんには連絡して、女の子の友達んちに泊まらせてもらうことになったって伝えて貰ったから」
「まあ、寮長さんは疑わないとは思うけど、お母さんは気づいてると思うなぁ……」
「ふふ」
「何?笑ってんの?」
「嬉しくて」
「何が?」
「うちにあかりんがいる」
「……嬉しいの?」
「ものすごく……」
「手洗って、うがいして、ご飯にしよ!」
灯に、あっさり言われガックリした享だった。
トルソー※ マネキンのボディだけのもの




