第四十五話 The prince rescued the princess. (王子様がお姫様を救い出した)
享の部屋。
享は昨日のことがあって灯を寮に帰せなかった。
学部長室に行く前に灯を自分の部屋に連れて行き、汐恩に連絡をつけ、戻るまで付き添って貰った。
灯は食事もまともに取れず、恐怖からなのか急に泣き出してはボンヤリとダンマリを繰り返し、果ては泣きながらようやく寝付くも夜中に何度もうなされる灯を享は揺り動かし、その度になだめ続けた。
享が明け方、うとうとした時
「灯?」
自分が発した声に目覚めた。
「おはよう」
と、言いながら、腕枕の灯がぎこちなく微笑む。
「あぁ、ごめん。うっかり寝そうになった」
「今夜は寝ない。ずっと起きて側にいるから」
享は腕の中で泣き続ける灯とそう約束したからだ。
「お腹空いたんじゃない?」
「ううん……Tallこそ疲れたよね?」
「全然、灯の側にいられるだけで元気になるよ」
「ごめんね」
「どうして謝るの?」
「Tallの言うこと聞いてたら……近くにいて貰ってたら、あんなことされなかったよね」
「それは分からない。気づかないって事だってあり得たし」
「でも……」
「しー」
享は灯を抱きしめなおす。
「灯は何も悪くない。悪いのは、あいつらだから。誰かに頼まれたらしいけど、そいつも含めて僕が絶対許さない!やっつけちゃうから灯は心配しないで」
「Tall、無茶はしないでね。Tallがケガでもしたら私メグママになんてお詫びしたらいいか分からないから……」
「灯……相手の方を心配してあげて」
「え?」
「僕、何するか分かんないほど怒ってるから」
「Tall!ダメだよ!そんなの暴力は絶対ダメ!」
灯は享の腕の中から起き上がって、享の顔の真上から大きな声で言うと、享と目が合って、はっとした様に俯く。
「あかりん」
真下から享が灯りの髪にに手を添えた。
灯は思わず毛布で顔を隠す。
「僕は絶対、あかりんを守ります!」
享が言うと灯が答える様に聞いた。
「……本当に本当ですか?」
享は笑いながら灯の頭を引き寄せて、毛布からちょっとだけ出ているおでこを自分のおでこにくっつけると
「本当に本当に本当です!」
と言いながら毛布を人差し指で少し下におろした。
しばらく見つめ合う二人。
「今日、ずっとこのまま二人でここにいよっか?」
「ん?」
「恋人らしい事する?」
「え?」
「二人っきりで……いたくない?」
「でも……今日行かないと、皆んなに変な心配かけないかな?」
「昨日の出来事は、カタが着くのが早くてね。首謀者以外誰も気がついていないはず……もし知ってたら、そいつが親玉ってことだから」
「そうなの?」
『一階の女子トイレは盲点だった』
大学校内の全ての一階にある女子トイレは、安全を考慮してスモークガラスが入っている上に、必ず施錠がルールになっている。
そのことがまずは安全を過信させてしまった。
多分、灯の前後にトイレに入った女性が、灯を拉致しようとした三人の仲間で、まず鍵を開け、中に一人招き入れた。
そして他の女子がトイレに来ないかを見張る。
トイレの個室から出たところで、灯はいきなり頭から毛布を掛けられたらしい。
灯は毛布の上から口を押さえられて声も出せずに、
窓から、外で待ち受ける二人のところに降ろされた時には、動揺のあまり全く動けなくなっていた。
毛布越しに手だけが差し込まれ口にガムテープを貼られ、手足を縛られ、人気のない裏門方向に運ばれた。
三人組が立ち去るのを見届けてから、すぐに女子トイレの窓は中から鍵を閉められ、享がトイレに飛び込んだ時には、加担した女性はとっくに立ち去った後だった。
そして、ここにもこの計画の加担者がいる。
テニスコート場の鍵を開け閉めした者。
これは女性か男性か分からない。
逃走様車両のある道路へのショートカットを可能とし、他の人から見つかる可能性を低くくした。
ただトイレの窓の鍵が閉まっていたことだけで、灯が消えていなくなった!と慌てる様な享ではなかったのが、三人組を動かした者の誤算だった。
いや、わざとそうしたという可能性もある。
ただ騒動を起こしたかっただけという可能性も捨てきれない。
と、なると今頃、校内では灯の拉致騒動は噂話になっているのか?いや、まさか……。
「Tall?」
「ん?」
「学校に行こう」
「え!?」
「ほら、王子様&お姫様が誰になるのか、今日に延期になったんでしょ?」
「覚えてたの?」
昨夜、灯が突然、
「あのイベントどうなったの?Tallが一番だったのに違う人になっちゃったの?」
享に聞いて来たので延期になったらしいとは話したが、またボンヤリしてダンマリになった。
てっきり忘れていると思っていたのに。
「じゃ、何か美味しいもん食べてから行こっか?」
「……Tallの玉子のお粥が食べたいな」
「え?風邪ひいた時の?覚えてくれてたの?」
「うちのお母さんと一緒に作ってくれたんだよね」
メグに料理を習い始めてからの、あのボヤ騒ぎの後、灯が風邪をひいて寝込んだ時、千紗子と一緒に享が玉子のお粥を作って、れんげでひと口ずつ猫舌の灯のために「ふーふー」しながら、灯の口に運んだことがあった。
「よし、作る!待ってて」
「ありがと、Tall」
今はこれでいい、今はこれが僕達のベストな形だと思う享だった。
玉子のお粥は優しい味がした。




