第四十三話 Princess in a Pinch!(お姫様危機一髪!)
「さて、本日のメインイベント!本校の王子様とお姫様の結果発表を行います!!選ばれし名誉ある方々とお手隙の方々は中央広場特設会場にお集まり下さい」
校内アナウンスが流れた。
「招集がかかりましたね!花梨さん!」
「ようやく来るべき時が来たわ!今年で最後なんだから、ここは逃せないし」
「大丈夫ですよ!二位とも差があったし詰められっこないです!横溝さんはダントツですし」
「それは、もう言うまでもないけど……また、享はきっと辞退するに決まってる」
「でも、その前に何とかすれば……」
「辞退出来ない様にね!ふふふ」
何やら恐ろしい会話が花梨グループではずんでいたのを誰も知らない。
「ちょっと」
灯から一階に降りた時に言われ、享が着いて行くと言うと、
「トイレの前にいる気?」
「もちろんだよ」
「やめてー!王子がそんなことしないで!」
灯があまりにも、強固に嫌がるので離れた場所からトイレのドアを見張ることにしたのだが、灯が一向に出て来ない。
近くにいた女子学生にトイレに入ってる人がいないか確かめて貰う。
「誰もいませんよ」
と言われ、慌てて女子トイレに飛び込む享。
個室と掃除道具入れも全部開けて中を見る。
誰もいない。
窓も閉まっている。
「やられた……」
享は窓の鍵を外し開けると下駄を脱いで素足で中から飛び出した。
「ここからだと……」
思いついた方向に走り出す享。
本来なら表舞台に向かうはずの享が人気の無い校舎の裏手を走り行く、しかも裸足だ。
ただならぬ様子に三階の窓から気づいた小深山大和は、享から、この様な状態を見かけた際には学部長に連絡と言われていたので四階に走った。
校舎裏門を抜けるとテニスコートの向こう側の道路に白い車が見えた。
二人の男が、後部座席に毛布に来るんだ何かを押し込んでいる。
既に運転手は出発ができる様にエンジンをかけていた。
テニスコートの金網をよじ登って飛び降りると、コートを横切りまた金網を超えて、正面から車に向かって享は走った。
享に気づく運転席の男。
「わ!あいつ!気がつきやがった!急げ」
「もう少し!ちょっ、暴れんなって」
「急げ!来るぞ!」
毛布にくるまれている灯はどうやら手足をロープで縛られた上に、口も何かで塞がれているのか声が出せない様だったが、座席に押し込まれまいと身体を動かし拒んでいた。
「こいつ!大人しくしろっ!」
その一人が灯の頬あたりを叩こうとして上げた手を押さえた手があった。
男が振り返ると肩で息をしながら享が立っていた。
「うわっ!いつの間に!」
「早く乗れ!逃げるぞ!」
掴まれた腕を振り払った時、享の顔面にその男の肘が当たったが、享は腕を離さなかった。
運転席の男は車を発進しかけたが、既に前に何人か人が立っているのを見て、諦めたのかエンジンを切った。
その中に法学部学部長 竹之内龍馬がいた。
「みんな!Good job!」
享は大きな声で叫ぶ。
そして学部長に向かって
「オッサン後は頼んだ」
というと、後部座席に乗り込んで、灯の身体をくるんでいた毛布をはがし、涙でぐしょぐしょの灯を片手で抱きしめながら、もう一方の手でもガムテープを少しずつ剥がした。
喋れる様になった灯は享の胸元に顔を押し付け、泣きながら、一生懸命話そうとする。
「……ご、ごめ……ん……言うこと……き、聞かなかったから……」
「大丈夫、もう大丈夫だからね」
片手で灯を抱きしめながら縛られていた手足も自由にした。
灯が気づかれないうちに散会したチーム鑑識。
享に褒められはしたが、大和と優は灯が大変な目に遭った事を歯痒くも思うと共に、改めて享の行動力とその判断能力に圧倒されていた。
いち早く享の異変に気づいたのは大和、そして少しの差で次に優だったが、実は、この二人以外も数人が同じように学部長室に駆け込んできたのだ。
この状況が起こり得ると享に考えがあったことが、まずは驚きだった。
一方、享は自分の甘さに気づき打ちのめされていた。自分さえ近くにいれば、チーム鑑識に頼らなくてもと思ってしまった。
結果、かいくぐられて、灯は連れ攫われた。
女子学生も監視対象者として考えるべきだったと後悔の念が押し寄せてくる。
とにかく引っ掻き回された様で頭に来ている享。
ただ灯が腕の中に戻ったことだけが唯一心の安らぎだった。
ここは中央広場"王子様&お姫様の優勝者発表イベント会場。
司会者が観客に向かって話し始める。
「何と言うことでしょうか!王子も姫も上位三位までの方中四名の方が会場にいらしておりませーん。
我が校始まって以来の珍事でごさいます!実行委員会と致しましては、これより協議に入らせて頂きます」
会場に設営された壇上にいるのは、姫側一位の大槻花梨と王子側三位の渡辺李人の二人。
李人はいつもより毅然とした態度で壇上の席に座っていた。
そちらを見ていない様なフリをしながら、チラチラ見る花梨。
『あらやだ、法学部は本当にハンサム揃いね。王子二位も確か法学部だし。一年生にあんなカッコいい子がいるなんて気づかなかったわ。まあ享に比べたら……』
その時、李人と目が合う。
李人が花梨に向かってニコリと微笑みかける。
『何よ、あれ!あらやだ私に気があるのね!年下も悪くないわね……美人って、それだけで罪よね!』
勝手な妄想を繰り広げる花梨。
しばらくして司会者が壇上に戻ると
「本日は誠に申し訳ございませんが、アクシデント発生ということで、発表イベントは明日の同時刻に延期ということにさせて頂きます!当大学の学生はもう投票は締め切らせ頂いておりますが、他校の方、ご近隣の皆様方はお時間ありましたら、清き一票を"王子&お姫様にとご投票して行って下さい!投票券と半券の番号がくじ引きにもなっておりますので、半券をお持ち帰り頂き、学祭最終日から一週間以内にご本人様に当選かどうかは確かめて頂く必要はありますが、豪華プレゼントのご用意もありますので、どうぞご参加下さーい!」
え?何?何?プレゼントは何なの?とあちこちから聞こえる会話に司会者は答える様に続けた。
「とりあえず言っちゃいますが、プレゼントは二名様分の一泊二日の温泉旅行です!!」
会場内は拍手喝采。
そんな中に一人カッカッとしている花梨。
『一人だけ棄権させたかったのに!なんなのよ!もう!』花梨の思惑は外れたらしい。
やはり今までの悪行の数々の首謀者はやはり花梨なのであろうか?
思わず歯軋りをした花梨の前に、李人が膝まづくと、右手を差し出す。
「姫、下までお供致します」
「あら、来たらがきくのね。有難う」
花梨はハンサムな李人に声をかけられて、ご満悦だ。
そして、その手の上に自ら左手を乗せると椅子から立ち上がった。
観客席から拍手が湧く。
花梨は美玲や灯がいなければ、美人と言える為、李人のその所作に、皆、姫と王子を連想したのだ。
壇上の階段を李人に手を引かれておりる花梨は本当に嬉しそうだった。
花梨が最後の段を降りた時、李人が横から囁いた。
「本当の姫は貴女だけ。お綺麗です花梨先輩」
花梨が李人の顔を見上げる。
「では、また明日。お会い出来るのを楽しみにしております』
李人はそう言って立ち去った。
「年下のクセに!ドキドキさせて……」
花梨はウキウキした顔で会場を後にした。




