第三十九話 Set the record straight.(勘違いを上書き)
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享の父、達志がまずは口を開いた。
「ご夫婦のことに口出しをするつもりはないのですが、毎晩、お声が聞こえ、お子さん達が不安に思っているのではと。……差し出がましいとは思いますが、もし、宜しければ次の日曜日あたり、お子さんをお預かりしますので、ご夫婦だけでお話をされてはいかがでしょうか?」
灯達の父親孝一は元々イライラしており、もはや普通の思考ではなく、横溝夫妻に向かって怒鳴る。
「他人にとやかく言われる様な事じゃない!」
「ですが、大人が思うより大好きなお父さんとお母さんの言い争いは、お子さんは傷つく可能性も否めないかと」
達志に非難されたと思ったのか、孝一の怒りの矛先は妻の千紗子に向かう。
「お前が何か話したのか!?」
「私は何も……」
「毎晩、長谷部さん、うちにも貴方のお声が聞こえるんですよ。それを家の中で聞かされてるお子さんの気持ちを考えた事はありますか?」
達志の言う事は、正しい。
だが、孝一は正論を掲げられても、それを素直に聞ける状態ではなかった。
実は灯は、それをずっと階段の上から聞いていた。
そして、その話し合いの途中、孝一が何を思ったのか、話がそれた。
「そうか、子供を買う気だな?金さえ出せば何とでもなると思ってんのか?」
「長谷部さん、そんな話はしていません。お話し合いの間、お預かりしましょうか?と言っているだけです」
ただ、もう孝一も収まらなかったのか、
「幾ら出す気だ?え?一人に幾ら出す?」
「長谷部さん、お預かりするだけです」
「嘘をつくな!」
その時、たまたま一度戻って来た汐恩はこの会話だけを聞くと、また出て行ってしまった。
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「そんな話だったのに、勘違いしたんだかお兄ちゃん。その後、しばらく帰って来なかったよね。……あのさ、これ見て」
灯は汐恩に、頭の後ろの髪を上げて見せた。
「何だ!その跡……」
「お兄ちゃんが出てったあと、結局、お父さんが悪態ついたから、横溝さん達帰ったんだよ。その後……お父さん、お母さんの話聞かないで一方的にブチギレて、お母さんのこと突き飛ばして……」
その後、灯は享に話したことと同じ事を汐恩にも話した。
「マジか……クソ親父!手を出してたなんて」
「お兄ちゃんはさ、何でも早合点で、お父さんとお母さんの離婚の時もお父さんの味方して、お母さん困らせたし。あの時のことも横溝さんのせいだと思ってたなんて……あれは、お父さんのせいだよ」
「……俺はさ、母さんにさ、アイツの母親が灯の事をアイツの妹にしたいって言ってたのを聞いた事があったから……二年位前に享がお前を探して俺に会いに来た時、つい、ウチの親はお前んちの親のせいで離婚したんだからな!って言っちまった」
「え!?そんな妹にしたいなんて冗談に決まってんでしょ?」
「でも、あん時の俺には本気にしか聞こえなかったんだよ!毎日毎日お前達仲良く遊んでたし……でもアイツは俺に謝ったんだ。自分が一人っ子だから心配して母が言ったのかもしれませんって……」
「Tallらしい……」
「そうだな。アイツは悪くないのに、そんな事言っちまったのに……ついこの間、母さんが俺に会いに来たんだ」
「え?どうして?」
「アイツお前を探し当てた後、すぐに母さんに挨拶しようとここに来たらしい。その時、俺の仕事先も分かってたから、もし会いたければ……って、そしたら母さん、是非って言ってくれたらしくてよ」
「それで、今日?」
「弟って言うのに会ってみたくなって。母さんがいつでもおいでって言ってくれたしさ。ついな、来ちまった。琢磨、可愛いな!しかし俺達、みんな母さん似で良かったな!」
「たっちゃんは可愛いよ。でも何?母さん似で良かったって?」
「美形って事だ。琢磨、俺のちっちぇ時にそっくりだし!」
「そんな可愛いかった汐恩さんは、今や新宿の店のNO.1なんだって?」
「まあ、お前は来る様なところじゃないけどな」
「何、それ?」
「俺を指名するにはこれがかかるからさ」
指でお金マークを作る汐恩。
「下品なNO.1だね!そんなのに、よくお金を出すもんだわ」
「あのな、店じゃ違うんだって」
「えー?どうなんだか」
汐恩は口は悪いが確かにハンサムだ。
身長も180センチほどはありスタイルも悪くない。
確かに子供の頃からバレンタインのチョコは分けてくれるくらいは貰ってた。
ただし享には負けてたが……。
「俺、アイツに謝ったら帰るわ」
「え?もう?」
「この後、一回家に帰ってシャワー浴びたり着替えもしねえと、仕事に間に合わないからさ。崇さんと母さんに宜しく伝えといて」
「挨拶くらいして行けばいいのに」
「何か、そう言うの苦手だからよ」
「まあ、そうだね……私もそう」
「変なとこも似てんのな!俺達。琢磨は違うといいけどな!じゃ、またな」
汐恩が立ち去ろうとしたところを灯は呼び止めた。
「聞いていいならだけど……今、どこに住んでんの?」
「お前こそ、何でわざわざ寮なんかに住んでんだよ?」
「それは、先にこっちが聞いてんじゃん」
「中野」
「そうなんだ」
「それでお前は?」
「私は仕事についたら一人暮らしするつもりだから、その前の親離れの準備ってとこかな」
「へー、そうか。まあ、ものはいい様だな。さびしん坊のくせによ」
灯は汐恩に頭をぐしゃぐしゃっとされた。
『何だかんだで、兄ちゃんは、そんなとこだけ鋭いんだよな……』
「また会える?」
「おう、またな」
「うん、またね」
汐恩は、琢磨と一緒に遊んでいた享にいきなり何か告げると、頭を何回も下げて謝って帰って行った。
そこへ崇がやって来た。
「あれ、汐恩くんは?おっと!灯、今日はどうしたの?」
「ちょっと……」
「あ!この間は僕はお会い出来なかったんだけど。もしかして例の彼氏くん?」
「Tall!」
享は呼ばれて琢磨を抱き上げると慌てて灯に駆け寄り、崇にお辞儀をして
「初めてお目にかかります。横溝享と申します。今、灯さんとは真面目にお付き合いをさせて頂いております。以後、お見知り置き宜しくお願い申し上げます」
「うわっ!ちぃちゃんが話してくれた通り、中身はきちんとし過ぎなくらいの日本人だね。横溝くん、長い間、灯を探してくれてたんだってね。大変だっただろうに……灯は本当にいい子なんで、こちらこそ何卒宜しくお願いします」
お互いに何回も頭を下げ合い、数回目には大笑いして終わった。
その様子が面白かったのか琢磨も大声で笑う。
「お母さんったら、何でもお義父さんには話しちゃうんだね」
「でも本当にカッコいいね!灯にお似合いだ」
「それお義父さんの言うこと?」
「あ、そうか!一回は"娘はやらん!"って言わないと!!」
「それ今言う?」
そうこうしているうちに千紗子も出て来た。
「あら!享くん!」
「あ、こんにちは!」
琢磨を抱っこしている享に声を掛けた。
「娘より先にTallですか?」
「あらやだ!お帰り灯。でも今日はどうしたもんか、汐恩も….…あら?汐恩は?」
「仕事に出る前に、No.1はお支度が大変だそうでお帰りになりました」
「お昼一緒にって言ってたのに……」
「照れくさかったんじゃないの?て、言うかさ、ご飯の支度って、これからだよね?」
「何がいいか聞いてからにしようと思って、今、出て来たんだけど….…あらやだ!あなた髪の毛!」
「今頃?」
「あー、享くんに再会出来たから?」
と千紗子がニヤリと笑う。
「まあ、そんなとこ……あ、お義父さん!もう椿油、大丈夫なんで、今まで有難うございました」
「あぁ、そうなのか……少し寂しいけど。使わなくて済む様になっちゃったんだね」
そんな親子のやり取りを琢磨と遊びを再開しながらも聞き耳を立てている享。
灯はそれに気づきながら両親にこんな提案をしてみた。




