第三十六話 I don't want to let go of your hand.(手を繋いでいたい)
今週は週末が早いですね!
週末まで頑張った皆さんに少しでも心安らぐお時間を!本日も午後8時に最新話お届け致します。
お楽しみに♪
優月菜
と、あるカフェテラス。
今二人の前にはガラスのトールグラスに、一番下にはコーンフロスト、その上にはぎゅうぎゅうに入ったソフトクリーム、更にに生クリームやら果物で彩られたジャンボパフェが置かれていた。
灯はストロベリーソース、享はブルーベリーソースがソフトクリームにかかっている。
「これ、メニューの写真より大きくない?」
「三十センチが基本だよ。ね、早く食べよ?溶けちゃう」
「あ、うん」
スプーンも長いが、口にする部分が小さいので一口が小さい……のはずが、灯はひと匙をかなり大盛りで食べ進む。
いったい、その小さな身体のどこに吸い込まれていくのか、享の手は止まったまま、ずっと灯を眺めていた。
「わ!Tall!何、見てんの!」
「いや、すごく美味しそうに食べてるから、つい」
「ソフトクリームは溶けるの早いから、溶けちゃうんだって!でも、このパフェのすごいところは、一番下のコーンフロストが、その溶けたクリームを吸い込んでシミシミになるところなんだよ。でも途中で掘って、バリバリしてるうちに食べるのもありだけどね」
「そうなんだ」
「ねぇ、ちょっとブルーベリーも食べたいんだけど……」
「あ、もちろん、いいよ。あかりんのも食べていいの?」
「もちろんだよ!Tall、好きなだけ食べて!」
とは言え灯のグラスは半分以上減っていた。
だいたいは、こんな場所は女子同士かカレカノ連れの彼が嫌がる感じの雰囲気なのに、このカップルは……享が爽やか過ぎるのか?灯がイヤミを感じさせない感じなのか?
二人の交換っこに羨望の眼差しを向けながら、女子グループの大半は自分達もパフェを楽しんでいた。
明治神宮。
都会の真ん中にある、時間の流れを忘れた厳粛な静寂。
森を思わせる様な木立の中を二人は玉砂利を踏みしめながら歩いている。
「都内とは思えないね」
灯は深く青い杜の気配に、魂が静まり返るような心地がしている。
享は灯といる時の穏やかな気持ち、ただそれだけが愛おしい。
今日の"デート"の間は手を繋ぐ約束が、享にとっては小さくても確かな足跡として残った気がしていた。
「お詣りして行こう」
「お作法分かる?」
「え?うーん、忘れてる」
「では、神社の巫女がお教え致しましょう」
手水舎
拝殿の手前の手水舎で心身を洗い清めるという意味のあるところ。
「まず一つ話しておくとすると、最初のひと掬いの水で一連の流れを行うのが美しい所作という事」
「はい」
灯の言うことを聞き逃さない様にと享の真面目な顔に笑うのを堪える灯。
「右手で柄杓を持って水を汲み、左手を洗う」
「こう?」
「そうそう、その後、左手に持ち替えて右手を洗って、もう一度右手に持って左手に水を溜めて、その水で口をすすぐの」
「うん」
「最後に、柄杓を立てて残った水で手で持った柄を洗い流し、伏せて置く」
「はい」
そして外拝殿に向かう。
「あとは私のマネして」
灯はゆっくりとした動作で外拝殿の前で軽く一礼する。
奥にある本殿に向かい正面に立ったら、まずは姿勢を正し、浅く一礼。
あらかじめ用意してあったお賽銭を手から滑らせる様に、二人はそれぞれそっとお賽銭箱に納めた。
そして二礼 二拍手 一礼の作法。
灯は小さな声で「ニ・ニ・一だよ」と告げた。
深いお辞儀(腰を九十度近く折る)をニ回繰り返す。ここでは灯は享と合わせる様に動作を更にゆっくりとする。
胸の前で両手を合わせ、右手を少し手前に引き(指先を少しずらし)、肩幅ほどに開いてパン、パンとニ回手を叩く。
その後、引き戻した右手を元に戻して(指先をぴったり合わせて)から、目を閉じた灯を見て、享も心の中で感謝やお祈りをした。
しばらくして手を下ろし、最後にもう一度深いお辞儀をする。
そして最後に軽く一礼して退く。
お詣りが終わったら、その場でまた浅く一礼をしてから、後ろに下がった。
外拝殿を出た後、享が少し興奮気味に灯に囁いた。
「拍手をする時に右手を少し下にずらしたよね?あれ、すごく綺麗だった……拍手の音も響きが違った。あかりん、さすが神社の娘さんだね。すごいよ」
「Tallよく見てるね。あれにも実は意味があって、神様に対して一歩下がる、謙虚な姿勢を表してるんだって。それと拍手の時、音が綺麗に響く効果もあるんだよ」
「お祈りの手を合わせる時に、ずらした右手を上に戻して揃えたのも素敵だった」
「褒め過ぎ」
小学生の頃、境内で本を読ませて貰うお礼の意味で、適当にしていたお詣りをきちんと教えてくれたのは神主さんだった。
『お義父さんに感謝だね』
「時間が経つのが早い……あかりんといるといつもそう思う」
ぽつりと享が呟いた。
『私もそう思うけど……』
灯もそれは感じてる。楽しい時間は過ぎるのは早い。
「帰りはどうする?渋谷にはどう戻る?」
「代々木公園側から公園通りを通って渋谷駅に行ってみる?」
「まだ歩く?」
「また肩車しよっか?」
「いやいや、あれも疲れるし」
笑う灯。
「少し寒いかな?」
十月も日が暮れると、少し風が冷たくなる。
「このくらいなら歩いた方が温まるかも?」
お互い、口には出せないが繋いだ手を離したくなかっただけだった。




