第三十四話 Let's hit Harajuku!(原宿に行こうよ!)
宮下公園から明治通りを原宿方向に。
途中、右手に渋谷とは思えない隣同士に隙間のない様な、ちょっと古臭い家屋がひしめき合っている道路に入る。
道の真ん中には、小さな公園の様で遊具などが置いてあるところなどもあり、不思議な空気感だ。
その道をニ〜三十分程度歩くと表参道はキディランドの横あたりに出る。
二人は、ふざけてジャングルジムに登ってみたり、対面で乗れるかごのような形のブランコに乗ってみたり。
道路の淵を落ちない様に歩いてみたり……幼稚園児のお帰りの時の様なことをして楽しんだ。
だが灯が一つため息をついたのを享は見逃さなかった。
「疲れた?」
「ううん」
「でも今ため息ついたでしょ?」
「ごめん。昨日、寝ちゃったの謝るの忘れてた」
「お腹いっぱいで眠くなっただけでしょ?」
「違うよ」
「……思い出しちゃったんだね」
享は何故、急に灯が泣いたのか気づいていた。
灯と享の母親同士は仲が良く、元町のチャーミングセールには年二回必ず灯も享も一緒に出かけていた。
子供時間の"よしだや"は、シールやメモ帳を買った楽しい思い出の場所だった。
「あの頃は皆んな元気で、突然お別れが来るとは思わなくて……ごめん!……Tallの方が思い出すの辛いよね」
「僕にはあかりんがいるから……あかりんが慰めてくれたから今の僕がいる。だから大丈夫。でも、あかりんは、あの時、僕のことばかり気にして、自分の気持ちを置いてきぼりにしたんだね」
「え……」
「僕が泣いてるから一緒に泣いてくれて……僕がママとケンカしたこと話したから、空からママは心配しながら見守ってくれてるってあかりんが話してくれて……だから僕は乗り越えられた……。けど、あかりんは違う。自分の心を後回しにしちゃったんだ」
享に言われて、気づいた灯。
灯が涙らしい涙を流したのは、享を見送った羽田空港が最後。
あの数日で、全部涙は使い切ったのだとすら思えるほど、その後ほとんど泣いたことがなかった。
ど真ん中ベンチで、享に本当は寂しかったと話して抱きしめられるまでは……。
「ん……」
灯は胸に手を当てる。
享と会再会して以来、この胸が熱くなるものの正体は分かっていた。
でも素直にはなれない。
どうせアメリカに帰る人としか思えないからだ。
それでも享とは一緒にいたい。
灯の顔を覗き込む享。
「抱っこしよっか?」
「いやだ」
「じゃ、おんぶ?」
「いやだ」
「こら、いくらなんでも、暴れんなって」
そう言いながらも楽しそうな享。
灯は享に
「かたぐるま」
をおねだりした。
「すごい!あたし、いま標高何メートルかな?」
「標高って、お主は山でござるか?」
身長百八十八センチの頭の分を引いたとしても、軽く二メートルほどの位置にはなる。
灯は楽しくて仕方なかった。
たまにすれ違う町の人や子供たちに笑われてもお構いなしだ。
「もう、そろそろ表参道に着くけど、まだこのまま行ってみる?」
灯の楽しそうな様子に享は、どこまでも肩に乗せたまま行きたい気分になっていた。
が、灯も素に戻る。
「いや、さすがに降りる」
「はいはい、ちょっとお待ち下さい」
享は灯が落ちない様にしゃがむと、前屈みになって、灯を降ろした。
表参道手前の数段の階段を上ると、先程とは、全く別の世界が広がっている。
そんな中にも変わらないものもあった、激しく享に注がれる視線。
男性・女性問わず、まさに老若男女からのと言ったものだ。
「Tall」
「ん?」
約束通りの手繋ぎだけで享は満足なのか鼻歌混じりて返事をした。
「こんなに見られて嫌じゃない?」
「肩車しちゃったら、見られなくなるかもだけど!する?」
「……んふ、ふふふ」
二人は顔を見合わせて笑った。
ラフォーレ原宿を目指して歩くこと数分。
神宮前交差点をラフォーレ側に渡り、竹下通りに左折で入る。
さすがに週末だ。
様々な自分の個性を主張する服装や髪型で表現する若者達が群れている。
そんな中、享は右手は灯の左手を繋いだまま、左手で灯の肩を抱き寄せた。
「Tall!ちょっと」
「ハグれたら嫌だから」
「子供か!」
「ちっこいから心配なんだって」
「もうっ!」
そうは言いながらも灯は嬉しかった。
「何か、気になる店があったら言ってね」
「クレープは食べたい」
「それは、とっくに分かってる。マリオンは先の方だから、その前にの話。本当、食いしん坊さんだな」
享は両手で抱き締め、灯の頭の上に顎を乗せながら笑った。
そして、たまに小さなキーホルダーやアクセサリーや服の店を覗いては、見るだけショッピングを楽しむ。
「そうだった。昨日あかりんがベンチで寝てた時、実は、小三?四?くらいの女の子に声を掛けられたんだ」
灯の頭の上から享が話し出し始めた。
「え?」
「お姉ちゃん、どうしたの?って」
「それで?」
「疲れさせちゃったみたいなんだよねって言ったら、"わあ、お兄ちゃん!お姉ちゃんのこと、ギュッってし過ぎたんじゃないの?うちのパパもママのことギュッってし過ぎてママが息できないって泣きそうになることあるんだよ。あそこにいるの、私のパパとママ"って言われた方を見たらさ。そのパパに手を振られて、ママには笑いながらお辞儀されて……」
「もしかしてまさかだけど……パパは外人さん?」
「え?何で分かったの?」
「夢かと思ってた……」




