第三十三話 Wait, is this a real date? (ちょっと待って、これってガチのデート?)
「この後、どうしよっか?」
享が灯に聞いた。
「え?今日の業務は終了じゃないの?」
「え?デートって言ったよね?」
「デート!!?」
「近況報告会でもいいから、一週間に一回」
灯はちょっと考えると
「それは火曜日にお昼一緒に食べる他にも、一日はそう言う日も必要かもね?って話になっただけで、結局、毎日、会ってるのに必要ある?」
そう言いながらも胸がチクチクする。
本当は享と一緒にいると楽しい。
そして何よりも享と一緒にいると安心出来る。
なのに、口から出るのは逆ばかり。
どうせアメリカに帰るんだから、距離は保たないと後が辛いと灯は思っている。
なのに、享がどんどん灯の気持ちに踏み込んで来て、もう後ろは崖っぷち。
嫌いな訳じゃない……好きだから一緒にいたい。
だけど……。
虚な灯の表情を読み取った享は
「ハンバーガーが美味しい店知ってるんだ!お昼だけでも一緒に行こうよ」
と誘った。
「お昼ご飯ね!うん!行く!」
「ちなみに、今日の夕飯は?」
「とりあえず✖︎にして来たけど……あ……」
「何だ、あかりんもデートする気満々じゃない」
『わぁ、バカバカ。言わない様にしようと思ったのに……もう!』
顔を真っ赤にして俯く灯に達は笑いながら、灯の胸の真ん中あたりを人差し指で指差し、灯がその指を見た瞬間、鼻を突っついた。
灯は両手で鼻を押さえるとムゥっとしたが……思わず笑う。
二人で笑い合う。
そんな時がいつまでも続くと灯は思っていたかった。
渋谷・東口。
ウェンディーズ
「アメリカ直輸入の本格派」が売りの若者人気急上昇中のファストフードのチェーン店。
丸ではなく四角い形の肉厚パティ(冷凍しないビーフが売り)に、回る温かいチーズソースを自分でかける「チリチーズフライ」、そして「チリ」や「ベイクドポテト」といった、それまでの日本のファストフードにはなかったアメリカンなサイドメニューが豊富。
既に順番待ちの行列が出来ている。
「ちょっと混んでるね……」
「とりあえず待つ?あのチーズソースかけてみたいかも……」
「あかりんは新しいもの好きだね」
「でも、結構待つよね?……それも何だかだよね」
「あ、そうだ!お弁当にしない?」
「え?」
東横のれん街。
お弁当やお惣菜の銘店が並ぶ食品売り場。
「何がいいかな?あかりん、どうする?」
「ありすぎて選べない」
「お互い好きなもの食べようよ」
「サンジェルマンに行ってくる」
「え?」
「え?」
結局、二人仲良くサンジェルマンでトレーとトングをそれぞれ持って選んでいた。
そして、会計の時に横にある冷蔵ケースから、コーヒー牛乳を取る灯。
享も同じものを取る。
「あ、マネした」
「違うよ、飲みたいだけ」
こんな些細な会話も楽しい。
それぞれ会計を終え袋詰めをしてもらうと紙の手提げに二人分まとめて入れてくれたものを享が受け取って外に出る。
享が灯の背中に手を添えて横断歩道を渡った。
「こっちこっち」
国鉄渋谷駅の高架下にある果物屋の横の狭い階段を登るとそこは公園。
宮下公園。
「え?こんなとこに公園?」
十月とは言え、天気が良い日は汗ばむような陽気。
階段を数段上がっただけなのに、風が通り、都会の喧騒が遠くに聞こえる。
「どう?意外といいとこ知ってるでしょ」
「びっくりした……食べるところなんてないかと思ってた」
ちょうど木陰もあり、いい具合にベンチもある。
「ちょっと待って」
享が意外なものを出した。
遠足シートだ。
「何?これ?想定内だったの?」
享はベンチにシートをかけながら、
「いや、これはさ。もし芝生がある様な公園とか二人で行ったら、必要かな?って思って」
『膝枕を妄想してたとは言えない……』
と思った享だった。
そして……
二人とも、それぞれのチョイスしたパンを少し分けっこもしながら楽しく昼ごはんを済ませ、あとはコーヒー牛乳をすすり飲み終えるところ。
享はわざと音を立てて飲み干した。
「Tall、有難う」
「え?」
「私が音立てるの恥ずかしがるから、わざと思って立ててくれるんだったよね」
享は笑いながら
「え?そうだった?」
『そんな事は覚えてるの?肝心なことは?』
享の心の声は実は大荒れだった。
それを知ってか、知らずか、灯は食べ終えたものの片付けをしている。
享が、それを預かると
「捨てて来る」
少し離れたゴミかごに捨てに行った。
灯はシートを畳みながら、少しワガママを言ってみたくなっていた。
「Tall!原宿行きたい」
「原宿?ん、いいよ」
「歩いて行こう!」
「いいね!腹ごなしの運動だね」
女の子が行きたがる原宿にとか、ちょっとはごねるかと思えば、歩いて行こうという事にすら、運動になる!という享の前向きっぷりに、灯は少し怒らせてみたくて言ったつもりの当てが外れた。
『渡辺くんだったら怒ってた』
「でも、一つ条件がある!」
享が嬉しそうに言い出した。
「手を繋ごう!」




