第三十二話 Our secret token(二人の秘密のしるし)
「聞いたのは、ここ」
手を繋がれたままの灯は、照れ隠しでムッツリしている。
そこは細長くショートカットに使われそうな通路の様な店内。
灯達が入った方側の左の壁際には、壁に何本ものシルバーの形違いのネックレスがかかっており、その下の突き出した木の飾り棚には、ガラスの器に入った様々な形と素材のペンダントヘッドが小分けに入れられている。
そしてその対面側には、小さなショーケースの向こう側にレジ台があった。
そこに店員が一人。
「いらっしゃいませー!」と声を掛けてくれた。
灯と享は思わず、こくっとお辞儀する。
「へぇ、チェーンね」
享が感心した様に呟いた。
「えーと、ペンダントヘッドが選べて……お付き合いしてる人がいますって"証"に男性は女王冠、女性は王冠をつけるんだって」
「オシャレだね!いいね、これ!」
「同意?」
「うん、かなりいい!まだ他の人の見たことないし……誰から聞いたの?」
灯は人づてとは言ったが、実は自分の足で探したとは言えなかった。
「誰でもいいじゃん。早く決めようよ」
「王冠と女王冠を選ぶんだね」
「まずはチェーンからじゃない?」
「え?そう?」
「Tall、クビ太そうだから入るのあるかどうか……」
店員が思わず声を出す。
「あの、そこにかかってるのは試着用なんで、どんどん試してみて下さいね。もしもっと長めのがって言うのであれば、こっちに在庫あるんで」
享も灯も、また合わせた様に
「有難うございます!」
と答える。
「あらまあ息ピッタリ!」
店員が笑った。
しばらくして……
「これかな?」
「そうだね」
スクリュータイプのチェーンを選択した二人。
享は太めのガッチリした元々長めの感じのものを、灯は中太タイプのアジャスター付きの四十五センチくらいのものにする。
そして、王冠と女王冠は地模様には当たり前の様に"マーガレット"を選んだ。
灯は享に万年筆の時の様に聞いてみた。
「お互いの分買って交換する?」
「あ、それはナシね!」
「何で?」
「チェーンが男性ものの方が高いから」
「そのくらい私だって何とかなるよっ!」
「いや、チェーンはそれぞれでヘッドだけ交換しよ、ね?」
享の海の色の瞳に見つめられて、灯は返す言葉を失って……
「お気遣い有難う」
またムッツリ言った。
「とりあえず一回全部払っていい?」
享がそう言ったのには、さすがに灯は意を唱え、享は自分のチェーンと灯の王冠代を支払う。灯は自分のチェーンと享の女王冠代を支払うことに。
実は王冠の方が女王冠よりも高かったのに灯は気づくと、ため息を着く。
『何でリードされちゃってんの?私……』
「サービスでName入れてくれるって!どうする?」
「え?名前?」
店員さんが言うには、王冠と女王冠の裏側に機械彫りだが、お客様の意向でイニシャルなどを入れられるらしい。
「長文でも私が文字彫るんで、行けるとこまで彫りますよ!」
楽しげな店員。
何も考えていなかった灯は享の顔を見上げた。
「ん!そうだ!こんなのどうかな?」
「どんなの?」
王冠には、"TALL to あかりん"で、
女王冠には、"あかりん to TALL"はどう?」
「ごちゃ混ぜ?」
「あかりんさんはあかりんってお名前ですか?」
「いや、あかりです」
「トールさんは、あの高い低いのTallさんってお名前ですか?」
「いや、とおるです」
「え?外人さんじゃない?」
「ハーフなんです」
「そうなんですね……じゃ、こうしましょ!先程、彼氏さんが仰った通りに入れますが、筆記体に致しましょう!」
「ひらがなも筆記体ですか?」
「筆記体とはちょっと違いますけど、あかりんさんなら可愛く仕上げられそうなので、お任せあれです」
そして、出来上がったものは……
女王冠は、Tall to は完全筆記体。あかりんについては"か"の右肩の点は小さくと、"ん"の文字終わりには大きめのマーガレットの花が咲いている。
王冠は、全くその逆の仕様。
「すごい!!可愛い!有難うございます!!」
灯は"偽装"グッズと言えども、その愛らしさに目を奪われている。
しかも地模様にマーガレットがあしらわれていることが何よりも嬉しかった。
「お褒めに預かり、私も嬉しいです♪」
「このまま付けて帰っていいですか?」
享が店員に確認すると、
「もちろんです!ただシルバーは、くすんでしまいやすいので、まあそれも味ではあるんですが、キラキラ感を長持ちさせたい場合は、ご自宅に帰られたら必ず外してこのクロスで拭いて下さいね。もし良かったら巾着お付けするので、これに入れて次に使うまで保管して下さい」
そして出してくれた巾着は
赤・白・緑・黒・ピンク・藍色・水色の七色。
当然のことながら、享は藍色、灯は水色を選んで、店員にお礼を言って店を後ににした。
帰りのエスカレーターは享が先に乗ると灯の方を振り向いて呟いた。
「可愛い」
「本当にね!こんな可愛いのあると思わなかった!」
「あかりんのことだけど」
「え?」
「そんなに嬉しそうにしてさ」
享が二段下がると、ちょうど灯と見つめ合う高さになった。
「さっきの店員さんが帰りに僕にだけ言ってくれたんだ。マーガレットの花言葉は"真実の愛"ですよって」
灯は享に耳元で囁かれて心臓が跳ねた。




