第二十八話 Are you actually the jealous type?(ヤキモチ焼きなの?)
「いやいや、でもこれは男子の先輩後輩のご縁でしょ?」
小深山と本橋は、顔を見合わせて笑う。
「宮守さんって話しやすい人だったんだね」
「え?」
「もっと、お高い感じかと思ってた」
「えっと、何で?」
「超ロングの髪の毛に、いつも伏せ目がちな感じで何となく声がかけづらいって言うか……美人さんだし」
小深山がそう言うと、向こう側で本橋もうんうんと頷いている。
「私なんか講義室で鼻血出す様な女子なのに?」
「それ、自分から言っちゃうんだ。ますます話しやすくなっちゃうよ」
「でもさ、あの時の横溝先輩とのことは見えないバリアみたいなので囲まれてて、俺ら、ただただ見惚れちゃってさ」
「え!!」
蔵書室カウンターにいる司書さんが、灯にシッと言う顔をした。
灯は慌ててお辞儀をした。
「じゃ、あの鼻からティッシュ抜くの皆んな見てた訳?」
「多分ほぼ全員。女子なんて、まあ、この学部少ないけど、皆んなため息ついてたよ」
『着々と勝手に恋人神話作ってんじゃん……』
「忘れて欲しい……」
「ムリだなぁ。あんな事、誰でも出来る訳じゃないし、横溝先輩だからカッコいいって事じゃない?」
「そうそう」
灯がしょんぼりした顔を見て、小深山と本橋の二人はちょっと慌てて
「僕達、もう写し終わったからさ。これ宮守さんも写しちゃいなよ」
「え?でもさ……いいのかな?」
「本人に後で言えばいいんじゃない?」
「本人に?って……」
「横溝先輩のだからね」
『やっぱり』
「この後、返す予定にはなってて貸す相手は誰でもいい訳じゃないみたいだけど、宮守さんならいいんじゃない?」
「有難う。でも、こう言うのは本人に確認しないとダメだと思うから、私はいいかな」
「え?恋人同士なのに?」
「うーん、私はこの話は聞いてないから、もし貸してくれるなら、話があってからにする」
「親しき中にも礼儀ありなの?」
「恋人とか言っても、まだ一週間も経ってないから、私の方は手探り状態だし」
「横溝先輩は君のこと見てる目はメロメロにしか見えないけど」
小深山は不思議そうに言った。
「あ、そうだ。これ、もし良かったら」
灯はドイツ語の教科書を立たせると、それで隠しながら二人に森永のラムネとコーララムネを両手で差し出した。
「え?俺達に?」
小深山も本橋もちょっと驚いた様な顔をしている。
「席、譲って貰った上に、何か初めて話したのに、その"重要機密事項文書"?の話までしてくれて、ちょっと嬉しかったから。あ、でも、これは糖分摂ると脳に良いって聞いたから、いつも持ち歩いてるだけで、ばら撒くために買ったもんじゃないから」
「いいの?」
「もちろん。好きな方をどうぞ」
小深山と本橋は顔を見合わせて、それぞれ手前にあった方を灯の手のひらから受け取った。
「有難う」
「何だか懐かしいよ。久々食べるかも」
「こんなもので申し訳ないけど……」
灯がちょっと頬を紅くして、ヘへへと笑う。
その時、二人は同じことを考えてた。
『可愛い!!』
ただ次の瞬間、ハッと腕時計を見た小深山が下を向いたまま、灯に声をかけた。
「宮守さん、目だけで左の窓の外、見て」
「え?」
「顔は動かさないで」
「あ、うん」
窓の外には享が頭半分だけ見せて、図書室の扉の方に指差しをしていたが、灯が見たのに気づくと、いなくなった。
「え?まだ終業時間じゃないのに」
灯が呟く。
小深山が
「あのさ、この後、宮守さんトイレに行くふりして図書室から出てくれない?」
「え?トイレに?」
「机の上のものは、一時的に僕のバッグにしまわせてもらって、荷物の中身は絶対見ない。で、後から持って追いかけるから」
「これってまさか……」
「えっと、他の人達に気づかれない様にって事で」
「あ、そっか、分かった」
灯は小深山に言われた通り、Dバッグからハンカチだけ取り出すと、何気なく立ち上がりトイレに向かう体で、蔵書室から出た。
図書室の司書さんが見当たらなかったので、勝手に入退室名簿に退出時間を書き入れると図書室から飛び出した。
法学部校舎の横を通り過ぎようとした時、横から腕を取られた。
「きゃっ」
「あんなに楽しそうに何話してたの?」
「驚いた!びっくりさせないでよ」
「何、話してたの?」
「何って、大した話はしてないよ」
そこに小深山と本橋もやって来た。
「宮守さん、はいこれ」
本橋が灯のDバッグを渡す。
「これ、机に出てた物ね」
小深山が自分のDバッグから出して渡してくれた。
享が灯に声を掛ける。
「あかりん、自分の荷物ベンチで入れておいで」
「あぁ、うん。それじゃ小深山くん、本橋くん有難う。また明日ね」
灯は言われた通り、少し離れたベンチに向かった。
「大和、優、今日は有難う」
享は二人を正門の方に誘導したかと思ったら、その肩に後ろから両腕をかけて、ふたりの間に顔を寄せた。
そして二人の耳元で
「あかりんって本当可愛いでしょ?」
つい小深山大和も本橋優も口を揃えて
「はい!可愛いです」
顔を赤くして答える。
「でもね、あかりんは僕の彼女だからね」
享の声は低く二人をビビらせるには十分だった。
大和はやっとの思いで
「いやだなぁ、今回だって先輩から依頼されたから、お受けしただけですし……」
優も
「それより、さすが横溝先輩の彼女さんですね!」
享の表情が変わる。
「何かあった?」
「ドイツ語の"あれ"ですけど、自習室で俺ら、ちょうど写させて貰ってた最中だったんで、宮守さんにも声かけちゃったんですが、横溝先輩が発信元って分かった途端、本人に聞いてからじゃないとって、写せないって言われました」
「あかりんがそんなこと言ったの?」
「はい」
「ふうん」
ちょっと享は不貞腐れたような顔つきだ。
『あれ?宮守さんの真面目アピールのつもりが、逆効果?』優は慌てた。
大和が空気を読み取り
「これ、お返しします!有難うございました!」
と、ドイツ語の灯りが言うところの"重要機密文書"を享に差し出した。
が、次の瞬間、灯が戻って来そうになったからなのか、享は肩掛けしていたミリタリーバッグから二人に何やら袋を差し出して渡すと、大和の手から、"重要機密文書"をすり取る様に受け取ると表情が変わった。
「今日は有難う。これお礼。また何か頼むかもしれないから宜しくね。これからもあかりんにはバレない様にくれぐれも気をつけて」
大和と優は、灯りを待たず享にだけ挨拶すると急ぎ足でその場を立ち去った。
「あれ?もう二人とも帰っちゃったの?」
「もっと話したかった訳?」
「って言うか、Tall、これって仕組んだよね?」
「あ、その話は後。せっかく、ここまで上手く行ったんだから、早く帰ろう」
「ん……うん」
「ほら、こっち」
「え?どこ行くの?」
駐輪場。
「じゃーーん!ほら」
「ヘルメット!」
「あかりん用」
「水色だ」
「ちょっとだけ遠回りして帰ろう」
享は肩掛けしてた自分のミリタリーバッグを斜め掛けに変えた。
「あかりんはここね」
「え?」
簡単に脇の下に手を入れられ抱き上げられた灯は後部席に座らされた。
そしてヘルメットを被らされる。
顎のベルトを絞めながら享が聞く。
「キツくない?」
「うん、大丈夫」
灯の前に享が腰を下ろすと、ここと上着の下から見えているベルトを指差しさす。
「両手回して、ここにつかまって」
「え?抱きつく!?」
「そう!しっかりつかまらないと危ないからね。ほらもっとギュッとだよ」
灯は享に両手を思いっきり前に引かれた。
「わ、わわ」
「じゃ、出すよ!」
駐輪場から裏手の道路に繋がるスロープをゆっくりと二人の乗ったバイクは走り出した。
その頃、駅のホームで電車待ちの大和と優。
「横溝先輩って本当に宮守さんのこと好きなんだな」
「でも、何だか宮守さんの方は一歩引いてるって感じしない?」
「うーん、そんな感じした」
「何かあんなカッコいい人に、あんなに好かれてんのに、やっぱり宮守さんってクールなのかな?」
「え?いやいや、そんな事ないだろ?ほら、あのラムネくれた時、顔赤くして」
「あ、そうだった」
二人揃って
「可愛いかったよな」
と呟く。
「マズイ!保護対象に惚れたら駄目なんだから」
「俺達、何だか損な役回り引き受けちゃったなぁ、普通に友達にもなれないじゃん」
「でも、まあ二人のこれからを近くで見守れるのもスゴイことだし。って、横溝先輩、何、くれたんだろ?」
二人は手に持ったままの袋を開けてみた。
「考えることって似ちゃうのかね?」
「そうなのかもな」
顔を見合わせて笑った。
享がくれた袋には、これでもかと駄菓子がいろいろ入っていた。




