第二十五話 We ended up walking home together! (結局、一緒に帰ることになっちゃった!)
「あかりん、ハンカチで顔隠して、どうかしたの?」
享が近づいて来て声を掛けられ、慌てる灯。
鼻血を出して、まだティッシュが鼻に詰まってるなんて、絶対見せたくない。
「何でもない」
と、言うも、鼻詰まりの声でおかしい。
福ちゃんがそこで気を利かせて享に話す。
「灯ちゃん、ちょっと学部長とのお話で疲れちゃったみたいで、少し休んでたんです!その時に顔に跡がついちゃったみたいで、ねっ!灯ちゃん」
「そうなんだ」
享は、灯の顔を見つめたまま、福ちゃんに返事をする。
「あかりん」
顔をハンカチで半分隠したまま灯は
「ん?」
聞き返した。
すると、享は他の人から見えない方の灯の耳元で囁いた。
「その鼻血僕のせい?」
「!!」
灯はうっかり思わず右手だけでハンカチを持ったまま、享の肩を思いっきり叩いた。
「もう!バカ!」
「鼻血かぁ、可愛いなあかりん」
と言いながら、机の上に出ていたティッシュケースからティッシュを二枚取り出し、右手の上に広げると灯の鼻から血のついたティッシュを左手で優しく抜き取り、その右手のティッシュで見えない様に包み込んだ。
灯自身は顔を真っ赤にして固まってしまっているのに周りは祝福モードだ。
"横溝先輩って本当に宮守さんのこと好きなんだね"って、"鼻にティッシュが詰まってても可愛いんだって!"しかも、"鼻からティッシュ抜いた♪"と言う雰囲気になっていた。
そして、改めて享が灯の鼻の下についていた少しの血を自分のハンカチで拭い終わると言った。
「お昼一緒に食べよっか?」
「え?でも今日は?」
「白河さんからの警告聞いてなかったの?」
「帰り道には気をつけてって」
「その予行演習も兼ねて」
「は?」
「あまり時間もないし、パン買って持って行くから、ど真ん中ベンチに来てね」
そして徐に享は大きな声で続けた。
「一年生の皆んな!騒がせてごめんね!」
何故だか、拍手が起きた。
そしてその後、灯の近くにいた四人の友人に、
「いつも僕の灯がお世話になってます。これからも仲良くして下さいね」
珈琲屋での仕返しをされて真っ赤になった灯とその友達に手を振ると講義室を出て行ってしまった。
「灯ちゃん、羨ましいぃ〜♪」
四人が口を揃えたかの様に溜め息まじりに言う。
「白河先輩が"眼福"って言ってたけど、まさにその通りだよね!」
「同じ人間とは思えないよ。いい匂いしたし」
「あれ?あのさ、もしかして灯ちゃんと同じ香りじゃない?」
『何!?それ!?』
「あーそれ!分かった!灯ちゃん、最近シャンプー変えたよね!?シャンプーじゃない?」
「きゃー、同じシャンプー!!?え?もう?」
「あ!みんな、ふざけないで!灯ちゃん、また鼻血出ちゃったじゃん!」
福ちゃんがその場を収めてくれた。
が、シャンプーが一緒なのは多分本当のことだと思った。そして『Tallったら、同じの買ったんだ!』と思って怒ったら、また鼻血が出た灯だった。
「Tall!」
「おっ、思ったより早かったね!」
「何なの!今日の茶番」
「え?茶番?ごめん。僕の方が時間がないから食べながら話そうか?座って」
あかりの鼻息は荒かった。
「え?それじゃあ、本当に白河先輩と仕組んだ話じゃないの?」
クリームパンを食べながら灯は聞いた。
「違うって、何だか一年の講義室に文学部の白河さんが来てるって三階にいる男共までザワついてたから、何かあったのか?って聞いたら、お前の灯ちゃんと話してるって言われたから慌てて下りてみた訳」
メロンパンを食べている享を見つめながら灯が言う。
「あのさ、メロンパンってもう一個ある?」
「ない。元々Last oneだった」
「最後の一つ!?」
「何?食べたかったの?」
灯がこくっと頷いた。
「じゃ、半分こね、はい」
ビニール袋の中で半分に割って残した袋の方を灯に手渡す。
「有難う!Tallクリームパンいる?」
「うん。ここのクリーム美味しいから」
「じゃ、半分あげる」
「うん!」
灯が享と同じ様にビニール袋の中で分けようとした時、享は灯の手を引いて持っていたクリームパンをそのまま口に入れた。
「あー!もう!!半分以上食べた!」
「え?そんな大きくないって僕の口」
「その口の周りのクリームが証拠なんだよ!」
灯はその後、享と口をきかずに黙々とたまごパンとブリックパックの牛乳を交互に口に運んでいる。
「あかりん、怒るなよ。また買ってあげるから……あかりんの黄色いクリーム好き忘れてたよ。ごめん!!そうだ今日帰り送る時にさ、不二家でシュークリーム買ってあげるから」
灯の表情が少し動いた。
「ね?それで許して」
「仕方ないなぁ……今日のところは許す」
「本当?」
「ホント、でも次はちゃんと半分こだからね!」
「分かった」
『あかりんは食べ物のことだけは素直だよな』と享は苦笑いした。
「あ!それとシャンプー変えた?」
「え?何?」
「シャンプー変えたよね?」
「あかりん、いい香りしたから、同じのにしたくて……」
「同じシャンプー使ってると、何だか意味があるみたいだから、やめて欲しいんだけど!」
「んー、どうしよっかな?」
「それに女子が使う様なの使わないでよ。あの香り、結構、使ってる子、多いんだから」
「ん?それは……みんなが話してるのと違う意味みたいだね」
「え?」
「ヤキモチ妬かれてるみたい」
「違うし!って、みんなが言ってるのって、どう言う意味だか、Tallは分かってんの?」
「あかりんは分からなかったの?」
「ん?」
「まだ、早いか?」
「え?」
享が話をはぐらかした。
「そう言えば、あかりん今日二限で終わりだよね?」
「あ、うん。今日はまだこんな時間だし、真っ直ぐ帰るから大丈夫だよ。シュークリームも今度でいいし」
「今日、僕この後労働法があるんだよな」
「だから、一人で大丈夫だってば」
「でも白河さんが、かなりあかりんの事心配してたからさ。何かあったらって僕も思うし」
「大げさ!……」
享のショボンとした顔には勝てない。
「でも、待っててもいい……」
「じゃあさ、図書室の自習スペースで待っててくれない?」
「図書室?ん、いいけど」
「今度からさ、どっちか早い方がそこで待とうよ」
「待ち合わせって事?」
「そう、待ち合わせ。あんまり人気はないけど、司書さんは信用できる人だし、自習スペースは結構、真面目な子しか使わないから安心だよ」
「うーん、まあノートまとめするのは、どこでもいいかな」
「じゃ決まりね。ここ片付けたら、図書室まで一緒に行くから」
図書室は法学部校舎の裏手側。
教会の様な洋館で図書室というよりは図書館の様だ。
「じゃ、お迎えに行くから後でね!」
享はお昼のパンのゴミを持って学部校舎に走って戻って行った。
「じゃ、お邪魔しますか」
灯りは重たそうな木の扉を開けて中に入るとそこには思いも寄らない光景が待ち受けていた。
本当に中は教会の様なエントランス。
ステンドグラスで彩られた縦長の窓ガラス。
二階に上がる螺旋階段。
その右手前に司書さんと思われる初老の気の良さそうなご婦人が半円の木のカウンターの中からニコニコと笑っていた。
「初めてかしら?一年生?」
と声を掛けられた。
「あ、初めての利用です。宜しくお願いします」
「あら、こちらこそ。じゃあ、まずは利用者カードを作らせて貰うから、ここに記入をお願いね」
灯は学部学科・学年・氏名・連絡先=電話番号など記入をする。
「すみません、女子寮に入っているのですが、電話番号はそこでいいですか?」
と聞いた。
「女子寮なの?そうしたら、女子寮って書いて部屋番号を記入してくれればいいわ。引っ越したら、また教えて」
「はい」
「じゃあ、これ、あなたのカード」
紙のカードに連番スタンプと氏名が書かれている。
司書さんはかなりの達筆だった。
「有難うございます」
「自習室なら右手よ」
「はい、失礼します」
灯は蔵書室と書かれた木札が掲げてある扉を開けて中に進んだ。




