第二十四話 The appearance of an unexpected ally. (予期せぬ味方の登場)
『油断も隙もない!Tallは小学生のままなの?』
講義中の講義室、後方の引き戸を静かに開けて中に入ると、講師と目があったところで、お辞儀をし、自分の荷物が置いてある席に着いた。
三人掛けの長机に長椅子。
横にに五机ならび、その後ろに各六列の九十席。
窓際、後ろから前後二列が今の灯には、友人と呼べる女子達が座っている。
前に三人、後ろに一人、その横に窓際側に灯を入れると全部で五人。
灯以外は、他大学や専門学校、はたまた会社員の彼氏がいるので、元々この校内での移動などの時に一緒に行動する仲間の様な関係だった。
が、一時、李人と付き合っていた頃は少し離れてしまったが、灯が李人と別れた後の月曜日に、髪型のことで声を掛けてくれて一緒に行動できる様に戻れた。
前の席から、メモが灯に回って来た。
"灯ちゃん、学部長なんだって?"
灯は何と書いたらいいか分からず
"二限が終わったら"と
とだけ書いてメモを返した。
一限と二限の間の休み時間は短い。
化粧直しにトイレに行ったりすれば、すぐ終わる。
灯は他の女子がバタついている時に机に突っ伏して何も聞かれたくないムードを醸し出していた。
二限終業の鐘と同時に灯の席に、他四人が詰め寄る!口火を切ったのは、前の席の伊東美春だった。
「やっぱり、昨日のお膝抱っこのこと?」
次はその隣の斎森喜子が言う。
「いやいや、その後の熱き抱擁でしょ?」
前席三番目に大川美智子が言った。
「それを言うならどっちもでしょ!」
そして最後に灯の隣にいた福山聡子が面白がりながら
「横溝先輩とどんな関係なの?私達知らなかったんだけどぉ〜」
灯に迫る。
「ちなみに噂によると幼馴染なんだよね?で、何?運命の再会?あちらはさ、ほぼアメリカ人なんだからスピード違うよね?もうキスした?」
美春が普通に世間話をする様に灯に聞いて来た。
「え!!……幼馴染ってこと以外、当てはまってないです……あれ?なんだ?」
「やだ!灯ちゃん話し方おかしいよぉ……!って、ちょっと鼻血!誰かティッシュ!」
聡子が灯の頭を上に向けた。
「……有難う……ご迷惑かけてごめんなさい」
灯が他四人に言う。
鼻には丸めたティッシュが入っているが、それを隠すためにハンカチがかけられていて、灯からは講義室の様子は分からない。
たが、ざわついているのは確かだった。
「ほら、灯ちゃんにそんなこと聞いたらダメって言ったのに、言わんこっちゃない」
「渡辺くんとは手も繋がなくて別れたって話だもんね!」
『それは半分本当、半分間違い』
「それにしたら、横溝先輩にはハードル低いんだね。もうお膝抱っこに、ギューっだよ!」
『ハードルを低くくしてんのはTall』
「とにかく、ど真ん中ベンチで食べてたのが、横溝先輩が作ったって言うお弁当って本当なの?」
『ん?私が聞かれてる?皆んなは、お昼食べに行かなくて大丈夫なの?』
灯りがぼんやり、そんなことを考えていると、そこに別のざわつきが起きた。
「宮守さん、如何されたのかしら?」
「あ!白河先輩!」
「あら、福ちゃん。あなた、宮守さんのご友人?」
「はい」
聡子は応えた。
美玲と聡子は同じ女子高出身。
重なり合ったのは一年間ながら、同じ茶華道部の部員だった。
「あなたが側にいらしてくれるなら安心ですけれど、少し気になることがあって、私、宮守さんにご警告に参りましたの」
「わ、わ、私にですか!?」
灯は慌てて、ハンカチを抑えながら顔を下げた。
すると福ちゃんこと聡子が
「大丈夫なの?もう止まったかな?」
「宮守さん、どうかされたの?」
「その……鼻血が……」
福ちゃんが慌てて
「昨日のど真ん中ベンチのことで灯ちゃんのこと皆んなでからかっちゃったんです、そしたら」
美玲はそれを聞くと嬉しそうに言った。
「やっぱり思った通り、灯ちゃんは純粋無垢なお嬢さんでしたのね。昨日は本当に眼福でしたわ。横溝くんのあんな甘いお顔も初めて見させて頂きましたし、灯ちゃんの無邪気な笑顔が可愛らしくて、あれほどの胸がときめいた光景を私見たことがありませんわ」
その時、後方から声が響く。
「白河さん。灯に何の警告ですか?」
いつの間にか享が講義室に来ていた。
チーム鑑識の潜入学生の働きだった。
「あらまあ、横溝くん。本当は横溝くんにお会いした方がとは思ったのですが、三年生の講義室に行くには階段しかないので、ごめんなさい」
コの字型の校舎は、文学部と法学部はまるで逆サイドにあり二階以上は繋がっている様に見えて中で繋がっておらず、文学部には学長室がある為かエレベーターが設置されているが、法学部は校舎のエントランスを挟んで左右端に階段があるのみとなっていた。
ちなみに法学部学部長と四年生が四階を使っており一番ハードだ。
白河美玲はその為に灯のところに来ただけと言う様ないい方をした。
が、その実は
「横溝くん、昨日のお二人の仲良しさんっぷりのご披露は素敵でしたわ!ですが、お忘れのことがあると思って、灯ちゃんにご警告に参りましたの」
「いったい、何をですか?」
「女の敵は女と言うことですわ」
「それは……どう言う?」
『あかりんと同じ事言ってる』
「大学一のモテ男子の横溝くんにも、お分かりにならないことがあるとは……このところ花梨さんとは、お会いになって?」
「そう言えば今週は見かけてないかもしれませんが」
「毎日の様に横溝くんのところに押しかけていらしていたのに、何の音沙汰もないなんて不思議だとは思いませんの?花梨さんは、絶対、何かしら仕掛けてくると思いますの。それは横溝くんにではなく、灯ちゃんにですわ」
「あかりんに?」
「あらあら、まあまあ、灯ちゃんのこと、あかりんちゃんとお呼びなの?胸キュンポイントがまた一つ増えましたわ!……あら失礼。まずは、とにかく、お一人で帰宅させてはいけませんわ」
「あのう、お言葉ですが歩いて五分ほどの女子寮におりますので……帰り道はそんな」
灯りが口を開いた。
「ダメです!横溝くん!待ってでも、一人にしてはダメです!わかりましたか?」
「あぁ、白河さん、わざわざご警告有難う」
「では皆様、お昼時にお邪魔しました。ご機嫌よう。福ちゃん、またね」
と、お連れの人を何人か率いて講義室の後方扉から出る際、享の横を通り過ぎる時、美玲は小声で言った。
「花梨さんは諦めの悪い方です。昨日のことも多分あの方が学長に何か仰ったと思われます。本当にお気をつけにならないと灯ちゃんに何かあってからじゃ遅いですから」
文学部にツテのなかった享はその美玲の申し出に感謝しかなかった。
「有難う、白河さん。恩に切るよ。あかりん、毎日送るって言っても言うこと聞いてくれなかったんだよね!」
わざと"あかりん''の後からは大きな声で享は言った。
「横溝くんのそんな甘々なお顔を拝見できる日が来るなんて!私、鉄壁の援護を致しますから……背後に狙撃手でもいると思って、ご安心なさって」
美玲は高らかに笑いながら、お供と共に講義室を後にした。




