第二十二話 We got called into the dean's office!(二人で学部長室に呼び出された!)===加筆・修正あり
後々のお話に関わる重要な案件があり、加筆・修正致しました。
ご了承下さい。
翌日の一限始業前。
校内アナウンスが流れる。
「法学部法律学科三年 横溝享さん、同じく一年 宮守灯さん、至急、法学部学部長室においで下さい」
「え?」
灯に講義室にいた全員の視線が集まる。
近くに座っていた数少ない友人達が心配し、中の一人が声を掛けてくれた。
「灯ちゃん、大丈夫?一緒に行こうか?」
「あ、ううん。大丈夫……って、学部長室って、どこか知ってる?」
「あらやだ」と言われつつ、突き当たりの階段を四階まで上がって、すぐの扉と聞いて、急ぐ。
一階の突き当たりの階段前に、享の姿が見えた。
「Tall!わざわざ降りてきたの?」
「当たり前だよ。あかりん一人で先には行かせられないからね。それに多分、昨日のことだから」
一緒に階段を上がりながら話す灯と享。
「僕が話しはするから、あかりんは適当に相槌打ってて」
「あ、うん……」
学部長室到着。
享が灯に目で合図を送ってから、ドアを"コンコンコン"と三回ノックする。
「法律学科三年 横溝享」
続けて灯が
「同じく一年 宮守灯です」
名乗ると、中から落ち着いた声が響く。
「どうぞ」
享が、それに応えてドアを開けて中に入る。
「失礼します」
「失礼します」
灯も続いた。
大きく立派な机に肘をついて、男性が顔の前で両手を組んで待っていた。
『怖っ、怒られるんだよね……』
昨日は、大学中の注目を集めている享が調子に乗って灯をお膝抱っこした挙句、家庭の事情を話した彼女が泣いた時、"ど真ん中ベンチ"で抱きしめた。
多分、この事は校内では前代未聞な事だろう。
二人は一礼して、ドアの前に立ったままでいた。
すると学部長が……
「享!いくら何でもハシャギ過ぎ!」
笑いながら、おいでおいでをしつつ自身も席を立ち移動。応接間セットの様な三人掛けソファを指差す。
「すみません。教授」
「普段通りオッさんでいいよ」
『え?二人は知り合い?って教授?』
灯は戸惑いを隠せなかった。
「まあ、とにかく二人ともお座りなさい」
「失礼します」
享がお辞儀してソファに腰掛けたので、灯も慌ててお辞儀して、間を開けて隣に座った。
「もう、固っ苦しいなぁ。まっ、仕方ないか!」
「昨日の件ですよね?」
「やっちゃったって言う自覚はあんのね?」
「はい。ハシャギ過ぎました」
『どういうこと?何でこんなにフレンドリーに享は学部長と話してんの?』
「あぁ、あかりんちゃんを置き去りにしちゃった。えーと、何というか……ボク、享のパパとこの大学の同期です。実は君達のこともよく知ってる。今、学部長はご病気で入院しているので一時的に代行をしている教授の竹之内龍馬です」
「え!?そうなんですか?」
龍馬は続ける。
「気づかなくて悪かったよ。享があんなに一生懸命に探してた子がこんな近くにいたなんて……住所も苗字も違うから結びつかなくて、ごめんな。それでも、今回の事案は呼び出し案件だ」
「分かってます。ここは日本です」
「分かってるなら、宜しい」
「え?」
「あそこで、あれはさぁ、さすがにマズイ。他の学部長からクレームが入ったよ。いくら成績優秀者でも特別扱いするなって。特別扱いしたことはないと思うんだけどね」
「された覚えもありません」
「なぁー、そうだよな。頭が固くて嫌んなるよ、全く。でも、良かったな、享!念願叶って」
「はい!」
「でも、校内でハシャぐのは禁止。普通は二人っきりの方が楽しいんじゃないの?」
「いえ!あれは私が……」
灯が龍馬に何か言い掛けた時、享が彼女を見て、人差し指を立てた。
そして龍馬にこう言った。
「実は彼女、僕のこと拾った子猫みたいに警戒していて、気が抜けてる様な時しか、あんなことさせてくれないんですよ」
「え?そうなの?」
「はい、そうなんです」
「ふぅん、あの空港での別れの時が目に焼き付いてるせいか、そんな二人想像出来ないなぁ」
「え?あの時、いらしたんですか?」
灯は驚いた。
「達志がさ、お骨になったメグも転勤先が故郷だから連れて行くって言うから本当に最期のお別れをと思ってね。僕だけかと思ったら、かれこれ十人以上駆けつけて、出発ロビーで搭乗案内待ちしてたらさ、大人一人用のロビーチェアに君達二人でくっついて座ってたのが昨日のことの様に思い出されるよ。君達が泣きながら抱き合ってさ、それ見た達志が引き裂く様でツライって泣いて、つられて全員男泣きだったよ」
『後から見られてたんだ……』
灯は恥ずかしくなったが、享はそれを覚えてるのだろうか?と思い、チラッと顔を盗み見た。
享は真面目な顔つきでいながら
「その話、何回も聞かされてますから」
しれっとしていた。
「じゃ、今日はこれでお終い。行って良し!あ、そうだ。あかりんちゃんと再会できたのは、達志には伝えたのか?」
「はい、先週土曜に」
「そっか、喜んでたろう?」
「はい、それはもう」
「本当良かったな、享。たまには経過報告に来いよ」
「オッさんに経過報告なんかするかよっ」
「あれれ、不問にしてやった学部長代行に対して、その態度かぁ?」
「だいたい今日の一限なんて三年空きコマなんだし、分かってて呼んだんだろ」
「あれれ、バレたかー、いなかったらあかりんちゃんと、ゆっくりお話ししようと思ってたのになぁ」
「ふざけんなっ!でもまあ、また来るわ。お世話になりました。行こう、あかりん」
享はドア側に座っていた灯を立ち上がらせると、肩に手を置き、少し押した。
ところが灯は、龍馬の方に向き直って立ち止まると、
「あの……学部長代行、私達のせいでご迷惑をお掛けしまして申し訳ございませんでした。また、不問にして頂いて有難うございます。以後、気をつけます」
丁寧なお辞儀をした。
「素晴らしい!優秀な学生のあるべき姿だな。横溝くんも見習いたまえ」
「ありがとうござっした!!」
「素直じゃないなぁ、そんなにあかりんちゃんの前でカッコつけたいの?達志に言いつけるぞ」
「タンマ※!分かったから、父さんには言わないで下さい。学部長代行のお気遣いには本当に心から感謝しております。有難うございました」
「うーむ、まあ、宜しい。じゃ、またな。たまには家にも遊びに来いよ。妻も待ってるからさ、あかりんちゃんも一緒にね」
急に話を振られた灯は
「はい、有難うございます」
と答えてしまった。
が、享がちょっと苦笑いしたのに気づかなかった。
「失礼しまーす」
二人でドアから出て、享が挨拶したとき、龍馬が
「宮守さんは今日の講義は遅刻は取らない様に言っておくけど、早く戻りなさいよ」
言うか言わないかのうちに享がドアを閉めた。
「全く、享のヤツ……うかれやがって。再会出来て、そんな嬉しいのかよ!あんなに図体でかいくせに可愛いもんだなぁ」
そんな事を龍馬が呟いたのを享は知らない。
階段を降りる二人。
「あの時私が泣いたからTallは悪くないのに」
二段先を降りた享がいきなり振り返り、灯の目の前に端正な顔が近づく。
「いや、僕がはしゃいで、お膝抱っこして、みんなに注目されたんだから……あかりんは悪くない。それに抱きしめたのは、あかりんが泣いてる顔を他のヤツに見せたくなかったから……」
享は横を向いて口に握りしめた手を当てて恥ずかしそうに言うと顔はみるみる間に赤くなった。
灯はそれを見てこう言った。
「私、私ね、あの時、抱きしめてもらって嬉しかった」
「本当?」
「うん、安心して泣いてもいいんだって思えた……有難う。Tall」
『Tallとのお別れの時に涙は使い果たしかと思うほど、泣いてなかった。だから、あの時、本当は私にも居場所があったみたいな気持ちになって……でも、それは言えない。いつか、いなくなる人だから』
灯はまた泣きそうだった。
その時享が言う。
「ギュッとしていい?」
※タンマ 子供達が遊びに夢中になっている時、一時休止する時の魔法の言葉(笑)
"タイム+待った"の混ざり合った説が有力。




