第二十一話 Actually, I was lonely.(本当は寂しかった)
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「可愛い」
灯は眠っている赤ちゃんを見ながら呟いた。
宮守と再婚した千紗子は、その一年後、崇との間に男の子を産んだ。
灯とは十四歳違いの弟・琢磨だ。
千紗子は産休明けから、赤ちゃんを保育園に預けて仕事に戻る事にしていた。
保育園の送り迎えは灯も手伝う事に自然となる。
それでも、灯はそんな事に関係なく琢磨が可愛くて仕方なかった。
保育園の帰り道、預けてあったベビーカーを押していると、どこかのおばちゃん連中がヒソヒソと陰口を叩く。
「子供が子供産んでどうする気なのかしら?」
「今時の子の考えることはわかんないわよね!」
中学校の制服を着ていても当時の灯は髪を長く伸ばしていたせいか、よく高校生に間違われた。
『そんなの自分で選んだ道かもしれないじゃん!』
灯は九歳の時に見ていた、金曜日八時の"おさな妻"という女子高生が子連れの会社員と結婚をし、その夫が事故で急逝した後、高校生であるのにも関わらず彼の子を育てると言うドラマに感化されていた。
ただし、大人からの、そう言う勘違いの時には必ず大きな声で言う。
「たっちゃん、今日はママは早く帰って来るからねー!お家でママが帰って来るの待とうね!」
面食らってるおばちゃん達の横を通る時、
「世の中いろんな事情がありますが、この子は私のオトウトです」
と通り過ぎる事にしていた。
そんな事を繰り返すうちに、
「先に宮守さんとこのお嬢ちゃんって言ってくれたら分かったのに」とか、
「灯ちゃん、いつも偉いね!」とか言われる様になり、度々お菓子を貰ったりするようになった。
そんなある日の高校二年生の三学期。
両親から意外な話が出た。
「灯に琢磨の世話をほとんどして貰って悪かったね」
「もう大学受験もあるし、お母さん病院辞めて、崇さんのお仕事をお手伝いしながら家事に専念しようと思うの」
「え?」
「灯にも自分の目指す道を歩んで貰いたいから」
崇に言われて、むしろ驚いた。
最近、一人自室で勉強をした後、リビングに顔を出そうと思うと、そこには親子三人の世界があり入り込めない雰囲気があった。
だが、必ずその時、琢磨が気づき
「ネェネ!あそぼ」
と引き入れてくれる。
灯にはそれだけが楽しみの一つになっていたのに。
両親は自分のことに専念しなさいと言った。
これは親離れしないといけないのか?子離れなのか?
そして、この大学に受かった時、灯が崇に申し出たのが寮に入ることだった。
「同じ沿線なのに、寮に入りたいって……灯?どうして?」
「お義父さん。ごめんなさい、どうしてもなの」
「まさか、琢磨の事?」
「え?たっちゃんは関係ないよ」
「知らず知らずのうちに気を遣わせていたんだね」
その宗の問いには灯は答えなかったが、宗は察して、その申し出を受け入れた。
千紗子は灯に対して何故と言う気持ちで、いっぱいだった様だが、大学の四年間だけと崇にいい含められ、問いただす事はしなかった。
「ただし、アルバイト禁止!成績が下がったら、家に戻る事が条件だよ」
結果、灯は生活に困るほどではないが、贅沢は出来ないお小遣い付きで寮生活を始めることになった。
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「そっか……」
享は何だが考え込んてしまう。
「えーと、Tall?離れた方がお互いの有難みも分かっていい事もあるって事だよ」
「本当に?そう?」
覗き込むように顔を近づけて来た享の海の色の瞳に見つめられて、灯は本音を語り始めてしまった。
「私の方が先に神主さんと知り合ってたのに……お母さんの方がもっと先に神主さんと出会ってて、しかも神主さんの初恋の相手だったんだよ……だからじゃないけど.…二人とも大好きだったから応援した……でも」
「もしかして神主さんのこと好きだった?」
「違うよ!!うわっ!ないない!」
「即答?」
「もちろんだよ!」
「じゃ、何?自分の好きな人同士が結婚して嬉しかったんでしょ?」
「うん!それはそう!……でも、そこが微妙で……神主さんとはさ、友達みたいな関係だったのに、お義父さんになっちゃって……お母さんは、何だか"恋する乙女"みたいになっちゃって……前のお父さんとはそんな雰囲気微塵もなかったのに……弟が生まれて可愛いのに……みんな大好きな家族なのに……一緒にいても一人ぼっちな気がしちゃって……そんな時はアイスクリームだよ!ってTallに言ったの私なのに……アイス食べても全然元気ならなかった……」
灯は、不意にあたりが暗くなって驚く。
「えっ?」
「ごめん……寂しかったよね……もっと早く見つけられなくて……本当にごめん」
その声に享の胸に顔が埋まっていたのに灯は気づいた。
『抱きしめられてる……の?』
灯は自身、涙が止まらなくなっていた事もあって、その抱擁は安心感しかなかった。
だが、後に、これが大学をあげての大騒ぎになるとは思ってもみなかった。




