第二十話 Tender memories(優しい想い出)
日曜日いかがお過ごしですか?(初回投稿日7月12日)
お天気も今ひとつの今日……こんな日は私なら続きが読みたいなぁーと思うので、午後8時に最新話をお届けしようと思います!
どうぞお楽しみに!
優月菜
灯はメグママの事を思い出していた。
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季節は十一月のとある日。
メグが財布と買い物カゴを持ってリビングを覗く。
「享、ママ、買い忘れたモノあった。チョット出かけるけど、お留守番頼める?」
「ん、大丈夫」
当時、享と灯は"Dr.スランプ"※1 が大好きで、享が買っている週刊ジャンプを一緒に読むのを楽しみにしていた。
そしてその日は新刊が出たばかり、そのお楽しみの真っ最中だった。
「台所はお料理途中だから、入らないでネ」
「うん、分かった」
メグが出かけた後、しばらくして享が灯に聞いた。
「寒くなって来たね。温かい飲み物飲まない?」
「え?でもメグママがお台所行っちゃダメって言ってたよね?」
「僕、最近、ママにお料理習ってるんだ」
「そうなの!?すごい。包丁使う?」
「うん!野菜とか切る」
「へぇー!」
「一人で包丁はダメだけど、ホットミルクは包丁使わないから大丈夫。そしたら飲む?」
「うん!じゃ、先を読まないで待ってるね」
「分かった」
享はメグとの約束を破ってしまった。
そして
「ソースパン※2 に牛乳入れて、少し温まったら、お砂糖を入れる」
手順は良かったが、その後が問題だった。
火にかけたミルクはなかなか温まってる様に見えない。
灯に次のページを読むのを待たせている享はソワソワして、一度リビングに戻って、すぐにまた見にくればいいかな?と思ってしまったのだ。
「あかりん、お待たせ」
しかもリビングのドアを閉めてしまった。
少ししてメグママが戻って来た。
「何?これ!!ドウシタの!」
慌てて台所に向かう。
玄関を入ってすぐに廊下に白い煙が充満していた。
何か焦げる臭いもしている。
コンロの上にあるソースパンは鍋底がまる焦げになっていた。
メグは慌ててコンロの火を止めた。
「トオル!」
バンとリビングのドアを勢いよく開けて入って来たメグは青い顔をしていた。
その時、享はある事に気づいた。
「ごめんなさい!ホットミルク忘れてた!」
灯とマンガを読み進めていた享はホットミルクを後で見に行く事をすっかり忘れてしまったのだ。
「もう!本当に驚いた!二人とも何ともない?」
「ごめんなさい」
泣きながら謝る享に釣られて灯も一緒に謝りながら泣き始めた。
「メグママごめんなさい!Tallは悪くないの!私が温かいもの飲みたいって言ったから!ごめんなさい」
「違うよ!僕があかりんに何か飲むって聞いたんだ?あかりんは悪くない!忘れた僕のせいだ!」
「二人が大丈夫ならいいの。でもネ、火を使っている時には、そこから離れない約束したよネ?」
「うん。守らなかった」
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「あの時、メグママがおばあちゃんから貰って大事にしてたマーガレット柄のソースパン焦がしちゃって怒られちゃったんだよね」
「え?違うよ。ソースパンを焦がしたから怒られた訳じゃない」
「日本に来る時にマーガレットの柄だからって貰ったのよって嬉しそうに話してくれた事があったから怒ったのかと思ってた」
「あの時は火を使ってる時に僕が目を離したから、怒られたんだ。もし、もっとミルクを入れてて、沸騰した時、吹きこぼれてたら?」
「火が消えたかも?」
「ガス漏れしたかもしれないし。もし、あの時ママが帰って来なかったら、ソースパンを焦がしただけじゃなく火事になってたかもしれない。最初に二人は大丈夫か心配してくれたでしょ?」
「うん。何ともない?って聞かれた」
「火事になってたらって、あの時の事を思い出すと今でも身震いがするよ。何もなくて良かったって」
「あの後、メグママはTallがミルク使っちゃってって笑いながらミルクも少ししかないから、ミルクティーでガマンしてねってミルクティー入れてくれた」
「あのソースパンが祖母から貰ったものって言うの忘れてたけど……そうだったね。どうやら僕達二人で、ようやく思い出が繋がるみたいだね」
享が優しく笑った。
「Tallがポットに作ってくれたミルクティー、メグママの味にそっくりだったの。だから思い出しちゃって……でもTallがイヤな思い出だったらごめんね」
「いや、今、ママと同じ味って言われた事の方が嬉しくて、あかりんをギュッとしたい気分だよ」
「え?」
「ダメ?」
『イヤな訳ないじゃん……でも、ここは大学だよ?
さっき膝に乗せられて、注目浴びたばかりなのに……ムリムリムリ!』
灯は一人で顔を真っ赤にしたり、眉をひそめてみたり、首を振ったり。
「何?何?百面相?」
「え?」
「抱きしめるのには抵抗あり?さっきはお膝に乗ったくせに」
「さっきのは!気がついたら乗せられてた!」
享がからかう様に続けた。
「じゃ、気がつかなかったら何でもO.K.なんだ?」
「ち、ち、違う!」
「そう言えばさっき膝に乗せた時、あかりんの髪すごく甘いいい香りがした」
「ジャンプー新しくしたからかな?」
「長かった時のも優しい香りしたけど」
「それは多分椿油」
「椿油?それまた古風な」
「お義父さんがね。髪の毛伸ばしてたから気を遣ってくれて、大島から取り寄せてくれてたんだよね。あ、でも、もういらないって言わないと……」
「本当にいいお義父さんなのに、どうして都内在住のあかりんは自宅から通わないの?」
「何で?都内在住って知ってんの?」
「もう調べはついてるよ。宮司さんの苗字が分かれば神社も分かるからね」
「うわぁー!探偵みたいな事言って……」
「目黒なんでしょ?今の実家」
「うん……」
「話したくない?」
「そう言う訳じゃないよ」
※1Dr.スランプは1980年鳥山明氏によって描かれた人造人間の女の子“あられちゃん"が可愛くも面白くて人気を博した週刊ジャンプの連載マンガ。
※2 ソースパンは日本でいうところの片手鍋。アメリカにはミルクを温めると言う習慣がなかった為ミルクパンとは呼ばなかった。




