第十九話 Thank you for meal(ご馳走様でした)
再会してから何日も経たないのに、近づく距離感!
戸惑う灯。つめつめの享。
二人を見守るというよりも……嫉妬は怖い!
何も起こらなきゃいいんですが…。
灯は享の申し出に、首まで真っ赤にして思いっきり頭をブンブン振った。
「あかりん、可愛い。お膝に乗る?」
灯は享の海の色の瞳に中てられたのか、真っ赤な顔で声も出ないまま、気づいたら何故か享の膝の上に横座りで乗せられていた。
いやゆるお座りだが、お姫様抱っこ状態。
身長差三十センチ以上、灯は小柄な上に華奢な身体つきなので、まるでパパと子供の様にも見えてしまう。
ほぼ仰向けにされて抱えられた灯は享の顔が近すぎて、息をするものも忘れて、その海の色の瞳と見つめ合ってしまっていた。
まさか、ここで!?……
元々、二人のお弁当タイムは、校舎の中からも見物人が出るほどの高まりを見せていたにも関わらず、また周囲のざわめきが最高潮に達していたを当の二人は気づいていなかった。
急に「はっ!」と素に戻った灯が言った。
「お弁当途中なんだけど」
「まだ時間あるよ」
「この状況って何?」
「いかにも恋人っほくていいよね?そう言えばさ、僕がニューヨークに立つ日、空港のロビーで僕の首に抱きついてくれたの覚えてる?」
灯は『そうだ、あの時、一緒にいたいって駄々こねながら抱きついて……何かTallが言って……それから……あれ?』
ふと、くちびるに指を当てる。
「あ!あの時!」
「あの時?」
「もしかして……あー、いやいや!」
灯は享の膝から飛び降りると、また元の位置に戻って、お弁当箱を持って昼ご飯を再開。
真っ赤な顔をしたまま黙々と食べ続ける。
長い脚を組んで、その膝に左手の肘をつき頬杖をついて、その様子をにやけて見ている享。
『あの時は泣いてたから元々気がついていなかったのかもしれないけど、僕が思わずチュッとしたって事は思い出したかな?』
真っ赤な顔した灯のことをずっと眺めていたい享だった。
その様子を物陰から覗き見る文学部の数人の女子達。その中の一人は渋谷で享に腕を巻きつけていた女子学生の大槻花梨。
「何なの、あれ!公衆の面前で!きーっ、悔しい」
「びっくりですよね?一年生の分際で」
「享様も享様ですわ」
口々に享と灯の悪口を言い合う。
そこに背後から近づく別団体が。
「あら、ご機嫌よう。大槻さん」
「ん?あぁ、白河さん、ご機嫌ようじゃないわよ!あれ、見た?昼間っからベタベタしちゃって」
「微笑ましいじゃありませんこと」
「え?」
「あんな嬉しそうにしている横溝くんは見たことありませんし、お相手の方も可愛らしいし。何しろ、あのお弁当、横溝くんが作ったものらしいですわよ」
「何ですって!!」
花梨が歯軋りをした。
享達を擁護したのは、毎年、花梨と同じ様に姫候補に上がる、文学部三年 白河美玲。
実際は美玲が才色兼備でダントツ一位のはずだが、何故か大槻花梨が姫に選ばれる。
これは社会の縮図。
大槻花梨が現学長の娘であることが起因していた。
ただこれは校内だけのことで、外部に出れば立場は逆転する。
白河美玲は生粋のお嬢様。白河財閥の娘。
この大学という小さな社会では、甘んじての二年連続の次点姫だった。
今、花梨の嫌がらせなどを考慮して本心から享と灯の事を応援したいと美玲は考え始めていた。
「謹んで、勝手ながら援護させて頂きますわ。横溝くん」
勝手に美玲が呟いていたのを二人は知らない。
「ご馳走様でした!いやいやフルーツまであるとは、さすが王子はやることが違いますな」
「お褒めに預かり恐悦至極に存じます」
享が胸と背中側に手をやり、執事の様に挨拶をする。
灯はその仕草にすら
『なんかやっぱりTallってば、カッコいいんだから……』と、胸が熱くなる。
そしてお弁当箱を片付けようとする享に灯が声を掛ける。
「あ、それ私が洗ってくるよ」
「え?何で?」
「作って貰って後片付けまでして貰うなんて申し訳ないもん。そのくらいはさせて欲しい」
お弁当箱は灯が預かり綺麗にして、次回会うときに享に返すことになった。
「そう言えば、あの目立つ"しるし"のことなんだけど、探しておいた」
「あかりん、探してくれたの?」
「そういう事は女子の方が早耳だから、いろんな子に聞いてみた」
「前向きだね、意外……でも嬉しい」
享が本当に嬉しそうに笑うと、灯はまた身体が熱くなる。
「ほら、早い方がいいってTallも言ってたから。その今度の土曜日にまずは見に行こうよ。でもまあ、土曜日の学校帰りじゃなくてもいんだけど……」
「土曜日だけじゃなくて日曜日にもデートしたいってこと?」
「いやいや、土曜日じゃなくて日曜日にって意味で」
「とにかくデートは決定って事だね」
「とりあえず土曜日にする?お弁当箱、その時持って来てもいい?」
「ん、それは、あかりんを寮まで送るから、その時に受け取ってから帰るよ」
「じゃ待ち合わせはどこにする?」
「ここで、二限が終わったら」
「分かった!」
「まだ時間あるけど……もう、行っちゃう?」
享が寂しそうな顔をする。
「昨日、あかりんがくれたクッキーも持って来た。もうミルクティーは飲み終わちゃったかな?」
そう尋ねられて灯は何だか急に思い出した事を話したくなった。
「さっきミルクティー飲んで思い出したんだけど」




