第十二話 I'll be late for dinner! (夕飯に遅れちゃう!)
本日の投稿は誠に勝手ながら"早起きは三文の徳"
日曜の朝って気持ちがいいねー!!と言いたいので
(曇ってますが……笑)
今から投稿しちゃいます♪
「うわっ、こんなに可愛くなるとは!」
洸平が唸る。
灯も鏡に映る自分に驚いていた。
肩までかからないほどの長さの髪の毛先だけレイヤーカットを施し、今まで上げていた前髪を眉毛にかかるくらい作って貰った。
「灯ちゃんはどうやら長く伸ばしてたから重みで直毛と思ってたと思うけど、少しいい感じのクセがあるね」
「え?でも子供の頃、おかっぱの頃は真っ直ぐだったんですけど」
「大人になって毛質って変わることもあるんだよ。これからはドライヤーの後、手ぐしでもいい感じになるかも。で、お父さんが買ってくれてる椿油をほんの少しだけ毛先につけると、綺麗なはね髪になると思うよ」
洸平はシャンプーなしでカットし、ブローした灯の髪の毛先だけセットスプレーを遠くから噴射した。
その後洸平はケープを外しながら小声で灯に言った。
「後ろの……見えない様にと思って少し長めに髪を残したからね」
かつて父親に叩かれ飛ばされた時の傷は少しハゲになって残っていた。
灯はこくっとお辞儀をした。
「有難うございましたー!じゃ、また」
灯と享が店から出る頃には、女性客がまだ多く洸平は慌てて仕事に戻って行った。
「さてと、じゃ、寮まで送るよ」
「いいよ!まだ明るいし子供じゃないんだから。しかもTallはここが地元ってことでしょ?」
「ダメだよ。美容院に時間取られて、恋人っぽくする作戦すら話し合ってないし!とにかく電車で話そう」
嫌がる灯の腕を掴むと享は駅に向かった。
灯はがわーわー言ったところで、結局は享に送られることに。代官山から電車に乗ると意外にも席が空いていて二人は座ることができた。
ただ電車が揺れる度、触れる享の肩を意識してしまう灯。
そんな状況の中、最初の全く意識のない一言は享から始まった。
「鈍行しか停まらなくてごめん。夕飯って何時から?」
「六時から六時半までは大丈夫。多分間に合う」
「そっか、間に合いそうなら良かった。そう言えば予定が出来て夕飯食べない時はどうするの?」
「朝と夜の、いる、いらないの表があって、元々いらない時にだけバツをしておく、急にって言うときには四時までに連絡すれば、とりあえず食事代は発生しないんだ」
「食事代は寮費に含まれてないんだ」
「ほら、あの大学、裕福な家庭の人多いでしょ?
寮には地方出身の女子が多いんだけど、食事くらい美味しいものを食べたいって人も結構いたりして、あとはダイエットとかね。だから別途になったらしい」
「そうか……あのさ、じゃ、昼ご飯とかどうする?一緒に食べる?」
「あ、恋人作戦か……あー、いや、それは、いきなりハードル高いよね?」
「え?そう?」
「だって学食だって、カフェだって、何だかんだ学年ごとに仕切りがあったりするよね?」
『言われてみれば……確かに』
「じゃ、外に行く?」
「校外で恋人ごっこしても役に立たないでしょ?」
「まあ、そうだけど……会えなかった時間をさ、埋めたいかなぁって」
「本当の恋人じゃあるまいし」
『せっかくTallが言ってくれてんのに、バカだな私。時間を取り戻せるかもしれないのに……』
「じゃあさ、週一デートはどう?」
「え?週一?」
「今日みたいな」
「……」
「近況報告会でいいから」
「そっか、そうだよね。そう言うのは必要だよね」
「さっき、あかりんが言ってたみたいに、お互いを知らないと!だよね?」
『余計な事言った気がして来た。享の学年はさっきの話じゃないけど、論文清書し始める忙しい時期なのに……』
「ねえ」
「え?」
「また人の心配したでしょ?」
「え?えーと」
「信用ないんだな。僕はあかりんに心配されるほど自己管理が出来ないヤツじゃないよ」
電車が揺れて、不意に享の顔が灯の顔に近づく。
海の色の瞳が揺らいでる。
「で、で、でももう卒論のたたき台を作る時期ではあるよね?」
「まあ、そうだね。でももうそれも中間報告は終わって高評価を貰ってるから、書き下ろせばいいだけだと思う」
「え?もう?それって普通これからじゃないの?」
享は鼻で笑いながら
「あかりん、この僕のこと誰だと思ってんの?」
「え?横溝享?」
「そうじゃなくて」
今度は灯が笑うと聞き返す。
「じゃ、誰?」
「僕はね、もう米国で一個大学を飛び級で卒業してるんだよ。十八歳でね」
こんなところで驚きの告白だ。
「え?じゃ、何でわざわざ日本の大学に?」
「だから何回も言ってるけど、あかりんに会う為」
「ふざけるのもいい加減にして」
「ふざけてなんかないよ」
「じゃ、ここの大学卒業したら、どうするの?」
「……現時点では、目標は達成しちゃったからね」
『私もTallには会いたかったよ。だけど……どうせ、また帰っちゃうんでしょ。だったら、そんなに振り回さないでよ』
灯が、この時、この心の中の叫びを享に伝えていたなら、二人の関係はもっとすっきりとした形に収まったのかもしれない。
「あ、ここで交換しよ!」
「あ、万年筆」
享からの声掛けで、お互いにDバッグから出して紙袋を交換する。
「こんな事書いてくれたんだ」
享があの時、灯が何か書いていた文字を確かめた。
"会えて良かった! 灯"
その言葉に享はつい嬉しくなって灯に言う。
「やっぱりさ、この際、本当に付き合わない?」
「何言ってるんだか!私は今は本当に誰とも付き合うつもりはないから」
「うん。分かったよ」
享は寂し気に笑った。
自分から提案した偽装恋人の条件の中には"灯が他の誰かを好きになったら別れる"と言う約束もあった。
ちょっと寂しくはあったが享は、そう灯に言われたことで、むしろホッといる自分には気づいていた。
が、灯が享を繋ぎ止めて置く為に発した言葉とは、その時は享も灯自身も気づいていなかった。




