第十一話 Reuniting once again(再びの再会)
「いらっしゃいませ〜!」
こじんまりとした店内。
木枠のついた楕円の大きな鏡の前の客椅子は五席。
今の時間はちょうど隙間時間なのか客は誰もおらず、ほかの店員は休憩中なのか男性の店員が一人だけだった。
「おう!享!」
「洸平!」
享と店員はハイタッチをした。
後から店内に入った灯は享の背中越しに店員の顔を見て思いつく。
『あれ?あの人、随分オシャレな感じだけど……もしかして』
「チビさん?」
「わぁ、灯ちゃん!大きくなったね!久しぶり!
って、まだチビって言うか?」
笑いながら声掛けしてくれたのは、あのクリスマスの夜に享と連絡が着いたらと約束してくれた"チビ"だった。
「やっと会えたんだね!良かった。色々、享からは聞かされてたけど……桐谷洸平です。ここで働いてます。ヨロシクね」
差し出された右手に灯は思わず両手で握手しながら
「こちらこそ、あの時は有難うございました。心細かったので、桐谷さんのお言葉には本当に助けて頂いて……」
その時、享が二人の手を引き離す様に灯の両腕を後ろから掴んで後ずさりさせた。
「あかりん、ご飯の時間あるんでしょ?」
「あぁ、そうだった!早速ですが、カットお願いしてもいいですか?」
「もちろん!では真ん中のお席にどうぞ」
灯を先に誘導した洸平は享に笑いながら耳打ちした。
「ヤキモチ妬きは嫌われんぞ。せっかく手に入れたチャンスを逃すなよ」
「うるせー」
享は耳たぶまで赤くして言い返した。
「さて、どのくらい切るの?って、随分伸ばしたねぇ、もしかしてあのクリスマスあたりから切ってない?」
洸平はまずはケープを灯の首にかけて、その髪にブラッシングしながら聞く。
「えっと」
灯は、後ろの待ち合いスペースにいる享の方を思わず鏡越しに見ると、彼と目が合う。
すると享が洸平に話した。
「あかりんはね。僕との約束を守っててくれたんだよ」
「あぁ、それ本当だったんか?まあ、俺も享に言われてたからロングの子が来るたびに、灯ちゃんかどうか確かめちゃったりしてたけどね!」
「え?そうなんですか?」
「うん。でも灯ちゃんほど綺麗な子はいなかった」
灯は顔を赤くしながら言う。
「桐谷さん、冗談はやめて下さい」
「いやいや、子供の頃は可愛い子だったけど、今は美人さんだ。この美容院に来る中でもダントツだな。髪も綺麗に伸ばしたねぇ、ちゃんと手入れが出来てる」
鏡越しに洸平は享の殺気を感じるも、灯は気づかずそれに答え始めた。
「お義父さんが、椿油をわざわざ大島から取り寄せてくれて」
「そ、そ、そうなんだ。いいお父さんだね。さあ、じゃ本当に急いだ方が良さそうだから、どのくらい切るか考えようか?」
「あの、髪の毛って売れますか?」
「買取はしてるけど」
「今日のカット代、それで賄えますか?」
「え?ちょっと待って享が出すって聞いてたけど」
「それは初耳です!Tallそんなこと、いつの間に勝手に決めてんの?」
享は椅子に腰掛けたまま、しれっと言う。
「あかりんが、"ちょっと"って言ってハンズでいなくなった時、公衆電話あったから」
「あれれ、どうしようっか?」
「桐谷さん、髪の毛売ります!それをカット代にして下さい」
「分かったけど、損しちゃうよ。多分髪の毛の方が値段が高いから」
「それは大変失礼ながら、寒い中お付き合い頂いた桐谷さんへのお礼として受け取って下さい。あ、でも大した金額じゃないかもですけど」
「灯ちゃん、礼儀正しいね。有難う。でも、あの時はあの時、仕事は仕事だし、今回の差額分は後からになるけど享に預けておくから後で受け取って」
「でも……」
「それよか、またここにカットに来て」
「あ、はい、分かりました。有難うございます」
「これは余談だけど、享があそこに座ってるだけで女の子のお客さんが入って来てくれるから、店は儲かってるし、本当は君のお代を貰わなくてもいいくらいだよ」
「え?まさか」
灯が驚く先から、鏡越しに享の方を見ると女性客が待ち合いに増えているのに気づく。
いつの間にか他の店員も店に戻って来て、対応を始めていた。
「じゃ、まずは肩のあたりで一度切って様子を見てみようか?」
「はい、宜しくお願いします」
だが、洸平はすぐには鋏を入れなかった。
「おい、享。これはお前との約束で灯ちゃんが伸ばしてたんだろ?」
「あぁ、うん」
「物凄く大変な事なんだぜ、ここまでするのって」
「そうだよな」
「最後にナデナデしてあげたら?」
洸平はニンマリしながら享に言った。
灯はそれを聞き慌てて出す。
「いやいやいやいや、そんな大変じゃなかったんで、しかも私が勝手に伸ばしてただけだし……」
しかし、もうその時には享は灯の横に立っていた。
待ち合いにいる女性客の羨望の眼差しまで感じる灯。
「有難う、あかりん。約束を守ってくれて」
享の大きな手が優しく灯の髪をなでた。




