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Just like starting over 〜アメリカ帰りの幼馴染に振り回されちゃってます!!〜  作者: 優月菜


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第百十七話 A Night That Felt Like Forever.(長い夜)


「二年待って、それも過ぎて半年」


最期の箱を引っ越し業者に手渡すと、灯は一言呟いた。


ちょうどマンションの部屋の更新に伴って、享との契約が切れることも分かり、灯自身の身の丈に合った女性専用ワンルームマンションに引っ越すことになり、荷物の運び出しの日だった。


福ちゃんを始め、四年間仲良しでいた、美春、喜子、美智子も手伝いに来てくれていた。


そんなに荷物らしい荷物もないが、引越し業者が来た時に一人ではここ細いのでは?との気遣いだった。


大学を卒業した灯は、司法試験には落ちたものの、とある弁護士事務所のパラリーガル※1として四月から勤務することになっていた。


司法試験は受かるまで受け続けてやる!とは思っていた。

というのも、この住所を知っているはずの享からはこの二年半と言うもの一切連絡がなかったからだ。


学長である龍馬から、「こんな連絡が達志からあったよぉ」とその度に学長室に呼び出され、宮守先輩って成績優秀者とは聞いてるし、小柄なのに通学はバイクで颯爽と現れるし、毎年プリンセス候補だったみたいだけど何者?と後輩達からは噂されるほどだった。


結局、日本の大学の法律学科を卒業した享はLaw schoolもLL. M.※2 とJD※3 を内部編入制度を使って一年目のLL.M.単位をJDへ持ち越し、夏期講座をフル活用して通常三年のJDを二年半で駆け抜けるウルトラCルートで履修し昨年十二月に卒業を果たすと、年が明けた二月の司法試験に合格もし、とある企業に就職したとは聞かされた。

が、休みがほとんど取れず、日本に来られない状況らしいことは分かった。

でも、それ以外全く不明。

どんな企業かも分からない。


『結局二年で迎えにくる気なんてなかったんじゃん!しかも弁護士になったんじゃないんかいっ!』

灯は龍馬に喰ってかかりそうな自分を、その時は抑えるのが、やっとだった。


しかしながら卒業、この後、灯は享の真意を知る。


灯は犯罪学を学んだ際、その才を山神教授に気に入られ女子学生始まって以来のチーム鑑識(CSI)の特別会員にもなった。


まあ、それももう卒業したら終わり。

今となっては、自分自身の事件が一番の解きがいがあった事件だったのだろうと穏やかな日常の中では思えた。


「今日は有難う!お茶でも行こっか?私の奢りで」

灯は来てくれた友人達に感謝の念でお茶に誘った。


「いいねぇ、でもさ。私達、明日用事があるから」

「え?皆んな?何それ?私は誘って貰えない訳?」

「あれ?聞いてない?」

「何を?」


玄関ドアの方から声がした。


「あーかりん、お迎えにきたよ」

「……!!」


三揃の背広(スーツ)に身を包んだ享が玄関に立っている。


「何?夢?」

「灯ちゃん、私達はこれで帰るから、あとはお二人でごゆっくり」


廊下を福ちゃんに押されながら灯は玄関に進むと、他四人の女子はそれぞれ、享に挨拶して玄関から出て行く。


美春がまずは代表だったのか、享に話しかけた。

「昨日、李人から連絡貰って、ほぼ全員に周知はしたんで多分出席人数すごい事になりますけど覚悟しておいて下さいね!明日、楽しみにしてます!」


「いやいや、本当に急な事だったのに快く灯の方の連絡係を引き受けてくれて有難う。お待ちしてるよ。宜しくお願いします」


それぞれが分かっている様な顔をして享と挨拶を交わして玄関を出て行く中、最後に福ちゃんだけはちょっと違った。


「横溝先輩と灯ちゃんには本当に私なんて言ったらいいか……灯ちゃんは私のせいじゃないよって言ってくれるんですが、横溝先輩は違いますよね?灯ちゃんのこと傷つけて、すみませんでした」


「福山さんはあの人に催眠をかけられだけ。自分の意志じゃなく手駒にされただけなんだから君のせいじゃないよ。僕も灯と同じ意見だから、気にしないで。明日、来てくれるよね?」


「有難うございます!もちろんです!……じゃ、また明日」


福ちゃんが最後に玄関を出ると享はドアを閉めて鍵を掛けた。


「何しに来たの!今頃。しかも何、鍵閉めてんの?もう出るんだけど」


「お迎えに来たんだよ」

「二年って言ったのに半年遅い!」

「半年前に来てたら、灯、大学中退になるけど良かったの?だから逆に受講増やしたんだけど」


「え?」

「そんなに僕に会いたかった?」


「大学卒業を待った?」

「そうだよ。仕方なく、こっちも待ったんだけど」

「それにしても連絡一つよこさずに、渡辺くんとは連絡取った訳?」


「それは……一昨日の夜、日本に戻って来てて、昨日は一日やることがあったから……」

「やることって?」

「明日、結婚式挙げる」

「誰か友達?」


「いや、僕達だよ」

「え?何それ、聞いてないけど」

「だから今、話してるじゃない」

「ちょっと、いきなりおかしくない?」


「いや、迎えに来たんだから……二年半の間に、英会話やらアメリカ郷土料理の勉強してくれたって聞いたけど、それを無駄にするの?」


「……それは……」

「じゃ、大丈夫だよね?って言うか、荷物はもう行き先変えちゃって業者さんにお願いしちゃったから、もし嫌なら急がないと船便に載っちゃうけど」

「……!?……本当、Tallには振り回されっぱなし……でも」


「でも?」

「……待ってたよ!」


何もないリビングダイニング。

二人の過ごした約一年を見守ってくれた場所で、灯は享に抱きついた。


「ちょっと待って灯」

「ん?」

「これから重要な話をする」

「うん」


享が灯の左手を手に取ったまま、片膝をついてしゃがんだ。


そして胸に右手を当てると

「宮守灯さん、僕と結婚して下さい」

そう言って、背広(スーツ)のポケットから、上品で深いメゾングリーンのケースを出すと開いて中身を灯に見せた。


「これって」

「婚約指輪」

「明日、結婚式なのに?」

「物事、順番が大事。それで、お返事は?」

「あ、えっと、謹んでお受け致します」

「やった!」


享は飛び上がりながら立ち上がると、灯の左手の薬指にその指輪をはめる。


「ハートのダイヤモンド?」

「そう」

「大っきいね」

「左右の小さいピンクダイヤ二個は過去と現在」

「真ん中は?」

「これからの僕達の未来」

「ふふ」

「おかしい?」

「Tallっぽいなぁって」

「どこの店の?とかには相変わらず興味ないの?」

「え?」


ケースにはVan Cleef & Arpels※4の文字。

『灯にはやっぱり関係ないのか……』


「何、笑ってんの?」

「いや、別に」


灯が自分の指のキラキラ輝く婚約指輪《エンゲージメントリング》に気を取られている間に、ふと気づくと、享がネクタイまで外してワイシャツ姿になっていた。


「背広もベストまで、どうして脱いでんの?ここじゃ座るとこもないし、どこか移動しようよ」

「いや、あるでしょ?寛げる場所」

「え?」


享の目はドアが開け放たれたベッドルームを見ていた。


「あ、そうそう。次の引越し先にはベッドだけは大き過ぎて入らないから置いて行くしかなくて、大家さんからアメリカに連絡取って貰う事になってたんだけど……どうする?」


「きゃっ!!」


急に抱き上げられた灯は驚いて声を上げる。

そしてカバーがかかっているベッドに優しく横たわされた。


「灯、もう我慢も限界!明日、神様の前で愛は誓う!!だからFlyingしてもいいよね?」


灯の視線が宙を舞う。


「でも私……今日の作業で埃っぽいし、汗もかいたから……」

「灯の匂い……ずっと抱きしめたかった。全部好きだ」


熱に浮かされた様な潤んだ海の色(マリンブルー)の瞳が、灯を見つめていた。


灯が頷くか否や、熱い口づけが落ちて来た。




いつの間にか寝てしまったのか?

外は夕焼けに包まれている。


「……」

灯が目を覚ますと目の前に、夢にまで何度も見た海の色(マリンブルー)の瞳が、嬉しそうに見つめている。


「身体、大丈夫?……痛いとこない?」

「え?……んん……」

「どこか痛い?」

「……聞かないで……」


優しく灯の髪を撫でながら享が呟く。


「髪伸びたね」

「ん、Tallがお迎えに来てくれるまで、また伸ばそうと思って……」

「そうなの?」


嬉しそうに聞き直す享。

その後、灯が続けた。


「でも、前回の教訓もあって定期的に綺麗に伸ばす為のカットはして貰ってたの」

「え?……」

「あの、洸平さんに」


享の表情が変わる。


「Tall?」

「この髪に、別の男が触れてたのか……」

「え?だって洸平さんだよ?美容師さんだよ。お世話になったし……Tallだって床屋さん行くでしょ?」

「床屋(バーバー)は、大抵、男しかいない」


『何だ?このヤキモチ妬き』灯は正直、享のスイッチが何なのかが分かりかねていた。


「あのさ、僕がどれだけ我慢してたのか、本当に分かってんの?」

「それは……分かってます……けど」


灯が少し伏目がちに恥ずかしそうに答えると享は、


「灯の全部が欲しくて……ずっと、この時を待ってた……今は起きるの待ってた。もう一度いい?」


『もう、無理だってば……』と思いながらも言葉に出来ない灯に享は、彼女の唇を下から掬い上げる様な口づけをする。 


「ん……」


灯は自分でも分からない感情が渦巻いて、漏れる声が恥ずかしい。


目を開けたまま口づけを重ねる二人。


灯は享の海の色(マリンブルー)の瞳の中にゆっくりと沈むかの様に、静かに瞼を閉じた。

そしてそのまま濃厚な口づけを何度も交わす二人。


二人の長い夜は始まったばかりだった。




※1 パラリーガル

弁護士の指導・監督のもとで、法律業務の専門的なサポートを行う「法律事務の専門職(弁護士助手)」のこと。

※2 LL. M.(法学修士)

主に外国で法学士を取得した外国人弁護士や法学徒

期間: 1年間

外国法家がアメリカ法を学ぶための短期修士プログラム。

※3 JD(法務博士)

主にアメリカ本国の大学学部卒業生(法学部以外も含む)期間: 3年間

アメリカで弁護士になるための本科学位(基礎教育)。

※4 Van Cleef & Arpels

1906年にパリのヴァンドーム広場で創業したハイジュエリーブランド。


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