第百十二話 Why was I left out of the loop!?(なんで私だけ知らないの!?)
どっひゃー!
明日以降、投稿するつもりだった最終話まで手違いで一斉投稿してしまいました!
もしお先を読まれていらっしゃる方がいらしたら、ごめんなさい!!
第百十三話からは、また明日より毎日投稿致しますので、どうかご勘弁のほど宜しくお願いしますm(_ _)m
そんな夜の後から、灯は何もかも諦めて享との生活を楽しむことしか考えない様にした。
享は大学四年生なのに進路をどうするかを灯が聞けないからだ。
いずれにしても帰国してしまうのだろう。
そう思えば今が楽しい方がいい。
そしてそれから、あっという間に二週間が経ち、灯がほぼ元々の体力を取り戻した頃、夏休み直前の最後の講義が終わって、帰る者や、話し込む人達など講義室から学生達がはけて行く中、トイレから戻った福ちゃんが講義室に飛び込んで来て、灯に告げた。
「横溝先輩、三日後にアメリカに帰っちゃうって本当?」
「え?何?それ」
「え?白河先輩が言ってたよ」
「何で、そんなこと白河先輩が知ってるの?」
「え?灯ちゃんは知らなかったの?……」
その時、火災報知器のベルが鳴り響き、放送が入った。
「これは訓練です。緊急時の訓練です。校内の学生は各自荷物を持って、外広場に学部ごと、学年ごとに集まった上で、学年主任の誘導にて点呼を済ませたら、速やかに下校して下さい。繰り返します……」
放送は灯の耳に入っていない。
一瞬にして青ざめる。
『何で私が知らないの!?』
そして駆け出した。
向かうは四階。
そう言えば講義が終わったのに、何故、享が迎えに来ないのか?
様々な思いが錯綜した。
四階に辿り着いた灯。
一つ一つ講義室を確かめるもどこにも享の姿はない。
ふと気づくと、法学部と本校舎の間には壁があり、一階以外は通り抜けができないはずが、何故か壁がない。
よく見ると今まで壁だと思っていたところが防火壁とドアの様なもので、今それが開け放たれている。
とすると、このままその横の階段も使える!と、灯は次に二階に戻るも、二階は防火扉が閉まっていた。
享は一度、校舎から外に出たが灯が見当たらなかったので中に戻ったのだ。
そして大和からの話を聞いて、とにかく灯に早く会いたかった。
『あの、クソ女、人の情報を漏洩しやがって、国家権力まで使うなんて何てヤツだ』
既に人気のない二階、二年生の講義室。
灯を探して廊下を歩く享。
使っていない講義室はドアが閉められている。
享は移動する度にドアの開けたり閉めたりを繰り返していた。
一つだけドアが開いている講義室があった。
享は立ち止まり中を覗いた。
その瞬間、後ろから強く押されて室内に入る。
振り向く享。
「やっぱり……女の敵は女ってことですか」
享を講義室に押し込んだ女子学生は、ドアを閉めて後ろ手で鍵を閉めた。
「いつ気づいたのかしら?横溝くん」
その女は、白河美玲だった。
「学祭の時。灯が拉致されそうになって、そんなこと大槻さんは考えつきそうにないですから」
「あら、そんな早くに?本当かしら?」
享が美玲を見ながら苦々しい顔をして後退りする。
美玲は少しずつ享ににじり寄る。
講義室の中は、何故か前方の数列の机が窓の方に寄せられており、享はその一つにぶつかると横手から座り込む。
その両手は机のサイドを掴んでいる。
享の目の前で立ち止まる美玲。
「私は、幼い頃から、それはもう蝶よ花よと育てられ、成績も良くて、どこででも何においても一番でしたのよ」
「それでも、この大学では上手く行かなかったんですね?学長の娘さんの大槻さんのせいで」
享の声は怒りなのか恐れなのか震えていた。
美玲は静かに先を話し出す。
「こんな些末な世間の中でしか通用しないのに大槻さんはいつも偉そうでいらして……それでも何故、私が甘んじて、学祭のお姫様の次点を断らなかったのは、どうしてだとお思い?」
「さあ?僕はこんな小さな日常の方が好きなんで」
「まあ、横溝くんらしいお答えですこと。そんなところが素敵ですわ。十八歳でハーバード大を卒業したあと、そのままロースクールに進学されたら、もう、あちらで活躍されているはずでしたのに……わざわざ一般入試で日本の大学に入り直し、幼馴染を探す時間を手に入れて……それは本当は口実。あちらではアジアンと蔑まれていらしたのでは?」
「確かにね。日本人の名を名乗れば、そう言う扱いもなかったとは言えないけど……ただ、実力主義の社会でもあるんで、その証拠に飛び級で大学も卒業しましたし」
「それでも、日本に幼馴染をお探しにいらしたのは寂しかったからでしょう?見た目はアメリカンでも、どうしても越えられない壁がおありで、過去の優しい時間を取り戻したくなって……ですのに彼女は見つからない。そればかりか、こちらでは外国人扱い。ジロジロ見られることばかり……さぞや、お辛かったことでしょう?」
「本人以上に知った気ですか?僕はそんな風に、こちらに来て思ったことはないです」
さらに近づく美玲は、享と目を合わせたまま、彼のタンガリーシャツのボタンに手をかける。
「それはもう最初から、ずっと貴方に釘付けでした……王子様に選ばれても、ご辞退をされた時、この方は花梨さんの後ろ盾にも屈しない方なのだと、私とって唯一無二の方になりましたの」
享のシャツのボタンを一つ一つ外していきながら、美玲は続ける。
「私はこの世間では次点でいい、貴方の一番になれればと」




