第百十一話 Why don't you get it?(どうして分かってくれないの?)
どっひゃー!
明日以降、投稿するつもりだった最終話まで手違いで一斉投稿してしまいました!
もしお先を読まれていらっしゃる方がいらしたら、ごめんなさい!!
第百十三話からは、また明日より毎日投稿致しますので、どうかご勘弁のほど宜しくお願いしますm(_ _)m
校庭を横切り、駐輪場に急ぐ享に灯は
「Tall、警戒し過ぎ」
「え?そんな風に見えた?」
「物凄く、そう見える」
「そんなつもりないけどね……」
そんな時背後から声を掛けられた。
「灯ちゃん」
聞き慣れた声の主は白河美玲だった。
いつものように取り巻きを伴ってのお出ましだ。
「白河先輩!先日は素敵なお花のお見舞い有難うございました」
灯が挨拶をすると美玲は
「いえいえ、こちらこそ。灯ちゃんのパジャマ姿を見させて頂いただけで眼福でしたわ。でもそう言えば、昨日はご退院パーティーがおありでしたとか」
灯は、享と福ちゃんが言っていたことが反対だったのを気になっていたが、その事を享に問いただすようなことはしていなかった。
それでも、『これが違和感だ』とモヤモヤの原因が分かった。
「あ、はい」
美玲は妖艶な笑顔を浮かべ享を見つめながら、
「どうやら横溝くんは、私と灯ちゃんを会わせたくないようですわね。お誘い頂けなくて残念でしたわ」
「お言葉ですが、お忙しいから来られないと仰ったのは白河さんですよ」
「あらあら……では、そう言うことにしておきましょう。それでは、灯ちゃんご機嫌よう」
「失礼します」
灯の方から、チラっと見えた美玲の表情はとても冷たく見えて、背筋が凍る思いがした。
「どうなってるの?」
「気にしなくていいよ。お金持ちのお嬢様は、なんだかんだで実は自分勝手な人が多いから、すぐ他人のせいにしたがるんだよ」
「本当に?」
「本当だよ」
「そう、だったらTallを信じる」
「本当に?」
「もちろん!だって本当のことでしょ?」
「それはそうだけど……」
「だってTallが好きだから、好きな人の言うことを信じる」
『あぁ、何て純粋なんだ灯。駆け引きに使ってごめん』
「僕は嘘はつかない。これからも僕の言う事は絶対に信じて」
「うん!」
「じゃ、帰ろう」
二人は灯の"相棒"で大学を後にした。
灯はこのところ毎日が楽しい。
享は今まで以上に優しい。
ただ、何か分からない脅威に晒されているのは、多分変わっていないとは思う。
日曜日の朝、享が新聞の一面を見て、
「そんな……バカな!」
声を荒げダイニングテーブルをバンッと叩いた。
灯はソファに座って、ウォークマンで音楽を聴きながら休んでいた間の講義の代替えレポートをまとめていたが、それでも分かるほどの音に驚いた。
享の背中が怒りなのか、震えているのが分かった灯は、近寄ると後ろから享に抱きついた。
「どうしたの?大丈夫?」
「……ごめん、驚かしたよね」
「驚いたって言うか……Tallが怒るなんて、あまりないから」
「僕?怒ってた?」
「あれ?違う?」
「怒ってないよ」
灯は享が読んでいたと思われる一面いっぱいの記事が目に入る。
『白河法務大臣の秘書官、自殺?……白河?』
享は何気なく新聞を片付けた。
「散歩でも行く?」
しがみつく灯に声を掛ける享。
「ゆ……」
「ゆ?」
「夢の続きがしたい」
「夢の続き?」
「私が退院した日、Tallは私が次の日の朝まで寝たままだったって言ったけど……違うよね?」
享は何も言わない。
『急に何故こんな事を言い出す?』と頭が混乱していた。
灯は大事にされている事は分かっているが、美玲と享のやり取りの中に、何かしら意味あり気な雰囲気を感じてやるせない気持ちになっていた。
「Tallは……私じゃダメなの?」
「駄目じゃない」
「じゃ、何で恋人らしいことしないの?」
「それは……」
「それは?」
「灯が、約束思い出したらって」
「思い出さないとダメなの?そんなにそれって大事なことなの?」
「僕にとっては」
「享にとっては?」
「とても大事な事なんだ」
「私がそれを思い出したら……」
「……」
「約束を思い出したら、簡単にそう言う事出来るってこと?」
「え?」
「そんな約束の方が私の気持ちより大事って事?」
「そう言う訳じゃない」
ここで享は灯を抱き寄せて自分の前に立たせて、抱き寄せる。
「でも大事な約束なんだ」
「大事な約束」
「これは本当に僕にとっては大事な事なんだ。だから灯を探しに日本に来た」
「約束のために?」
「そうだよ。それを果たしたいが為に」
「約束が思い出せない私じゃダメって事?」
「そう言われると困る……でもどうしても灯じゃないと嫌だから」
「私もTallじゃなきゃ嫌なのに……」
「ずっとずっと一緒にいたいから……の約束だから」
「私だって一緒にいたいけど、約束を思い出さないとダメなの?」
「じゃ、改めて約束する?」
「改めて?」
「そう、上書きする?」
『だめ!それは……出来ない。どんなに好きでもアメリカには行かない、無理だから。私にそんな勇気はないよ』
灯は享の腕から、すり抜けると
「もういい」
そのまま部屋に入って鍵をしめた。
取り残された享。
『どうしてわかってくれないの?』
二人の想いは一緒だった。
灯はベッドで泣いている。
享はその寝室のドアに寄りかかりながら
『どうして思い出せない?上書きもダメならどうしたらいいんだ』
と考えていた。
どうしても日本から離れる事を考えられないが享に、身体を許したいと思う灯と、この後の人生を共にしたいがために身体を重ねる事を我慢している享の考え方の違いが、二人だけの時間を無駄にする。
その後、灯は翌朝まで部屋から出てくる事はなかった。




