第百八話 I'm out of the hospital!(退院した!)
灯が入院して二ヶ月近く、ようやく退院の許可が出た。
医師、看護婦さん達が見送りに出てくれる中、家族と享に付き添われてタクシーで病院を後にした。
実家では退院のお祝いに、様々な人達が集めて、またガーデンパーティーを享と家族が企画してくれたらしく、もう用意が整っていた。
「本当に灯ちゃんのが実家って神社だったんだね」
福ちゃん達や女子寮で一緒に生活した寮生、中高時代の友人達も享が気を利かせて呼んでおり、口々に驚きと感嘆の声をあげている。
灯は本当に自分のことをあまり話していない系女子なのだ。
汐恩も幸子も呼ばれており、その汐恩にも女子達は
「ちょっと、あんな素敵なお兄様がいらっしゃるなんて初めて聞いたし、しかも医大生って」
「お隣にいらっしゃるのは、ご婚約者さんで大きな総合病院のお嬢様だとか……」
「もしや、いずれその病院の後継者?」
「灯ちゃんっていったい、どんな人脈持ってんだかねー」
ヒソヒソ話に花が咲いていた。
と言った灯のお見舞いに来てくれた人達は、もちろんのこと、緊急事態の際に動いてくれた人々を招いてのガーデンパーティーには、もちろん大和や優に李人や、その他の二年生、近藤と三年生数人も来ていた。
実は、誰もこのグループがチーム鑑識だと言うことは知らない。
ちなみに学長代行は皆んなが気を遣うことになるので享は呼ばなかった。
"おい!なんでやねん!"と、後にその事を知った龍馬に享はつっこまれることになる。
他、ご近所さんが灯の心配をしてくれて、家族が出かける時にお留守番をかって出てくれた方々、お見舞いまではいけないものの、灯ちゃんにと果物やお菓子を持って来てくれた氏子のおじいちゃん、おばあちゃん方、琢磨の幼稚園仲間も送り迎えを手伝ってくれたグループのご家族も招いていた。
崇が挨拶をする。
「この度は娘の灯が色々と本当にご心配をおかけしましたが、無事退院を迎えることが出来ましたことのご報告を兼ねまして、お世話になった皆様方に、ささやかではございますが、心ばかり食事のご用意をさせて頂きました。どうか心ゆくまでごゆっくりして行って下さい!」
拍手が起きた。
が、その時、崇は両手まあまあという仕草をしたかと思うと
「まあ、その実際、実際の功労者は横溝くんなんで、横溝くんに拍手をお願いします!」
と種明かしして笑った。
それにつられて拍手しながら皆んな笑った。
享は恐縮しながらお辞儀した。
灯はテーブルの王様席に座り、代わる代わる挨拶に来てくれるグループと交流を終え、ひと段落着くと、季節が動き始めて少し暑くなって来た青空の下、木々の風による騒めきと木漏れ日を感じる日影の中から皆の様子を見ていた。
何だか皆んな、それぞれ楽しそうだ。
享は大学の先輩後輩だけではなく、灯りの友人達に気配りしていた。
そんな様子を見ていると他人事の様にも感じる。
崇がカラオケセットをわざわざ持ち出して、お酒が入って皆少し調子が上がって来たところで我と言うものは!と誘い始めた。
通りかかった氏子さんの飛び入りなどもあり、誰が主役か分からなくなって来た頃、灯はそっと席を外すと実家の中に入った。
『ちょっと疲れちゃった……』
「灯?」
「ん?あれ、Tall」
『今さっきまで遠い席にいたのに……』
「どうした?」
「何でもないよ、皆んなと楽しんでて」
「疲れたよね?」
「……ちょっとね」
「このまま帰っちゃう?」
「え?」
享は笑いながら灯の手を引くと、脱いだばかりの二人の靴を持ってお勝手口に置くと、履くように急かす。
「行こう」
「私、Tallにお世話になっていいの?」
「何言ってんの?これからも一緒にいるのは当たり前でしょ?」
「て言うか、これ私の為の集まりだよね?挨拶もなしで先に帰っていいの?」
「実は、もう友人関係には事前に声はかけておいたんだ。多分、ご近所さんの宴会になるはずだからカラオケ始まったら適当に帰ってねって」
享がウインクする。
灯は『どこまで手回しがいいんだか……』感心してしまう。
でも何だかスッキリしないのは何故だろう。
裏通りに享の愛車が止まっている。
元々、こっちから帰る気だったことも分かって本当に驚いた。
代官山の享の部屋に戻った二人。
『何だかだるい』と思いながら靴を脱ぐ灯の身体が急に浮かんだ。
享が抱き上げたのだ。
灯は突然の事に声も出なかった。
開け放たれたリビングのドアの中まで入るとソファに灯を座らせる享。
「ごめん、こんなに体力が落ちてると思わなかった」
「え?」
「横になって休むといい」
「あ、うん」
灯は、『そうか……私、体力ないんだ……そう言えば眠いかも……』と、享に言われた通り、そのまま横になると、すぐ寝落ちした。
『お味噌汁?』何だか出汁のいい香りがする。
目は開いたが、起き上がれない。
腕の骨折は、二週間、目が覚めず寧ろ動かさなかったことが功を奏したのか直りが早く、退院前にギプスも外れて、一緒にリハビリも出来た。
だが、やはり今までの様には、まだ行かない事が今日分かった。
『明日から大学に行かれるのかな?』
もう暦は七月夏休みまで二週間ほどだ。
出来たら、もう休みたくはない。
病院で享に実際の講義の内容の補講はして貰っていた。九月の後期試験対策もバッチリなはず。
それでもいくら事情があったにせよ、三分の一近い欠席は進級に響く可能性が出て来る。
急に不安が押し寄せて来て、灯はいつの間にか涙が溢れて嗚咽を抑えられず泣き始めてしまっていた。
気づくと享が背中を優しくトントンしてくれている。
「大丈夫、一晩寝れば、また気分も変わるよ」
「Tall……」
「お腹空いたでしょ?ご飯にしよう。ほら、僕の首に腕を回して」
病院で起き上がりが上手く行かない時、いつもやって貰っていた事なのに、今は少し恥ずかしい。
灯が躊躇してると享がおでこをつけて来た。
『ひ!』灯は声にならない声をあげる。
そんな事に気づかない享は
「熱はないみたいだけど……」
入院中、享も考慮してか灯にあまり触れようとしなかったこともあり、灯りの方は当たり前だったはずの二人きりの状況に胸がバクバクして享を意識し始めた頃の様に戻った様な気持ちになった。
灯が顔を真っ赤にしているのに、ようやく気づいた享。
「……あ」
お互い見つめ合ったまま固まってしまった。
そろそろ最終話に目掛けてのカウントダウン!!
色々なことがあった幼馴染の灯と享は、果たして無事結ばれるのでしょうか?!
乞うご期待╰(*´︶`*)╯




