第百四話 Unepdcted turn of events.(突然の出来事)
『いったい何があっだんだ?』
詳しくは会った時にと龍馬に言われた。
愛車を走らせる享。
どうやら灯は、階段落ちからの脳震盪と右腕の尺骨骨折で川崎市にある県南労災病院に救急搬送されたらしい。
総合受付で尋ねると入院になったらしく、外科入院病棟を案内された。
病棟の窓口では、階段落ちによる脳震盪・頭部打撲や骨折など、状態の観察が慎重に必要な場合や静養が求められるケースにつき、脳神経外科の医師の判断で個室を用意されたとも聞かされた。
『階段から落ちた?灯が?』
脳外科病棟の個室。
静かに享はドアを小さくノックして、ドアを開けて中に入る。
灯はベッドにちんまり収まって、処置用ラインの確保と、脳浮腫の抑制の為の点滴をされ、更に生命維持状態の常時監視の為、胸に電極パットを貼り、ベッド脇のモニターで心拍数や心電図を監視。頭部外傷によって脳幹や自律神経に影響が出ると心脈不整や血圧変動が起きやすいため、必須の管理体制を取られている。
また脳の活動状態や損傷範囲の状態把握のための検査の為、定期的に脳波検査も受けていた。
その場にいたのは、龍馬と大和と優。
「横溝先輩、すみません。俺達が張り付いていながら……こんな事に」
「いやいや、付いていてくれたから迅速な対応ができたんでしょ?有難うな、大和、優」
二人は急に堰を来たかのように泣き始めてしまう。
「おいおい病室だぞ。それより君達、お昼食べたの?」
「あ、そう言えば……」
「今日はさ、もう僕がいるから君達は帰りに美味しいもんでも食べて」
享が大和の胸ポケットに何かを押し込んだ。
慌てて大和は、それを出す。
「こんな事、困ります!な、優?」
「はい、俺達、何の役にも立ってないのに……」
悔し泣きなのか、また二人は泣き始めてしまった。
「ほらほら灯が目を覚まして泣いてる男二人を見て、どう思う?僕がいじめたのかと思われちゃうからさ。とにかく今日は有難う」
大和と優が固辞するのを、イヤイヤと言いながら病室の外まで送り出す享。
「本当、灯の荷物まで運んでくれて有難う。講義も休ませてごめんね」
「いえ、こちらこそ、すみません」
「宮守さんが目が覚めたらお大事にとお伝え下さい」
「うん、分かった!気をつけて帰ってね」
廊下を振り返り振り返り歩いて行く二人の背中が角を曲がって見えなくなるまで見送ると、享は静かに病室に戻った。
「享」
「いったい何が起きたんです?」
「まあ、一旦、落ち着いて、こっちに座れ」
灯の様子は落ち着いているようだ。
龍馬はパイプ椅子から腰を上げると、ベッドから少し離れた小さなリビングセットのソファに一緒に座るように言った。
「灯が誤って階段から落ちたんですか?」
享が状況確認をした。
「そうは本人は言ってたけど」
「え?」
「誰かに突き飛ばされたと思う」
「どう言うことですか?」
「時系列で話すと……」
二年生の講義室。
今日は享が講義のない日でも、大学には何かしら用事を作って来てはいるが、二年生の階にいる訳には行かない。
このところ何もそれらしい事は起こらずにいるも、慢心せずに大和と優は、大袈裟なことではなく灯が一人きりにならない程度の周辺警護を任されていた。
トイレには誰かしら女子の友人と行く様になった灯だが、その時にすら遠目に講義室の後方ドアから出入りチェックを他のチーム鑑識と手分けしていた。
それなのに、本当に享がいない今日という日を狙ったのかの様に、トイレから講義室の前ドアまでのほんの数メートルの間に、灯はかき消す様にいなくなってしまったのだ。
慌てる大和と優。
直後、階上から、いきなり物音が響いた。
その物音に向かって、各階ごとに数名が走り出したのは言うまでもない。その中には李人もいた。
ただし四年生は講義のなかったので四階には誰もいなかったが……。
二階から階段を駆け上がる大和と優に李人他数名。
三階と四階を繋ぐ階段下に灯は倒れていた。
四階から龍馬が駆けつけ、三階の廊下のあちこちこらも数名走り寄る、筆頭は近藤だった。
一番にその場にたどり着いた近藤が、慌てて灯に声掛けをする。
「宮守さん!宮守さん!大丈夫?」
「ん…… 落ち……ちゃいました……」
「何?どうしたの?」
「……受け身したよって……Tallに……」
「宮守さん?!」
他の三年生達は遠巻きに見ている。
龍馬がそれを見て声を上げた。
「講義室に戻りなさい!!」
近藤が龍馬に話しかける。
「宮守さん、意識が戻りません」
「分かった、僕は救急車を呼ぶ!近藤くんは宮守さんの側から離れないで声掛けを続けて。他の人達は念の為、不審者がいないか各階を見回ってくれ!」
周りに駆けつけていた十数人ほどのチーム鑑識の学生に言った。
「わざわざ灯ちゃんが、薄れていく意識の中どうしても"落ちた"と言いたかったとした思えないが、階段は一つ、それぞれの階は探索済み。だが、誰も見つからなかった」
「押されたはずなのに誰もいなかった……」
享は何かに気づいた様に慌てて廊下に飛び出した。
大和と優は意気消沈のまま、病院の待合室の長椅子に腰掛けていた。
「どうする?飯食って帰る?」
「何か食欲わかねぇよな……宮守さん、大丈夫かな」
二人を見つけた享。
「良かった!」
「横溝先輩?」
「まだいてくれて助かった」
「どうしたんですか?」
「あ、今、学長代行から経緯を聞いたんだけど、確認したいことがあって……」
「なんでしょうか?」
「まず一つ、灯が誰とトイレに行ったのか?」
「えっと福山さんです」
「トイレから出て来て、すぐに講義室に向かったのかな?」
「はい、それで宮守さん達が前方ドアから入るのを見て同時進行的に僕達も後方ドアから講義室に入ったんです。でも、そのはずが席に戻っていなくて」
「福山さんは?」
「あ?えっと戻って来ていました」
「そっか、そうだよね。じゃ、各階を見回ってくれた時、学部長室も確認したかな?」
「「あ!!」」
大和も優も一瞬にして青ざめた。




