第百三話 Back to the daily routine.(いつもの日常に戻って)
「……何だかんだで、この連休は楽しかったかも」
灯は、自主連休明け、学業生活に戻ってみて振り返って、いつもと違う享の色々な面が見られて楽しかった思い出が出来たと思っていた。
特に最後のカラオケは、Dr.スランプアラレちゃんがなくて、宇宙戦艦ヤマトを歌う享が可愛く見えたり、かと思えば、アカペラでビートルズのジョン=レノンのJust like starting overを歌われた時は今の自分達の事を言っている様に聞こえて涙が出そうになったり……享自身の記憶は定かではないらしいが。
酔っていない様に見えて実は相当酔っ払っていたらしい。
夕べ享の部屋に戻った時、玄関でいきなり
「灯さん、今日は巫女さん姿を見せてくれて有難うございました。とても綺麗でした。あなたは本当に心も身体も綺麗な人だと思っています。僕はそんなあなたが大好きです!」
「え?あ、はい、私もTallが大好きです!」
「僕は酔っていて、酒臭いので今日は自分の部屋で寝ます!明日は起きられないかもしれません……送ってあげられなかったらごめんなさい……“相棒"で出かけてください。お迎えには行きます。では、お休みなさい」
「え?あの明日はTallは講義ない日だから、来なくても」
灯の言葉を遮る様に、享はドアを後ろ手で開けると、そのまま頭を下げたまま後さずりして、静かにドアを閉めて、ご丁寧にも中から鍵を閉めた。
中から、また一言。
「灯さんも部屋の鍵は閉めて下さいね」
「何で!?」
「いろいろ念の為です。では、今度こそ本当におやすみなさい」
灯は思うことは、色々あったが、ここは素直に言う事を聞いておく事にする。
「分かった。おやすみ」
『お風呂は入って来たから歯磨きだけして寝ればいいのか……それにしても変なTall。お母さんが言ってた通りなら、私、Tallに約束忘れたって嘘ついて我慢させるって言うイジワルしてる事になる』
洗面所で歯磨きしながら、
『むしろ巫女姿を見させて、もっと我慢させてる?やっぱり一緒にいるのは……無理があるのかも』
部屋に戻ると、享に言われた様に鍵を閉める。
『一緒にいたいと思うのは、このままじゃダメなのかな?私のワガママなのかな?でも、Tallはアメリカに帰る、私は一緒には行かれない……なら、やっぱり……』
灯は享の部屋にいつまでもお世話になるのは、やめようと思った。
一方、享は一人床に座り込んで、ドアに寄りかかったまま途方にくれていた。
千紗子に言われた言葉がグルグル回って仕方がない。
『我慢もほどほどに、灯も本当は待ってる……って、何なんだ?!もしかして、あの"跡"千紗子さんは気づいちゃたのか?灯にも話したのか?どうなってんだ?そもそも日本の女性は結婚する前には、そう言うことしたらダメって言うって言ったの達志だぞ!それを、何で母親である千紗子さんから、お墨付きを貰えるんだ?汐恩さんも訳分からん事仕掛けて来たし……灯自身の心が快復したのかどうかも分からないのに』
「はあ、僕だって灯と……」
と言いながら、頭をわざと寄りかかっていたドアにぶつけた享だった。
翌朝。
灯は一限からなので早起きをするも、享は起きてくる気配もしない。
むしろここは朝ごはんの用意してから出かけようと思った灯はおにぎりとお味噌汁を用意してから大学に出かけた。
灯がドアの鍵を閉めたのを見計らって、部屋から出る享。
リビングに向かい、ダイニングテーブルに置いてあるメモを見た。
"朝ごはん、おにぎりとお味噌汁を作ってあるよ。良かったら食べてね。灯"
胸が熱くなる享。
まだお味噌汁もラップがかけられたおにぎりも温かい。
お味噌汁をお椀に注ぎ、おにぎりの皿とお箸を持ってテーブルに移動すると、早速、お味噌汁から啜る。
「うまっ」
おにぎりも一口。
その一口ごとに、涙が溢れて止まらない享。
何故、涙が出るのか理由は分かっている。
まだ、灯に話していない事。
いつかは話さないとならない現実。
二人でいるのが楽しくて嬉しくて、いつまでも醒めなければいいと思っている夢の中の様な毎日。
話したら、どうなるのか?
話さないと言う選択肢はないが、その後、二人の歩む道はどうなるのか?を考えると二の足を踏んでしまい先延ばしにしている。
『灯は、こんな僕のことを本当はどう思っているの?……シャワーでも浴びて頭を冷やそう』
バスルームの鏡に映る自分の身体を見ながら享は思う。
『灯のお陰で、随分、あちこち筋肉ついたな』
我慢の毎日を、いつも無心で筋トレに励む。
久しぶりの一人にバスタオル一枚でリビングに戻った時、電話が鳴り響いた。
受話器を取った享に思いがけない話が耳に入った。
「え!?灯が救急車で運ばれた!!?」




