第百一話 Whispering girl secrets.(女同士の内緒話)
「ちょっとだけ聞いてもらおうかなぁ」
灯は、少しだけ千紗子に話を聞いてもらいたくなった。
「何かしら?」
「昨日、ベランダで流星を見てるときに、私寝ちゃって、Tallがベッドに運んでくれて……あ……」
「ふふふ」
千紗子に笑われて灯は気づく。
『しまった!一緒に住んでるんじゃないんじゃん、私達』
「昨日だけ?一緒?」
「……はい」
「灯、いいのよ、嘘つかなくて。お互いにずっと会いたかった気持ちを押さえ続けてきたんだから……お母さんは、そんな灯の気持ちを分かっていながら諦めさせた事をずっと悔やんできたの……だから分かってたわ」
「お母さんだけは気づいてるんじゃないかとは思ってたけど……ごめんなさい。でも私達、何もないよ。その……きちんと約束してるから」
「いいのよ、それよりその後何があったの?」
千紗子が笑いながら聞く。
「それ今朝、顔を洗ってるときに、ここに虫に刺された跡を見つけて、享に薬を塗ってもらったんだけど……」
「どれどれ?」
灯は千紗子に首元の"跡"を見せた。
「これ?」
「そう、これのことを、さっき急にTallが自分のせいだって、ごめんって言ってから変になったの。理由も言わずにっていうか、言えないのか、ダンマリのボンヤリ」
「ふふふ」
笑い出す千紗子に灯が聞く。
「何?」
「灯」
千紗子が灯を抱きしめた。
「お母さん、いきなりどうしたの?」
千紗子が耳許で囁いた。
「何年も待って、大人になって再会したんだから今度は待たせすぎると他の人のところに行っちゃうかもよ。男の人って構って貰えないと、愛がなくても構ってくれる人のことを愛してるって思っちゃうところあるから」
「え?……そんなことあるの」
「それに今の時代、ちゃんとすれば愛し合える方法もあるんだからね」
「え!?何言ってんの?この前お兄ちゃんも馬鹿なこと考えてたみたいだけど、お母さんもそんなこと言う?」
「本当、純粋に育って嬉しいけど、でもここは享くんの我慢強さに感動ものだわ」
「Tallの我慢?」
「どれだけ我慢してるか想像もつかないでしょうけど、相当だと思うよ」
「私が我慢させてる?」
「多分ね……でももう大人なんだから相手の気持ちも考えてあげないと。灯が普通と思ってることが彼にとっては誘惑にしか見えないって事もあるかもしれないし」
「こんな子供体型の私が誘惑?」
千紗子は灯を抱きしめる。
「何言ってんの?灯は充分大人!魅力的な女性になったわ!こんなに大きくなる前にもっとこうやってギュッとしておけば良かった」
灯はちょっと照れながら返す。
「私は、まだまだギュッとして貰いたいけど……たっちゃんは男の子だから嫌がるの早いと思う。だから今のうちに、たくさんギュッとしてあげたら?」
「あ、そうね!汐恩も嫌がるの早かったわ〜」
そこに、いつまでも座敷に戻って来ない二人を心配して、午前のお勤めを終えた崇が蛤のお吸い物をお盆に乗せて、台所にやって来た。
「あれ?何ごと?お吸い物冷めちゃったみたいだから、もう一度温めた方がいいと思って持って来たんだけど」
「あ、そうよね!そうしましょ!」
千紗子が崇から、お盆を受け取った。
灯は千紗子から言われた事を反芻しながら考える。
『Tallな私が我慢させてるのかな……じゃ、あの部屋出た方がいいよね』
崇が心配そうに灯の顔を覗き込みながら聞いた。
「灯?大丈夫?」
「ん?あ、お義父さん、お邪魔してます」
「何、言ってんの?享くんも可笑しかったけど、灯んちなのに、何?お邪魔してますって」
崇が笑う。
灯は、崇は本当にいい人だ。この人がお義父さんになってくれたお陰で人生変わった、お母さんは再婚して良かったと思っていた。
それでも灯にはもう一人、最近、会う様になった実父がいる。
この話は、まだ千紗子にも話してはいなかった。
家族が享のお陰で、それぞれ再会を果たし、違う形ではあるも再生したとも言える。
今、これも灯にとっては嬉しい出来事で、享との"約束"を思い出していないと言わせる原因ではあった。
千紗子は蛤のお吸い物を温め返しながら、
「灯、幸せの形は様々だから、"幸せになって欲しいだけ"なんて簡単には言わないけど、とにかく、あなたの願う思いが、私達の願いでもあるからね」
「うん、有難う。分かった」
崇がそこに口を挟む。
「うわー!女子二人で何話してたんだか知らないけどさ!僕は置き去り?」
「崇くんは、男子だから教えてあげない」
千紗子が笑うと灯も口を揃えた様に言った。
「女子同士の内緒の話!!」
「座敷に戻ったら、男子の方が多いからね!先戻るよ。何か絶対、内緒話ししてみせるからね」
崇は慌てて座敷に戻って行った。
「崇くんったら、午後も端午のお節句のご祈祷の予約入ってるのに。子供っぽいわよね」
「でも、そんなお義父さんだから、いいんでしょ?」
「あら、灯も言う様になったじゃない」
「お義父さんは小学生の私にも、あんな感じだったから、良い人だなぁって思ったんだもん」
蛤のお吸い物を改めてお椀に注ぐ千紗子にお盆を差し出す灯。
「そうね、灯が結んでくれた、ご縁だったんだもんね」
千紗子は当時を思い出し灯に言った。
「灯には、崇くんと再会させてくれた事に、物凄く感謝してる」
「えっと、今頃?」
「ごめん、今頃」
二人はお互いを見ながら笑い合った。




