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誤字報告どうもありがとうございます!

晩餐会には、マクシムとともに彼の妹であるロレーヌも姿を見せた。王立学園に在学中の彼女は、夏期休暇で学園都市カルキューレから実家に戻ってきているのだという。


それなら何故マクシムと共に出迎えに現れなかったのかと疑問に思ったが、その答えはロレーヌが自らの態度で明かしてくれた。見た目はガルニエ公爵家に嫁いだ従姉妹オリヴィエによく似ているものの、中身はオリヴィエとは似ても似つかないとルイーズは感じた。


「わたくし、ガルニエ公爵家のローラン様と学園では同じクラスですの。アラン様はローラン様と仲がおよろしいのですわよね?」

「…そうですね」

「オリヴィエがガルニエ家の一員となって縁続きにもなったことですし、ローラン様とは仲良くしたいと思っているのですけれど……どうやら、婚約者のキャシュフォール侯爵令嬢を怖がっていらっしゃるようで、なんだかわたくしには冷たいんですの」


悲しそうに眉を下げるロレーヌは、最初こそルイーズにも挨拶をしたものの、それからあとはずっとこの調子でアランの方だけを向いて話している。


(陰で何と言われているかは知らないけど、面と向かってここまであからさまな態度を取られたのは初めてだわ…)


ヴァンドール侯爵領に立ち寄るにあたって、領主である侯爵の弟一家についてはもちろん事前に調査済みである。嫡男のマクシムは3年前に王立学園を卒業後、父親の片腕として領地経営を行っている。学園に在籍時にはあまり目立つ方ではなかったようだが、温厚で堅実な性格で領民からの評判は上々らしい。


一方で妹ロレーヌに関しては、年の離れた女の子ということで両親に甘やかされて育ったのか、各方面であまり評判が芳しくない。学園ではオルレアン伯爵令嬢の取り巻きの一人らしいが、このオルレアン伯爵令嬢というのが何とオルセー侯爵家嫡男アルトゥールの婚約者だと知って、アランが嫌そうな顔をしていたことを思い出した。


(マクシム殿はまだしも、こっちの令嬢の方とはできれば距離を取っておきたいわね。…まぁ、向こうの方も私と仲良くする気はなさそうだけど)


この場で一番身分が高いルイーズを堂々と無視する世間知らずの令嬢に内心呆れていると、ふと思い出したようにロレーヌがルイーズの方を見た。


「王女殿下は、お生まれになってからずっと伯爵家で過ごされていたと聞きました。高位貴族のマナーについてはあまりお詳しくないでしょうから、よろしければ私が教えて差し上げますわ」

「……それはありがたいですわね」

「ロ、ロレーヌ!王女殿下に失礼だろう…!!」


内心思うところはあるものの、ルイーズはそれをおくびにも出さずにっこりと微笑んだ。妹の失態に兄のマクシムが慌てた様子で声を荒らげたが、当の本人はどこ吹く風だ。


「あら、お兄様。年長者が下の者に助言をするのは当たり前ではありませんか」


瞬間、室内の温度が何度か下がった気がした。ルイーズがちらりと隣を盗み見ると、アランが作り物のような完璧な笑顔を浮かべてロレーヌを見ていた。笑っているにもかかわらず、その視線は刺すように冷たい。


「お、お前、なんてことを……!王女殿下、妹が大変失礼を───」

「マクシム殿。お父君はご令嬢をずいぶん自由に育てられたようだ。仮にも貴族でありながら、この歳になるまで基本的な身分制度についてご存じないとは」

「──っ」


アランからの凍てつくような視線と言葉を受けて、マクシムがビクッと身体を震わせた。身分が下とはいえ、自分よりもずっと年上の人物をここまで威圧できるなんて恐ろし過ぎる。ルイーズがマクシムを気の毒に思いながら様子を窺ってみたが、ロレーヌは今の状況を理解していないようだ。


「お兄様、どうなさったの?なんだか顔色が良くないようだけど」

「………」


兄に恨みがましい顔を向けられても、ロレーヌは自分のせいだとは気づかないようで、何かを思いついたようにアランへと顔を向けた。


「アラン様、このあとお茶でもいかがですか?……あ、よろしければ王女殿下もご一緒に」


(この空気の中でアラン様をお茶に誘える神経って……しかも、私がオマケみたいになってるし)


妹の無神経発言に、マクシムが倒れそうなくらいに顔色を失っている。それをちらりと見やり、絶対零度の笑顔でアランが告げた。


「……ご令嬢。せっかくですが、お茶は遠慮させていただきます。ローラン同様、私も貴女と仲良くするつもりはございませんので。……また、この場での王女殿下への数々の発言、王家への侮辱と取られても致し方ないと思われますが、その自覚はおありですか?」

「え、そんな……!わたくしはただ、高位貴族の常識を王女殿下にいろいろ教えて差し上げようと思って───」

「高位貴族の常識?…子爵令嬢に過ぎない貴女が?」

「──っ」


ヴァンドール侯爵の姪とはいっても、あくまで彼女の身分は領地の管理を任されている傍流の子爵令嬢である。もし仮に彼女が侯爵令嬢だったとしても、王族であるルイーズにこのような態度を取れば当然問題になる。


(きっと彼女の周りの令嬢たちは、私のことを見下しているんでしょうね。周りが皆そんな態度だから、それが世間一般で当たり前だと思っているんだわ)


オルセー侯爵令嬢マヌエラは、ルイーズに王家の権力を使って無理矢理婚約者にされたアランが気の毒だ、と吹聴しているらしい。ロレーヌの仲の良い令嬢達がそれに近しい考えを持っているのだとしたら、学園に入学したばかりのロレーヌがその考えに染まってしまっても仕方ないのかも知れない。


(…とはいえ、これはヴァンドール侯爵家にとっては手痛いハンデになるわね。アラン様はもちろん、この場にいるマルセラやイレーヌが王家に報告しないわけにはいかないもの)


「王女殿下、大変申し訳ございません!妹の教育がなっていないのは、両親と私の責任でございます。……ほら、お前もしっかりお詫びをするんだ」

「え?だってお兄様……王女殿下は身分の低い女の娘だから常識を知らないって皆話して──」

「ロレーヌ様」


我ながら、ずいぶん低い声が出て少し驚いた。しかし、生みの母親のことを侮辱された怒りを抑えるのに必死で、ルイーズにはそんなことを気にしている余裕もなかった。


「わたくしの母は伯爵家の出身だけれど、そのせいで子爵令嬢である貴女よりもわたくしが常識がないとおっしゃるのかしら?」

「い、いえ…あの、それはわたくしではなくて、周りの令嬢達が──」

「周りの令嬢達というのは、具体的にはどなたのことかしら?そのような話がよく耳に入ってくるのだけれど、この際だからはっきりさせておこうと思うの。……ねぇ、よかったら教えて下さる?」

「は、はい…」


これまで大人しく話を聞いていたルイーズの態度の変化に、ロレーヌだけでなくマクシムも驚いているようだ。こんなところでデュマ夫人の教えが役に立つとは思わなかった。


「ああ、是非とも聞きたいな。僕の大事な婚約者を貶める人物が学園にいるなんて考えただけで耐えられないからね」


満足げにグレーの瞳を細めながら便乗したアランを見て、「ひっ」とロレーヌが息を飲んだ。今になってようやく事態を飲み込めたらしく、借りてきた猫のようにすっかり縮み上がってしまっている。


(尋問するみたいで可哀そうだけど仕方がないわよね。多少なりとも腹芸ができないようでは、貴族令嬢としてやっていけないもの)


たとえ心の中ではルイーズを快く思っていなかったとしても、それを仮にも王族である本人の前で言動に表すなどもってのほかだ。これまで甘やかされて育ったであろうロレーヌにはいい薬になるに違いない。


嘘を言ったり誤魔化したりしたら後で必ずバレるとアランに脅されながら、ロレーヌはルイーズに関する噂を吹聴している人物の名前を挙げていった。ルイーズが考えていた通り、やはりオルレアン伯爵令嬢を中心とするグループがその中心であることがわかった。


ここまでお読みくださいまして、どうもありがとうございました。

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